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医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び…

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医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び、アート、銭湯、つながり。単純に人が好き。でも、恥ずかしがり屋です。

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  • そんそんの教養文庫(今日の一冊)

    一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。

最近の記事

神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

南山大学人文学部教授・同大学人類学研究所所長の後藤明氏による「世界神話学」の入門書である。「世界神話学(world mythology)」とは、ハーバード大学のマイケル・ヴィツェルの著書『世界神話の起源』による。ヴィツェルが近年唱えている世界神話学説は、古層ゴンドワナ型神話と新層ローラシア型神話と、世界の神話が大きく二つのグループに分けられるという仮説である。この神話学説は、遺伝学・言語学あるいは考古学による人類進化と移動に関する近年の成果と大局的に一致するというのが彼の主な

    • 哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

      著者のサイモン・クリッチリー氏は、1960年生まれのイギリスの哲学者である。専門は現象学、大陸哲学、フランス現代思想。本書『哲学者190人の死に方(The Book of Dead Philosphers)』は古代から現代までの190人の哲学者について、死をどう捉えていてか、どのように最期を迎えたかについて、それぞれの哲学者の思想とともに紹介しているものである。しかし、ただ単に哲学者の死に方を面白おかしく紹介した本ではない。一流の哲学の考え方についても学べる骨のある一冊となっ

      • ベーコンの「洞窟のイドラ」とは——岩崎武雄『正しく考えるために』より

        岩崎 武雄(いわさき たけお、1913 - 1976)は、日本の哲学者(ドイツ観念論)。東京帝国大学哲学科卒業、1952年、文学博士(東京大学)(学位論文「カントとドイツ観念論 」)。 1956年、東京大学教授。日本哲学会会長(1973年~1976年)。カント、ヘーゲルを中心とした近代哲学が専門。 本書『正しく考えるために』(1972年)は一般向けに書かれた著書であり、同じ講談社現代新書より1966年に出た『哲学のすすめ』と合わせて読まれている名著である。本書では、「考える

        • マンデラの獄中生活——看守たちはいかに感化されたか

          ネルソン・マンデラ(Nelson R. Mandela、1918 - 2013)は、南アフリカ共和国の政治家、弁護士。第8代南アフリカ共和国大統領。若くして反アパルトヘイト運動に身を投じ、1964年に国家反逆罪で終身刑の判決を受ける。27年間に及ぶ獄中生活の後、1990年に釈放される。翌1991年にアフリカ民族会議(ANC)の議長に就任。当時の大統領フレデリック・デクラークとアパルトヘイト撤廃に尽力し、1993年にデクラークと共にノーベル平和賞を受賞。1994年、南アフリカ初

        神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

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        • そんそんの教養文庫(今日の一冊)
          134本

        記事

          哲学者とは死ぬことを心がけている者である——プラトンの『パイドン』を読む

          『パイドン』(パイドーン、古代ギリシャ語: Phaídōn、英: Phaedo)は、プラトンの中期対話篇。副題は「魂(の不死)について」。『ファイドン』とも。ソクラテスの死刑当日を舞台とした作品であり、イデア論が初めて(理論として明確な形で)登場する重要な哲学書である。師ソクラテス死刑の日に獄中で弟子達が集まり、死について議論を行う舞台設定で、ソクラテスが死をどのように考えていたか、そして魂の不滅について話し合っている。 ソクラテスは「人間にとって死ぬことは生きることよりも

          哲学者とは死ぬことを心がけている者である——プラトンの『パイドン』を読む

          プラトンが語ろうとした「魂(プシュケー)」の意味とは

          西洋哲学研究者の中畑正志さんによるプラトン哲学の入門書である。プラトンは、古代ギリシアの哲学者であり、ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。プラトンの思想は西洋哲学の主要な源流であり、哲学者ホワイトヘッドは「西洋哲学の歴史とはプラトンへの膨大な注釈である」と述べた。 プラトンがいかに偉大な哲学者であるかは、彼の著作が2000年以上前のものであるにもかかわらず、その多くが今まで残されているという事実からも分かる。これは極めて例外的なことである。彼の著作の最大の特

          プラトンが語ろうとした「魂(プシュケー)」の意味とは

          愛の本質とは「分娩出産」である——プラトン『饗宴』を読む

          プラトン(プラトーン、紀元前427年 - 紀元前347年)は、古代ギリシアの哲学者である。ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。『ソクラテスの弁明』や『国家』等の著作で知られる。現存する著作の大半は対話篇という形式を取っており、一部の例外を除けば、プラトンの師であるソクラテスを主要な語り手とする。 『饗宴』(きょうえん、ギリシャ語: シュンポシオン、ラテン語: シンポジウム)は、プラトンの中期対話篇の1つ。副題は「エロースについて」。紀元前400年頃のアテナイ

          愛の本質とは「分娩出産」である——プラトン『饗宴』を読む

          ハイエクとフリードマンの違い——不確実性をどう捉えるか?

          ハイエクの思想は今でも誤解されている、あるいは正当に評価されていないと言えるだろう。彼はケインズ経済学や社会主義による計画経済に反対し、市場経済と個人の自由を重視する自由主義の立場だったので、現在の「新自由主義」経済の先駆者のように見られることが多い。しかし、これは以前の記事でも書いたように誤りである(記事「ケインズとハイエクに対して蔓延する誤解——平時と危機時の経済学」を参照)。 ハイエクの思想の根本にあるのは、政府による介入主義や集権的計画経済への懐疑であり、哲学的には

          ハイエクとフリードマンの違い——不確実性をどう捉えるか?

