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#読書感想文

『源氏物語』の物の怪は「愛の亡霊」なのか?

『源氏物語論』吉本隆明 『源氏物語』の解説本というよりも吉本隆明が『源氏物語』を通して文学をどう読むのかという本であり、あとがきに古典の学者に細かいところを突かれていた。それは吉本が、原典主義者でもなく、また登場人物のモデル探しもしないというように、あくまでも『源氏物語』は文学として読むのであり、『源氏物語』を語りながら彼は文学を語っているのだ。 例えば『源氏物語』を勧めるのなら手に入り安い与謝野源氏が誤訳もあるがいいという。それは与謝野源氏が彼女の『源氏物語』を構築出来

叱られる

 やはり、知ったかぶりはするものではない。  こちらはテキトーに口にしたつもりでも、相手がその内容を確固たる知識として吸収する可能性がある。そしてそういう知識は、また別の人に話されることによって広まっていく。出発点にはあった「テキトー」という要素を抜きにして。 *  先日、かつて家庭教師で担当していた学生さんと会う機会があったのだが、会って早々「これ見て、先生」と叱られてしまう。  叱られの原因は、それこそ「知ったかぶり」である。  見せられたのは、加賀野井秀一の『感情的

國分功一郎『近代政治哲学』(ちくま新書)を読んで

 こんにちは。柚子瀬です。  先日、國分功一郎さんの『近代政治哲学』(ちくま新書)を読み終えたので、その感想を書いていこうと思います。今年はX(ツイッター)に簡単な感想──伝えられる情報量が限られているのでもはや読書報告といえるかもしれない──を投稿するだけでなくて、なるたけnoteにきちんとした感想を投稿していけたらいいなと考えています。  まず、なぜ本書を読もうと思ったかというと、第一に國分さんの作品だからというのが大きいですね。内容の如何にかかわらず、これまで読んだ

「実験の民主主義 トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ」~不確実な時代における"プラグマティズム"と"編集"の可能性~

本の表紙を見ると、「宇野重規著」「聞き手 若林恵」と記載されている。これは罠だ。読み終わった後にそう思った。 どう考えても、若林恵は"聞き手"の定義を大きく超えている。後半はむしろ宇野重規よりも話している量が多いのだから。 しかし、ここにこそ、本書の独自性と魅力がある。 はじめに基本的な情報を確認しておくと、東京大学社会科学研究所の教授を務める宇野重規の話を、個人的にも大好きな編集者である若林恵が聞き手として行われた、計20時間にも及ぶ対話から生成されたのが本書である。 副

兄弟姉妹はなぜ大人になると離ればなれになる? 【新人読書日記/毎日20頁を】(34)

 「人間性はどこから来たか」、101-120頁、読了です。  日本の生態学者、文化人類学者である今西錦司により、「人間家族」になる必要な条件が4つにまとめられています。ここで著者は4つの条件の1つ「近親相姦の禁忌」(インセスト・タブー)について論じています。動物の世界でもまれではない現象ですが、その根本的な要因はやはり繁殖です。近親の結合で繁殖にとって様々な不利な状況が発生するからです。  インセスト回避の一例として、子ども時代を一緒に過ごした兄弟姉妹は、大人になって恋愛

言葉に向き合う感覚と仕事|私のことば体験

本が好きだ。読みかけの本は5冊以上あるし、買って読めていない本も数冊あるのに、まだ本を探してしまうくらいには好き。 忙しくなって余裕がなくなると本が読めなくなる。そんな状況が、疲れてるな~とか、そろそろ休んだ方がいいなあと判断するバロメーターになるくらいには本が好きだ。 それなのに・・・、子どもへの読み聞かせについては、さぼりがちだった!!なんなら小3のお姉ちゃんにも読んでもらってと、6歳と4歳の娘たちにお願いしちゃってた。そしてめちゃ反省した。この本を読んで。 保育園

