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医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び…

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医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び、アート、銭湯、つながり。単純に人が好き。でも、恥ずかしがり屋です。

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  • そんそんの教養文庫(今日の一冊)

    一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。

最近の記事

オッペンハイマーの苦悩と彼が感じていた「責任」——バード/シャーウィン『オッペンハイマー』より

J・ロバート・オッペンハイマー(Julius Robert Oppenheimer、1904 - 1967)は、アメリカ合衆国の理論物理学者。理論物理学の広範囲な領域にわたって大きな業績を上げた。特に第二次世界大戦中のロスアラモス国立研究所の初代所長としてマンハッタン計画を主導し、卓抜なリーダーシップで原子爆弾開発の指導者的役割を果たしたため、「原爆の父」として知られる。戦後はアメリカの水爆開発に反対したことなどから公職追放された。 本書『オッペンハイマー :「原爆の父」と

    • 神は人を耐えられないような試練にあわせず、またそれから逃れる道をも備えている——新約聖書「コリントの信徒への手紙」より

      新約聖書「コリントの信徒への手紙」第1章第10節よりの引用。 「神は乗り越えられる試練しか与えない」というドラマ「JIN-仁-」でも有名な言葉があるが、元は新約聖書の「コリントの信徒への手紙」の中の一節である。 「コリントの信徒への手紙」は『新約聖書』に収められた書簡の一つ。使徒パウロと協力者ソステネからコリントの教会の共同体へと宛てられた手紙である。この手紙はエフェソスで書かれ、おそらくパウロのエフェソス滞在の三年目の五旬祭を前に書かれたものであると考えられている。この

      • アダム・スミスの公共事業論——『国富論』における「自然的自由の体系」とそれを支える「制度的枠組み」の関係

        アダム・スミス(Adam Smith、1723 - 1790)は、イギリスの哲学者、倫理学者、経済学者である。「経済学の父」と呼ばれる。スコットランド生まれ。1737年にグラスゴー大学第三学年に入学し、スネル奨学金を得て、1740年にオックスフォード大学ベリオル・カレッジに入学する。1751年にグラスゴー大学の論理学教授、次の年に道徳哲学教授になった。主著に倫理学書『道徳感情論』(1759年)と経済学書『国富論』(1776年)などがある。 『国富論』に対する評価は、歴史的に

        • 「ほんとうの仕事」をすることが幸福である——ヒルティ『幸福論』を読む

          カール・ヒルティ(Carl Hilty、1833 - 1909)は、スイスの下院議員を務め、法学者、哲学者、著名な文筆家としても知られる。日本では『幸福論』、『眠られぬ夜のために』の著者として有名である。敬虔なキリスト教徒として、神、人間、生、死、愛などの主題を用いて、現代の預言者とも評されるほどの思想書を書き残した。また、そのようなテーマに深く踏み込んでいながらも、彼の著作には、非現実的な、空想的要素は含まれないという特徴がある。 本書『幸福論』は、ヒルティの晩年の著書で

        オッペンハイマーの苦悩と彼が感じていた「責任」——バード/シャーウィン『オッペンハイマー』より

        • 神は人を耐えられないような試練にあわせず、またそれから逃れる道をも備えている——新約聖書「コリントの信徒への手紙」より

        • アダム・スミスの公共事業論——『国富論』における「自然的自由の体系」とそれを支える「制度的枠組み」の関係

        • 「ほんとうの仕事」をすることが幸福である——ヒルティ『幸福論』を読む

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        • そんそんの教養文庫(今日の一冊)
          328本

        記事

          近代化における官僚制度による非人間化とホロコースト——バウマン『近代とホロコースト』を読む

          ジグムント・バウマン(Zygmunt Bauman、1925 - 2017)は、ポーランド出身の社会学者。ワルシャワ大学教授、テルアヴィヴ大学教授などを経て、71年英国リーズ大学教授。アマルフィ賞、アドルノ賞、アストゥリアス皇太子賞受賞。著書に『リキッド・モダニティを読みとく』『社会学の考え方〔第2版〕』『コミュニティ』(いずれも、ちくま学芸文庫)などがある。 本書『近代とホロコースト』は、50冊にのぼるバウマンの著作のなかでも、代表作とされるものであり、無数の近代論、ホロ

          近代化における官僚制度による非人間化とホロコースト——バウマン『近代とホロコースト』を読む

          クオリアと自己は同じコインの表裏である——ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊』を読む

          本書『脳のなかの幽霊(Phantoms in the Brain: Probing the Mysteries of the Human Mind)』は1998年の神経科学者のV・S・ラマチャンドランの一般向け著書である。ヴィラヤヌル・スブラマニアン・ラマチャンドラン (Vilayanur Subramanian Ramachandran, 1951 – )はインド出身のアメリカの神経科医・心理学者・神経科学者。 カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経科学研究所(Center

