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番匠カンナ/鈴木綜真/竹村泰紀 ── 都市を見つめる変化の兆し

フィジカル/デジタルの空間的融合、都市データの利活用、そして気候変動......。街づくりのパラメーターは大きく変わりつつあります。その変化の兆しを、未来的視座を持つバーチャル建築家・番匠カンナさん、都市研究家・鈴木綜真さん、建築思想家・竹村泰紀さんの3人の眼は、すでに捉えているようです。ビジュアルとテキストから浮かび上がる三者三様の「まちのテクスチャー」とは? 「まちを読む」をテーマに、多様な視点のゲストを招いてお届けするデジタルZINE「まちのテクスチャー」シリーズ第6回。

Title Visual by Taiki Takemura

01 都市の隙間への巣食い、あるいは救い ── 番匠カンナ(バーチャル建築家)

撮影地:半壊した雑居ビル(都内某所)
Photography by Kanna Banjo

ギャル雑誌『egg』の編集長は、もう聖地はなくなったと言った。都市がより快適により洗練されるほど、熱は都市空間を求めなくなった。代わりに匿名掲示板、動画サイト、SNSが路上になり、現実の地名はカルチャーの表舞台から消えた。
この半壊した雑居ビルは、反計画とも呼べる空間の質を提供する。ここにある理想の隙間は、人間の熱を受け入れるのに十分な無遠慮さを備えている。だがここに行き着くのは容易ではない。もっと確実に、誰もが、都市から計画を剥ぎ取り、自らの場所を埋め込むことができる未来が欲しい。街路から隔離された暗がりの代わりに、クローズドなバーチャル空間とARによって不法占拠された裏道が、次の都市を形成するだろう。

番匠カンナ|Kanna Banjoバーチャル建築家、idiomorph主宰、株式会社ambr CXO「いまないところに空間を生む」というコンセプトのもと、リアルとバーチャルの境界線に新しい空間を創造する。ambr CXOとして「TOKYO GAME SHOW VR」「マジック:ザ・ギャザリング バーチャル・アート展」ディレクション、idiomorphとして「PARALLEL SITE」コンセプト設計、「バーチャルマーケット」会場設計、XR系事業の企画・デザインコンサルティングなどを手がける。idiomorph



02 just jamming ── 鈴木綜真(都市研究家)

撮影地:ロンドン・ホワイトチャペル地区
Photography by Soma Suzuki

最近はクルマの動きと各交通モーダルに対して、都市にとっての「良い形」を分析・シミュレーションする仕事をしています。クルマの移動の自律性が高くなると都市の形はどのように遷移するのか~馬車~鉄道~クルマ~自動運転とか、交通によって都市の形って随分変わってきたよなという、平たいけれど探求のしがいのある領域です。
自律的でマクロに移動の調律が整う世界において、それとは関数が異なる人間の動きはどのように映るのか。これは、数年前に住んでいたロンドンのホワイトチャペルというエリアで撮影した写真。真ん中に映るクルマを運転する彼/彼女にとってはこれが最適な形かもしれないし、個人と全体、何を持って都市の調律が整ったと定義するべきなんだろうか。

鈴木綜真|Soma Suzuki都市研究家、株式会社Spatial Pleasure代表取締役1993年、大阪市生まれ。京都大学物理工学科を卒業後、MITメディアラボのDCI(デジタル通貨イニシアチブ)/ OMI(音楽著作権のオープンソース・プラットフォーム)に参加。その後、ロンドン大学UCL Bartlett School修士課程で都市解析を学ぶ。2019年5月にSpatial Pleasure(旧Placy)を設立。WIRED.jp にて「Cultivating The City OS」連載中。Spatial Pleasure



03 場所と瞬間 ── 竹村泰紀(建築思想家)

撮影地:スターバックスコーヒー二子玉川公園店
Photography by Taiki Takemura

写っているのは少し雑然とした街並み、日本庭園と植林された里山、手元には珈琲と小麦粉でできたスコーンの残りかす、2冊の本とノート、そしてみずからより遥かに大きな哺乳類(わたし)の間合いの中で、堂々たる立居振舞いで小麦の残りかすを物色する小さな鳥類(スズメ)である。
この頃、私は本を書いていた。写真に写っている『都市で進化する生物たち』と『家は生態系』はその最も需要な参考文献のうち2冊だ。現代都市が、いかに新たな棲み処(すみか)としてヒト以外の生物たちに再定義され、新しい種類の「森」となりつつあるのか、なぜそれが必然なのか、では未来の都市は何になるのか。その問いを突き詰める執筆と学びの合間に、街中で“なぜか”よく見かけるスズメが現れた。

竹村泰紀『Urban Pocket Soundscape』(2021)より

現代都市のサウンドスケープを、背景音の音量(dB)と、音源の種類ごとに色分けしたもの。都市が、都市に住まうヒト以外の住人たちによっていかに「再定義」されているのかを、音という観点から可視化を試みた。都市の複雑な立体構成の中に見え隠れする多様な生き物たちが、都市機能を上書きし、都市生活の体験を塗り替えてゆく。

〈上図の説明〉
右下のバロメーターのように、都市空間の色が灰色から橙色に近づくにつれ背景騒音が大きい領域を表す。また中央の色とりどりの同心円は、都市の幹線道路の背後に生まれた音のポケットに、さまざまな自然現象(青と緑)、そして生き物たち(ピンク)の鳴き声などがひしめきあっているのを表している。下側の五線譜のような場所に描かれた図形は、機械、自然現象、生き物たちの鳴き声の波形を色分けし、種類ごとに描いたもの。

竹村泰紀|Taiki Takemura建築思想家1990年、東京都生まれ。慶應大学理工学部を卒業後、2015年からロンドンのAASchool(英国建築協会付属建築大学)へ編入学。建築学の修士号MArch、建築家国家資格ARB/RIBA part2を取得したのち、現在国内の組織設計事務所、およびその子会社のシンクタンクに所属。シンクタンク側の業務を主軸に、日本の森を育みつつ長寿命木造を普及するプロジェクトなどを担当。著書に『地球第三の森~35億年 生物による地球環境改変という視座から見る都市の「恵み」と将来性~』〈紫洲書院〉がある。

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主催&ディレクション
NTT都市開発株式会社
井上 学、權田国大、吉川圭司(デザイン戦略室)
梶谷萌里(都市建築デザイン部)

企画・編集&ディレクション&グラフィックデザイン
渡邉康太郎、村越 淳、江夏輝重、矢野太章(Takram)

コントリビューション
深沢慶太(フリー編集者)