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2024年4月の記事一覧

東洋と西洋の狭間で――#6 ルイーズ・アードリック『赤いオープンカー』(1)

僕が「人文系ワナビー」だったころ  今ここではない世界に強く憧れていた。高校生のころ、浅田彰の『構造と力』(中公文庫)を読んでニューアカデミズムにはまり、その源流ということで、文化人類学者である山口昌男の『本の神話学』(中公文庫)や『歴史・祝祭・神話』(中公文庫)などを読んだ僕は、世の中にこんなに面白い学問があるのか、と思って圧倒されてしまった。とにかく80年代の山口昌男はものすごく輝いていた。世界中の有名な知識人と対談し、ありとあらゆる本を読み、様々なテーマを論じ、歴史学

『源氏物語』の物の怪は「愛の亡霊」なのか?

『源氏物語論』吉本隆明 『源氏物語』の解説本というよりも吉本隆明が『源氏物語』を通して文学をどう読むのかという本であり、あとがきに古典の学者に細かいところを突かれていた。それは吉本が、原典主義者でもなく、また登場人物のモデル探しもしないというように、あくまでも『源氏物語』は文学として読むのであり、『源氏物語』を語りながら彼は文学を語っているのだ。 例えば『源氏物語』を勧めるのなら手に入り安い与謝野源氏が誤訳もあるがいいという。それは与謝野源氏が彼女の『源氏物語』を構築出来

This is my partner

前回ブルージャイアントを紹介しましたが、 映画映画の続編にあるブルージャイアントシュプリーム。ドイツに渡った主人公 宮本大がほぼ唯一と言ってもいいほどの大きな荷物を指差していう言葉です。 主人公のお兄さんがなけなしのお金でプレゼントしたサックスを主人公の大はずっと河川敷で引き続け、ジャズミュージシャンとしてビッグになって行くお話。 自分も映画を機に漫画読んでいるのですが、今回スプリームで刺さった言葉が、 This is my partnerという言葉でした。漫画の中では

【SDGsとは一体、何だったのか?】第2回「持続可能な開発」概念のルーツはどこにある?

*** 【連載第2回】「持続可能な開発」概念のルーツはどこにある? 1SDGsから何を連想する?  みなさんは「SDGs」と聞いて、どんなことを思い浮かべるだろうか?  ある人はSDGsとは「エコ」のことだと考えるかもしれない。レジ袋削減や気候変動対策が、生活と大きな関わりがあることも大きいだろう。  またある人は差別をはじめとする社会問題の解決や「多様性」のことを、またある人は、まちづくりや地域おこしのことがSDGsなのだとイメージするかもしれない。世界の貧しい人を

酩酊のタイポグラフィ

春の野は百花繚乱、宴に伴する盃の装いも古今東西色々。釉の色肌のみならず幾何学紋様に花鳥風月、そして「文字」もまた装飾として器に配されます。 呑み喰いのための道具に「文字」が記されるその意味は?盃中の詩歌は酒で揺らぎ、猪口の銘柄を見つめてはその味に浸る。呑んで詠んで呑まれて読んで・・・読みすすめば酒もすすむ、ふざけた小さな「酔む」酒器たちで、春の一笑をどうぞ。

“欲望“がデザインする、あたらしい漁業と食文化のかたち ── 仲買人・長谷川大樹

魚の仲買人という職業は江戸時代に始まったといわれ、魚の鮮度を見分ける目利きとしての役割を担っています。大まかな仕事は、魚市場に持ち込まれた魚介類に値段をつけ、競りや入札を経て漁師たちから買い取り、飲食店や小売店に卸すこと。漁業という第一次産業と、飲食店・小売店という第三次産業を取り次ぎ、落札額にマージンを乗せて取引することで利益を得るのが一般的です。 神奈川県横須賀市にある長井漁港で、週の大半を過ごす仲買人の長谷川大樹さんの活動は、いわゆる仲買人の枠だけにはとどまりません。

人新世という言葉を否決したからといってその現実が消えることはない。

先ほど、日経新聞に掲載されていた、「地質時代「人新世」案、学会否決 社会で浸透も議論に幕」という記事を読んだ。 ということなのだが、それはつまり、地質学者の世界において否決された、ということである。じつをいうと、人新世をめぐっては、たとえば地球システム科学者によっても提起されていて、2018年には、「ホットハウスアース」仮説を提唱する論文が出された。日本語訳も出ているが、その冒頭にはこう書かれている。 つまり、温暖化の観点から、今が人新世に入りつつあるということを主張する