手紙の書体は作家そのものだった

『作家たちの手紙—Writers’ Letters』マイケル・バード、オーランド・バード , (監修)沼野充義 見開きに作家の自筆、手紙の翻訳、そして人物とその時の状況が説明されていて興味深い。 書簡体小説や作家の手紙は魅力的なものが多いが、一枚だけでは状況とかよくわからないので説明文でなるほどと思うが、この本の第一の魅力はなんと言ってもその書体だろう。書体が性格に出るようで面白い。 シャーロット・ブロンテは教師らしく整った筆跡なのだが、内容はかなり感情的にベルギー人の

Dの世界の日本文学を真剣に考えてみた/『力と交換様式/柄谷行人』読書感想文

画/透視 Clairvoyance /村上隆 より   10年ぶりに長編小説を書いています。ここ半年間は小説の題材を求めて、高野山で結縁灌頂を受けたり、ChatGPTにメタフィクションを書かせたり、AV監督さんとその仲間たちと対話したりと、とても自由な時間を過ごすことができています。中でも、学生時代に学んだ本、好きだった本をもう一度手に取ることができたことは、幸いでした。 その流れから、今回柄谷行人の最新作『力と交換様式』を読みました。なかなか読み応えのある読書体験となり

ヒトの言葉 機械の言葉:「人工知能と話す」以前の言語学/川添愛【読書ノート】

「言葉」……それは私たちが日常の中で、何気なく、そして瞬時に扱う魔法のようなもの。我々人間にとって、この魔法の使い方は自然で、子どもの頃から身についている能力のように思える。 そんな私たちが、この魔法を機械に教えることは容易だろうと信じていた。だが、この魔法の背後には複雑なルールや知識が隠されていることに、この冒険の手引きとも言える本を開くと気づかされる。 この本の中では、言葉の背後に隠された秘密や、文法の緻密な構造、さらには私たちが持つ意図の奥深さを、冒険家のように探求し

歴史の扉Vol.11 ポテトチップスの世界史

ライターの稲田豊史さんによる『ポテトチップスと日本人—人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新聞出版、2023年)を読んだ。ポテトチップス好きの私としては、カバーの装丁がポテトチップスのようであるのも良い。思わず手にとってしまうではないか。 世界史的な観点から、いくつか気になった点を紹介がてら整理してみよう。 ポテトチップスと有色人種 ポテトチップスの歴史はそんなに古くないようだ。一般には「アフリカ系アメリカ人の男性を父に、ネイティブアメリカンであるモホーク族の女性を母に持つ

温もり

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旅とブンガク|太宰治に呼ばれて東京・三鷹と青森・津軽へ

これを「呼ばれた」と言わずしてなんというのだろう。 2022年、それぞれ別の目的で行ったところがたまたま、太宰治ゆかりの場所だった。太宰治が晩年長く暮らした町・三鷹と、太宰治が生まれた土地・津軽。 太宰治に影響されたイタすぎる中高生時代文学好きあるあるだと思うのだが、10代の頃は太宰の作品にけっこう影響を受けていた。国語の授業中に教科書じゃなくて、こっそり太宰の小説を読むのがかっこいいと思っていたイタすぎる中高生時代。読書感想文ではじめて県で表彰されたのも太宰治の『斜陽』

驚き

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2022年に読んだ本からオススメの10冊

去年(2021年の読書まとめ)に読書欲が復活してから、それなりに読書を継続している。ケニアに住んでいる間は生活の一部に読書があるし、旅をしている間も、隙間時間はそれなりに読書が埋める。 今年はケニアから出発して、一度帰国して宮古島に。ラスベガスへのポーカー長期遠征を経て、メキシコを横断。そのままコスタリカに入って、結局、年末まで中南米で過ごした。一週間ほど前に日本に帰ってきたけれど、また来週からは韓国へポーカーの旅に出る。 テスカトリポカ(佐藤究)ジャンルを問わず、今年一