NTT都市開発 デザイン戦略室

新たな価値を生み出す街づくりについて考えるため、「デザイン」を軸に社会の変化を先読みす…

NTT都市開発 デザイン戦略室

新たな価値を生み出す街づくりについて考えるため、「デザイン」を軸に社会の変化を先読みする記事を展開していきます。HP:https://www.nttud.co.jp メディアポリシー:https://www.nttud.co.jp/socialmedia_policy.html

マガジン

最近の記事

From our Editors ── 今この瞬間も誰かが街をつくっている

【まちの読み方 1】 “街の気配”に想いを馳せる 朝吹真理子さんがエッセイで綴ってくれた「かつて生きていた、名前もわからないひとたちの気配」を感じる体験。あるいは、井上聡さんが教えてくれた「沖縄戦の悲しい歴史が刻まれたガマ(洞窟)で遺骨収集に参加した移住者を、地元の人たちが仲間として迎え入れてくれた」というエピソード。 そうして街の歴史をたどり、文化を学びながら、その場所を形づくってきたものや、かつてその場所にいた人々の“気配”に想いを馳せてみる。リアリティを持って過去を

    • Book Guide 3 ── 「まち」の、”まだ分配されていない”未来

      『みんなが手話で話した島』 ノーラ・エレン・グロース 著 /  佐野正信 訳〈早川書房〉 20世紀初頭まで誰もがごく普通に手話を使って話していた ── アメリカ・ボストンの南にあるマーサズ・ヴィンヤード島の当時を知る人たちの証言を集めながらその島の社会文化を追った本書には、(音の届かないくらい)遠くの船乗りたち同士で手で会話をすることや、郵便局に集まり手話で話す際の身体の使い方など、〈言語からなる様式〉が自然にうまれてきた様子が描かれている。今回、私たちの街歩きもまた言語か

      • ウーリツァの娘 ── 津久井五月

         ユリア・ウリツカヤ。  通りの真ん中に立って、わたしのもう一つの名を、小さく唱えてみる。山村優里亜ではなく、ユリア・ウリツカヤ。その音楽的な響きが少し勇気を与えてくれる。  ウリツカヤというのは母の姓だ。わたしが行ったこともない国の、聴き取れも話せもしない言語体系の中にある、一つの名前だ。  ここ東京では、わたしは山村であってウリツカヤではない。わたしがウリツカヤだったことは一度もない。それでも、その名の中に残響する“ウーリツァ”という言葉が、わたしをここに導いたのかもしれ

        • Book Guide 2 ── 「まち」は、オルタナティブを求めている

          『第三次産業革命: 原発後の次代へ、経済・政治・教育をどう変えていくか』 ジェレミー・リフキン 著 / 田沢恭子 訳〈インターシフト〉 著者であるジェレミー・リフキンは経済学者として世界的に高い評価を受けています。副題のとおり、経済・政治・教育を変えていくためのヒントになる、興味深い本です。リフキンは特にこの数年、経済学の世界で最もインスピレーションを与えてくれる学者の一人で、中国やドイツ、EUのグリーンエコノミーとポリシーの中心的なアドバイザーを務めています。この本は、今

        From our Editors ── 今この瞬間も誰かが街をつくっている

        マガジン

        • まちのテクスチャー
          NTT都市開発 デザイン戦略室
        • Field Research2019 #03原宿
          NTT都市開発 デザイン戦略室
        • Field Research2019 #02山梨
          NTT都市開発 デザイン戦略室
        • Talk Night
          NTT都市開発 デザイン戦略室
        • Field Research2019 #01尾道
          NTT都市開発 デザイン戦略室
        • Field Research2018 #02デンマーク
          NTT都市開発 デザイン戦略室

        記事

          道がおぼえていること ── 朝吹真理子

           じぶんは忘れていても、道のほうが覚えていてくれることがたくさんある。通っていた小学校の手前の歩道橋をひさしぶりに登ったとき、十歳ごろの歩幅を急に思い出したことがあった。体の感覚と同時に地下鉄の排気口から吹いてくるなまあたたかいにおいを、大きな獣のため息のように思って嗅いでいたのも思い出す。歩道橋が残っていなかったら永遠に忘れていたかもしれない。  道に流れている時間は、歴史を辿ったり、地質をたしかめるときは、玉ねぎの薄皮のように、順を追って、層状に重なっているものだけれど、