大学で講義した

今日は京都大学で講義をした。新入生向けに開講されるILASセミナーというのがあって、その枠で講義した。大学では、どういうわけか院生相手にこれまでしてきたのだが、学部生相手に授業したのは久々で、緊張した。 講義名は、「人新世の「人間の条件」を考える」というもので、概要は下記のとおりである。 どれくらい受講生が来るのか心配だったが、わりと来てくれた。文学部、法学部、経済学部、総合人間学部、農学部など、多彩である。よく考えてみると、合格発表からまだ一ヶ月程度で、つまり、受験勉強

福岡エリア、滞在するなら

先日、平倉圭さんとのメールのやりとりで、福岡の滞在エリアのオススメを案内する機会があったので、少し編集してこちらに載せます。他にもたくさんありますが、私の観測範囲でということで。 (1)市内 柳橋連合市場周辺(渡辺通駅) 天神も博多も近く利便性が高い 古い市場が面白いけど、一部再開発が始まってしまっています けやき通り・護国神社周辺(六本松駅/または赤坂・大濠公園駅) 天神や大名が近く利便性が高い上に、大濠公園日本庭園、舞鶴公園、福岡市美術館などのランドマークがすぐそば

現代の若者は何に幸せを感じているか——見田宗介『現代社会はどこに向かうか』を読む

見田 宗介(みた むねすけ, 1937 - 2022)は、日本の社会学者。東京大学名誉教授。学位は、社会学修士。専攻は現代社会論、比較社会学、文化社会学。瑞宝中綬章受勲。社会の存立構造論やコミューン主義による著作活動によって広く知られる。筆名に真木悠介がある。著書に『現代社会の理論』、『時間の比較社会学』など。 本書『現代社会はどこに向かうか』は2022年に亡くなった見田宗介さんの遺作とでも呼ぶべきものである。80歳を超えて、豊富な調査資料にもとづく徹底した分析と深い洞察に

【ニッポンの世界史】#35 進む「世界史離れ」:文化圏学習・ナチカル・共通一次

 これからいよいよ「ニッポンの世界史」にとってきわめて重要な1980年代に足を踏み入れます。  この10年を通して、世界史にいかなる意味がつけ加わり「世界史必修化」に至るのか。  ”公式” 世界史と ”非公式”世界史の輻輳を追うことで、経緯を浮かび上がらせていきます。 「文化圏」学習の徹底:1978年度指導要領改訂  そのためにまずは "公式" 世界史の動向から確認していきましょう。  1970年度の学習指導要領改訂で導入された「文化圏学習」は、古代文化につづく時代を、

SDGsとは一体、何だったのか?【世界史でよむSDGs】はじめに

いまや日本のSDGsは、空虚な「記号」である  2015年に採択されたSDGs(国連持続可能な開発目標)は、スタートしてから早9年目を迎えようとしている。  SDGsの実施年限は2030年だから、まだあと6年ちょっと、残されていることになる。  にもかかわらず「SDGsとは一体、何だったのか?」などと問うのは、ちょっと時期尚早ではないかと思われるかもしれない。  最初に筆者の立場を明確にしておけば、日本におけるSDGsはすくなくとも本来の趣旨に沿った受容には失敗している

【ニッポンの世界史】#34 1970年代のまとめ

 これまで1970年代に多くの回を費やしてしまいました。  それも無理はありません。  こうやってみてみると、1970年代の「ニッポンの世界史」には、これまでになかった多くの新しい要素がつけ加わり、そうした「転回」こそが、1980年代以降の転回に大きな影響を与えることとなるからです。  以下に整理しておきましょう。  たとえば ①文化圏学習は、比較文明論、国際化言説を通してビジネス教養的世界史へ。  ②マルクス主義批判(政治・経済史偏重)は、実証主義や社会史への関心

叱られる

 やはり、知ったかぶりはするものではない。  こちらはテキトーに口にしたつもりでも、相手がその内容を確固たる知識として吸収する可能性がある。そしてそういう知識は、また別の人に話されることによって広まっていく。出発点にはあった「テキトー」という要素を抜きにして。 *  先日、かつて家庭教師で担当していた学生さんと会う機会があったのだが、会って早々「これ見て、先生」と叱られてしまう。  叱られの原因は、それこそ「知ったかぶり」である。  見せられたのは、加賀野井秀一の『感情的