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井上 聡 ── 沖縄・読谷村で拾った“スポークン・ワーズ”

「沖縄・読谷村の“まれびと”」の取材で、2018年以来の再会を果たしたTHE INOUE BROTHERS…の井上聡さんと、私たちデジタルZINE編集部。2日間、行動をともにするなかで拾い集めた、まちを読み、社会を読み、時代を読む、“まれびと”の言葉たち。それは、さながら散文詩のようでした。今回は番外編として、その言葉たちをお届けします。「まちを読む」をテーマに、多様な視点を持つゲストを招いてお届けするデジタルZINE「まちのテクスチャー」シリーズ第3回。

Text & Editing by Keita Fukasawa
Photography by Chihiro Ichinose

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東シナ海を見晴らす読谷村の絶景スポット「残波(ざんぱ)岬」
「ここは沖縄本島で夕日が最後に沈む場所。まさに今日、『ここでクジラが見えた!』という話を聞いて、地元の人も観光客も仲良く海辺に佇んでいる。いつ来ても心が洗われる場所の一つだね」

井上 聡|Satoru Inoue
THE INOUE BROTHERS...デザイナー
1978年、デンマーク・コペンハーゲン生まれ。弟の清史とともに日系2世として育ち、グラフィックデザイナーとしてキャリアを積む。2004年、同地にてファッションブランド「THE INOUE BROTHERS...」を設立し、南米アンデス地方の先住民と作ったニットウェアをはじめ、地球環境や生産者に負荷を掛けないプロダクトなどのソーシャルデザインに取り組む。22年夏、家族とともに沖縄県読谷村へ移住し、新たな展開を構想中。
THE INOUE BROTHERS...


井上聡さんの自宅近く、陶芸やアートグラス作りの体験工房やレストランが並ぶ商業施設「Gala青い海」へ。

“この沖縄そばをぜひ、みんなに食べてもらいたくて(笑)”

「この沖縄そばをぜひ、みんなに食べてもらいたくて(笑)。やちむん(焼き物)や琉球ガラスのお店もあるから、観光客が楽しみながら地元作家たちの作品に触れられる、大切な接点になっていると思う」


“単に『好き』でもいい。エコでありエゴでもある”

「食品といえば、デンマークはオーガクニック食品でも世界をリードしているんだ。日本は認証こそ厳しいけど、水へのこだわりなんかを見ても、メンタリティーはオーガニック食品と相性がいいと思う。地球のためというよりも自分のためのこととして、もっと広まるといい。単に『好き』でもいい。エコでありエゴでもある」

「ホテル日航アリビラ」の敷地に広がる天然の砂浜、ニライビーチ。

“居心地の良さを奪い合うんじゃなく、共有する”

「リゾートホテルのビーチって、普通は宿泊客以外お断りだよね。でもここはそうじゃない。この岩陰で子どもたちが生き物を探したり、大人たちはビールを飲んだり……僕の家族も大好きなところ。居心地の良さを奪い合うんじゃなく、共有する。こんな場所がもっと増えていったらいいのにね」

焼き物や琉球ガラスなど、19もの工房やギャラリーが軒を連ねる「やちむんの里」にて。

“作家たちと地域の住民、観光客のちょうどいい関係こそ、みんなで守るべき知恵だと思う”

「人間国宝の陶芸家が共同の窯を作ったのがきっかけで、この里ができたんだ。ここなら観光客に煩わされずに制作に集中できるし、煙を気にせず窯焼きができる。作家たちと地域の住民、観光客のちょうどいい関係こそ、みんなで守るべき知恵だと思う。デンマークで働いていた父親もガラス職人だったから、そのことも思い出すんだ」

カフェにパン屋、オーガニックの食料品店、学校……ここでの生活には車での移動が欠かせない。

“何事も反対するのが一番簡単だけど、僕は新しい道を考えていきたい”

「最初は戸惑ったけれど、『米軍基地の跡地に何が建つのかな?』とか、街を見つめる視点が広くなった気がする。車社会、教育から環境の問題まで、何事も反対するのが一番簡単だけど、僕は新しい道を考えていきたい。それこそが自分のやるべきことだと信じているから」

“デンマーク人にとっては、政治はただのツールなんだ”

「政治のこともよく考える。地域によっては支持政党がアイデンティティになってしまっているよね。親の世代から何党だ、とか。でもデンマーク人にとっては、政治はただのツールなんだ。支持政党は時期と内容と、求める生活によって変わってもいい。だからパパとママで政党が違っても、喧嘩にならない。あくまでツールだから。道具では喧嘩しないでしょ」

自然と触れ合い、大人と子どもが学び合うフリースクール「よみたん自然学校」を見学。

“お互いを尊重する姿勢を遊びながら身に付ける。これ以上に大切なことは他にないんじゃない?”

「その日の遊び方から無人島キャンプの計画まで、子どもたちが自分で決めて行動する。本当に楽しそうだよね! 背景の違う子どもたち同士が、お互いを尊重する姿勢を遊びながら身に付けていく。未来を考える上で、これ以上に大切なことは他にないんじゃない?」 

読谷村の隣町、北谷(ちゃたん)エリアへ。嘉手納基地のゲート近くに位置する「GOOD DAY COFFEE」は、サーファーやミュージシャン、地元の人々、米軍関係者の家族も訪れる、国際色豊かな人気店。

“沖縄で人の縁がどんどんつながって、リスペクトし合える仲間に恵まれた”

「デンマークにいた子どもの頃は白人たちと違う自分の顔が嫌いだったけれど、今は自然なままの僕でいられる。ここのオーナーをはじめ、沖縄で人の縁がどんどんつながって、リスペクトし合える仲間に恵まれた。今の暮らしにとって、それこそが何よりの宝物だね」


沖縄リサーチ取材:2023. 1/20〜21

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主催&ディレクション
NTT都市開発株式会社
井上 学、權田国大、吉川圭司(デザイン戦略室)
梶谷萌里(都市建築デザイン部)
 
企画&ディレクション&グラフィックデザイン
渡邉康太郎、村越 淳、江夏輝重、矢野太章(Takram)

コントリビューション
深沢慶太(フリー編集者)