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椅子の張り替えって見た目の5倍はめんどくさい

わたしがいる工房は主に北欧ヴィンテージの椅子やソファーの張り替えをやっている。家具ショップさんが海外から買い付けてきた椅子の張り替えをうちの工房に頼むという流れ。新品の椅子張りと1番違うのは、張り替えるために古い布地、下地やウレタンを”めくる”作業が発生する。このめくりが工賃は取れない割にめっちゃめんどくさい。椅子張りはタッカーを使ってホッチキスの芯のような”ステープル”を木部に打ち込んで張っていて、それをほじり起こしてニッパーで抜いていく。これもまぁ地味に時間がかかる作業なのだけど、5倍めんどくさいというのは、前に張った人が横着してその前のステープルを抜き切らずに上からさらにステープルをガツガツ打ち込んでたりすることがめっっっちゃあるのだ。ステープルを抜き切って布地をめくったら、その前の布地が出てきたときの怒りたるやである。布地のマトリョーシカなのだ。そういうときは欧州の顔も知らない張り師を思い浮かべて心でガン飛ばしながら黙々とめくるしかないのだ。まぁ、見えないところだよ、見えないけどさ、けどさぁ!である。

ショップさんによりけりだけど、布地をめくってまたチャチャっと張るもんなんでしょと思っている人たちも多いので、なんでそんなに時間がかかるのかと言われてしまう。違う、違うんだ、このソファーのひじは、布地をめくってウレタンをはがしたらその下のゆるんだ下地のステープルをとって再度パーンと引っ張って張らないといけないの、そこんとこよろしくだよ!と心でつぶやきながら作業をすすめる。

こういうことってほぼ全ての業種にあるんだと思う。新卒で入ったIT系の会社で、プログラミングのプの字も知らなかったわたしは、関わっていた部署のプログラミングリーダーに、これこれこういうツールが欲しいんですけどすぐ作れますか?と言って普通に静かに真顔で「むりです」と怒られたことがある。そのときは、ちぇっちぇっと思ったが、その後自分でプログラミングを勉強してみたときにロゴを左端から右端に移動させるというプログラミングとさえ呼べない初期のHTMLでつまづき発狂して、当時のプログラミングリーダーがなぜあの顔をしたのかやっとわかった。

やらなきゃわからない。でも全てのことを経験できるわけではないから、全ての仕事は想像の5倍はめんどくさい工程があるんだろうな、を前提にやっていけたらと思う。

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