          「能力」の起源とは——能力信仰と優生学の関係

          連続企業家、孫泰蔵氏の著書『冒険の書』は、現代の教育と社会のあり方を根底から問い、常識を覆すような一冊である。近代社会の発展と資本主義社会によって、人が「能力」で測られるようになり、さらには、能力を通貨のように商品化するようになったことが、現代の不幸を招いているとする。その歴史的・哲学的な起源に関して、コメニウス、ホッブズ、ルソー、フーコー、イリイチなど哲学者・思想家たちの思想的起源にまで遡って論じているのは、他の類書に例をみないほどである。また、難解な思想を分かりやすく、か

          「能力」の起源とは——能力信仰と優生学の関係

          マルクスが指摘した労働者の「二重の自由」とは

          誰もが知っているカール・マルクスである。資本主義社会の限界や、新しい資本主義といったことが唱えられるようになった今日、また新たなマルクスが求められているかのような感もある。1989〜91年にソ連や社会主義東欧諸国が次々に崩壊した。共産主義という大きな社会実験が終わり、マルクス主義は一旦「オワコン」化したかに見えたが、決してそうではなかった。マルクスの書を読むと、まるで現在の資本主義社会の最終的な状態を予言しているかのようなことが多く書かれているのである。マルクスはまだ終わって

          マルクスが指摘した労働者の「二重の自由」とは

          ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論とローティのプラグマティズム哲学の親和性

          プラグマティズムという哲学の思想について、解説したのが本書『プラグマティズム入門』である。プラグマティズム(pragmatism)とは、「真理とはわれわれの行動にとっての有用な道具である」とする考え方で、われわれの行動の結果や有用性から物事の真理を判断するような思想である。真理を「道具」と考えるこの思想からは、存在論における「多元主義」や、事実と価値の区別の否定(事実と価値は優劣のない同列のものであるという考え)に通じるような、世界についての古典的了解を根底から覆すような革新

          ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論とローティのプラグマティズム哲学の親和性

          ケインズとハイエクに対して蔓延する誤解——平時と危機時の経済学

          経済学の二大巨頭、ケインズとハイエクの話である。 まずケインズの経済学をおさらいしておこう。ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes 、1883 - 1946)は、イギリスの経済学者。ケインズは、失業の原因に関する経済理論を確立し、代表作である『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)では、完全雇用政策に基づく経済不況の救済策を提唱した。ケインズはマクロ経済学、いわゆる「ケインズ経済学」の理論を打ち立てた。また、第二次世界大戦後の外為体制(

          ケインズとハイエクに対して蔓延する誤解——平時と危機時の経済学

          ポスト社会主義の政治——準大統領制とコアビタシオン

          政治学者の松里公孝氏が、ポスト社会主義の政治について解説した本である。1991年にソ連が崩壊した後、かつてのソ連・東欧地域には30以上の国家があるが、そのうち(2020年10月現在)27の旧社会主義国が「準大統領制」と呼ばれる体制を採用している。準大統領制とは、国民が選挙で選ぶ大統領と、首相が併存する体制である。つまり、旧社会主義諸国においては準大統領制を選んだ国が圧倒的に多いのである。本書では、準大統領制というコンセプトを通じて、旧社会主義諸国の現代史を、特にポーランド、リ

          ポスト社会主義の政治——準大統領制とコアビタシオン

          社会学とは「比較」すること——見田宗介『社会学入門』を読む

          前回の記事(「現代の若者は何に幸せを感じているか」)に続いて、社会学者の見田宗介(みた むねすけ)の書籍を取り上げる。本書『社会学入門——人間と社会の未来』は2022年に鬼籍に入った見田宗介の社会学に関する入門書であり、見田独自のさまざまな分析と洞察、いわば「見田社会学」の総決算と言えるものになっている。 見田は、社会学の方法論としてデュルケームの「社会学とは比較社会学である」という言葉を例に挙げる。エミール・デュルケーム(1858 - 1917)は、当時としては斬新な独自

          社会学とは「比較」すること——見田宗介『社会学入門』を読む

          現代の若者は何に幸せを感じているか——見田宗介『現代社会はどこに向かうか』を読む

          見田 宗介(みた むねすけ, 1937 - 2022)は、日本の社会学者。東京大学名誉教授。学位は、社会学修士。専攻は現代社会論、比較社会学、文化社会学。瑞宝中綬章受勲。社会の存立構造論やコミューン主義による著作活動によって広く知られる。筆名に真木悠介がある。著書に『現代社会の理論』、『時間の比較社会学』など。 本書『現代社会はどこに向かうか』は2022年に亡くなった見田宗介さんの遺作とでも呼ぶべきものである。80歳を超えて、豊富な調査資料にもとづく徹底した分析と深い洞察に

          現代の若者は何に幸せを感じているか——見田宗介『現代社会はどこに向かうか』を読む

          ブッダの幸福論——『スッタニパータ』より

          私たちはどのように生きたらいいのか、ということを教えてくれるものが仏教であるが、では仏教は私たちにとって〈幸福〉とはどんなものと教えているのであろうか。この短い一節は、〈人生の幸福とは何か〉をまとめて述べている。いわば釈尊の幸福論である。 幸せ(magala)とは人に成功繁栄をもたらす祝福願望のことばをいう。この一連の詩句は、「大いなる幸せを説いた経」(Mahāmagala-sutta)と呼ばれ、南アジアではよく読誦されているという。 「愚者に親しまないで賢者に親しむ」と

          ブッダの幸福論——『スッタニパータ』より