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【連作2回】テレビゲームがない僕らは 〜32ビットのジュブナイル〜

1998年も夏が通りすぎた。
僕は小学校最後の夏休みを無難に、ただただ無難に終えた。

そういえば、甲子園でヒーローになった怪物・松坂大輔はマスコミの格好の的になった。

僕はといえば、ゲームソフト「ポケットモンスター」を持っていないため、クラスの話題から外れるようになった。
ちょっと前までは、クラスでは人気者だったのに放課後になってからのそれが、日中にも浸食し始めた。

休み時間。みんなが「ポケモン言えるかな?」を唱和している。
全く意味がわからなかった。
聞こうともしなかった。12歳にして、聞くのは違うと思った。

僕には4つ上の姉がいた。
その影響か、Jポップに興味が湧くようになり、田舎でも噂が轟いてきていた、平成の爽やかフォークデュオことゆずにハマっていた。
なんでも、この年、1998年は宇多田ヒカル、椎名林檎、浜崎あゆみ、aiko、MISIAなど今も名高い歌姫がデビューした音楽界の『革命』の年とも言われていた。

それが、片田舎のクラスじゃ「ポケモン言えるかな?」だ。
イマクニだ。
かと言って、僕には小学6年生からサブカルに進む文化的教養もなかったので、必死にこの呪文を覚えることになる。

モンスターを一匹も知らない僕には、中国王朝を暗記するくらい難易度が高かった。

家で勉強などしなくても高得点を取り続けた僕が、お風呂でこの暗記用語を唱和するモノだから、お風呂上がりに母親から不思議がられたのも無理はない。

僕は世間で迎合しようとしていた。


でも。
そんなときもアラヤくんは机の上で、図書館にあった「火の鳥」を読んでいた。彼のメガネのレンズはなぜかいつも汚れている。

僕と同じ、テレビゲームを持たないアラヤくん。結局、彼とは2学期になっても話したことはなかった――。


(STAGE2 END  ~トゥービーコンティニュー)

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