          道がおぼえていること ── 朝吹真理子

          Book Guide 1 ── 「まち」を、読み替える

          『既にそこにあるもの』 大竹伸朗 著〈筑摩書房〉 始めから美を追求しては決して表れず、多分に偶然が絡む世界。〈そんな徹底して人間の行為に対峙した「美の領域」〉を、現代美術家の大竹伸朗氏は本書の中で「雑の領域」と定義する。その領域は〈この地球上にはいつの時代にもある一定量存在し、それはこれだけ人間に侵略しつくされた都市の中にも、堂々と人間の目の意識に幕を張りそこに在る様な気がする〉という。大竹氏は雑の領域を、ニューヨークの画材屋の地下にある無造作なキャンバス売場で発見するとい

          Book Guide 1 ── 「まち」を、読み替える

          番匠カンナ/鈴木綜真/竹村泰紀 ── 都市を見つめる変化の兆し

          01 都市の隙間への巣食い、あるいは救い ── 番匠カンナ(バーチャル建築家)ギャル雑誌『egg』の編集長は、もう聖地はなくなったと言った。都市がより快適により洗練されるほど、熱は都市空間を求めなくなった。代わりに匿名掲示板、動画サイト、SNSが路上になり、現実の地名はカルチャーの表舞台から消えた。 この半壊した雑居ビルは、反計画とも呼べる空間の質を提供する。ここにある理想の隙間は、人間の熱を受け入れるのに十分な無遠慮さを備えている。だがここに行き着くのは容易ではない。もっと

          番匠カンナ/鈴木綜真/竹村泰紀 ── 都市を見つめる変化の兆し

          和田夏実/牧原依里/西脇将伍 ── 手話が街を”ハック”する

          (7つの質問)手話の身体感覚で「まちを読む」試み Q.1 手話をしながらの街歩きを通して、気づいたことや感じた点があれば教えてください。 西脇将伍 道や周りの状況に合わせて、身体の使い方が変わることに気づかされました。キャットストリートは人通りが多いけどクルマが少なくて道幅が広いから、手話をしながらでも歩きやすかった。 和田夏実 街を相手に「コンタクト・インプロビゼーション」(相手の身体や空間との接触を意識しながらデュエットで踊る即興ダンス表現)をやっているような、街の形

          和田夏実/牧原依里/西脇将伍 ── 手話が街を”ハック”する

          平野紗季子 ── 勝どきはケンタウロス

          (7つの質問) 街とお店の「そこにしかない物語」 Q.1 勝どきの街歩きをご一緒させていただきましたが、この街に心惹かれた理由は何でしょうか?   古い時間と新しい時間が隣り合う場所を、歩いてまたぐことのできる街が好きなんです。リノベーション途中の旅館のような……ロビーは改装してピカピカなのに、別館へ足を踏み入れたら昭和そのものだった感じのような(笑)。ギリシア神話に出てくる半人半馬「ケンタウロス」のように異質な時空が合わさっている感じにゾクゾクします。   特に勝どきの街は

          平野紗季子 ── 勝どきはケンタウロス

          井上 聡 ── 沖縄・読谷村で拾った“スポークン・ワーズ”

          “この沖縄そばをぜひ、みんなに食べてもらいたくて(笑)” 「この沖縄そばをぜひ、みんなに食べてもらいたくて(笑)。やちむん(焼き物)や琉球ガラスのお店もあるから、観光客が楽しみながら地元作家たちの作品に触れられる、大切な接点になっていると思う」 “単に『好き』でもいい。エコでありエゴでもある” 「食品といえば、デンマークはオーガクニック食品でも世界をリードしているんだ。日本は認証こそ厳しいけど、水へのこだわりなんかを見ても、メンタリティーはオーガニック食品と相性がいいと

          井上 聡 ── 沖縄・読谷村で拾った“スポークン・ワーズ”

          井上 聡 ── 沖縄・読谷村の“まれびと”

          (7つの質問)「まちを読む」ことは「人を読む」こと Q.1 読谷村へ移住した理由、心惹かれた点は?   僕自身、日系デンマーク人として生まれ育ってきて、白人社会の中で常にフラストレーションを抱えてきたから、いずれ家族と一緒に海外に住みたい、だったらスペインのバレンシアがいいなと考えていたんだ。でもコロナ禍でスペイン政府の対応がスムーズじゃなくて、諦めざるを得なかった。その時に娘が「日本の高校に行ってみたい!」と言い出して。 これは思いがけないことだった。僕が子どもの頃と比べ

          井上 聡 ── 沖縄・読谷村の“まれびと”

          From our Editors ── 二つとない地図を描く

          止まることなんて想像もしていなかった「まちの機能」が停止した2020年3月 ──。COVID-19のパンデミックは、あらゆる生活様式を飲み込み、私たちが暮らす世界の様相を一変させました。 もちろん、ネガティブな変化は数知れず。しかし、私たちは引き換えに、新たな街の「読み解き方」を手にしたともいえるかもしれません。 例えば、今まで素通りしていた路地に足を踏み入れたり、「もう都会にいる意味ってないかもね」と思い立って見知らぬ街に移住したり、バーチャル空間上に現れた街でもう一つ

          From our Editors ── 二つとない地図を描く

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」⑤ “自己と利他の関係性デザイン”をめぐる未来の展望

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」を振り返って 今回の探索テーマ「“自分らしさ”と“他者・社会の幸せ”が共存するライフスタイルデザイン」は、まさに現代を生きる私たち自身の未来を問う命題でした。一人ひとりが異なる価値を見出しながら持続的に共存できる仕組みを、どのようにしてデザインするべきか。自分らしさを表現することが社会的な行動と融合を果たしたライフスタイルとは、果たしてどのようなものなのか。 そのために、まずは自分らしさ、自他の共存、社会の幸せとい

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」⑤ “自己と利他の関係性デザイン”をめぐる未来の展望

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」④ 遠山正道氏と考える“社会的私欲”でつながるコミュニティの行方(後編)

          憧れの追求が共感を呼び、コミュニティを育む 門脇 遠山さんご自身の人生のなかで、それぞれの場面ごとにコミュニティが分散的・分人的に存在している様子が浮かび上がってきました。それを必要に応じてつなげたり、自然につながったりすることで、新たな展開が生まれるわけですね。 遠山 そんな感じです。その意味で初めての個展は、私にとって33歳にして“初めての意思表示”だったと思います。三菱商事の社員でありながら絵の個展を開催するというのは、会社にあるどの文脈ともつながらない。当然、不安

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」④ 遠山正道氏と考える“社会的私欲”でつながるコミュニティの行方(後編)

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」④ 遠山正道氏と考える“社会的私欲”でつながるコミュニティの行方(前編)

          遠山正道さんに聞く、私欲が生み出す社会とのつながり YOMIKO 小林 遠山さんは株式会社スマイルズの代表として「Soup Stock Tokyo」をはじめとする数多くのプロジェクトを展開しながら、個人の活動として“社会的私欲”という概念を提唱するなど、独自の視点から社会と向き合ってこられました。本日はぜひ、ご自身の取り組みについてお話をお願い致します。 遠山 「“自分らしさ”と“他者・社会の幸せ”が共存するライフスタイルデザイン」……とてもいいテーマですね。このうち“自

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」④ 遠山正道氏と考える“社会的私欲”でつながるコミュニティの行方(前編)

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」③ 龍崎翔子氏と考える“自分らしさ×利他”のデザインとは(後編)

          徹底した利己の姿勢が、他者のメリットにつながる理由 門脇 これからの社会を考える上で、今やさまざまな場面で多様性というキーワードが挙げられています。龍崎さんご自身は、多様な他者が共存する方法についてどうお考えでしょうか。   龍崎 他者の生きづらさに想いを馳せる以前に、まず自分の生きづらさを把握することが大事だと思います。それが自分自身にとってより良い選択肢やソリューションにつながり、結果的に他者にもメリットをもたらしていく。つまり徹底して利己的であることが、究極的には社会

          「都市と生活者のデザイン会議 WE + WELLBEING」③ 龍崎翔子氏と考える“自分らしさ×利他”のデザインとは(後編)