          クオリアと自己は同じコインの表裏である——ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊』を読む

          フッサール現象学における意識の特権性と「声」の優越性——ジャック・デリダ『声と現象』を読む

          ジャック・デリダ(Jacques Derrida, 1930 - 2004)は、フランスの哲学者。フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人。一般にポスト構造主義の代表的哲学者と位置づけられている。エクリチュール(書かれたもの、書法、書く行為)の特質、差異に着目し、脱構築(ディコンストラクション)、散種、差延等の概念などで知られる。エトムント・フッサールの現象学に関する研究から出発し、フリードリヒ・ニーチェやマルティン・ハイデッガーの哲学を批判的に継承し発展させた。哲学の

          フッサール現象学における意識の特権性と「声」の優越性——ジャック・デリダ『声と現象』を読む

          「なぜ、善良な人が不幸にみまわれるのか」という問いこそが重要である——H.S.クシュナー『なぜ私だけが苦しむのか』を読む

          ハロルド・サミュエル・クシュナー(Harold Samuel Kushner, 1935 - 2023)はアメリカのラビ(ユダヤ教の宗教的指導者)、作家、講師。彼は保守ユダヤ教のラビ総会のメンバーであり、マサチューセッツ州ナティックにあるナティック神殿イスラエルの会衆ラビを24年間務めた。クシュナーは、ユダヤ教徒と非ユダヤ教徒の両方の読者向けに複雑な神学上の考え方をわかりやすく解説した書籍で広く知られている。 彼の最も著名な作品が本書『なぜ私だけが苦しむのか——現代のヨブ記(

          「なぜ、善良な人が不幸にみまわれるのか」という問いこそが重要である——H.S.クシュナー『なぜ私だけが苦しむのか』を読む

          人間は必然性という役割に生きることを欲する——福田恆存『人間・この劇的なるもの』を読む

          福田恆存(ふくだ つねあり、1912 - 1994)は、日本の評論家、翻訳家、劇作家、演出家。日本芸術院会員。現代演劇協会理事長、日本文化会議常任理事などを務めた。福田恆存に関する過去記事も参照のこと(『福田恆存:人間は弱い』に関する記事、『人間とは何か』に関する記事)。 冒頭の引用は『人間・この劇的なるもの』からの引用である。1956年(昭和31年)に書かれた芸術・演劇論から人間論にまで及ぶエッセイである。 福田の多彩な活動を貫いていた柱があるとすれば、それは「劇」という

          人間は必然性という役割に生きることを欲する——福田恆存『人間・この劇的なるもの』を読む

          現象学的世界とは存在の顕在化ではなく創設である——メルロ=ポンティ『知覚の現象学』を読む

          モーリス・メルロー=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty、1908 - 1961)は、フランスの哲学者。主に現象学の発展に尽くした。メルロ=ポンティは、知覚の主体である身体を主体と客体の両面をもつものとしてとらえ、世界を人間の身体から柔軟に考察することを唱えた。身体から離れて対象を思考するのではなく、身体から生み出された知覚を手がかりに身体そのものと世界を考察した。1945年、37歳のとき主著『知覚の現象学』を出版、1959年、『見えるものと見えないもの』を刊

          現象学的世界とは存在の顕在化ではなく創設である——メルロ=ポンティ『知覚の現象学』を読む

          人生とは悲劇のような喜劇である——チェーホフ『かもめ』を読む

          アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ(Антон Павлович Чехов, Anton Pavlovich Chekhov、1860 - 1904)は、ロシアを代表する劇作家であり、多くの短編を遺した小説家である。16歳のとき実家が破産、モスクワ大学医学部に学び医師となるが、学生時代からユーモア短編を大量に書いて一家を養い、やがて本格的な作家として高い評価を受けるようになった。90年には結核の身をおしてサハリン島におもむき、住民調査を行う。99年夏にはクリミア半島のヤル

          人生とは悲劇のような喜劇である——チェーホフ『かもめ』を読む

          「木々が葉を落とす、そこには別の力が現れている」——ミヒャエル・エンデ『ものがたりの余白』より

          ミヒャエル・アンドレアス・ヘルムート・エンデ(Michael Andreas Helmuth Ende、1929 - 1995)は、ドイツの児童文学作家。父はシュールレアリスム画家のエドガー・エンデ。日本と関わりが深く、1989年に『はてしない物語』の翻訳者佐藤真理子と結婚している。また、日本の黒姫童話館にはエンデに関わる多くの資料が収集されている。エンデの『自由の牢獄』に関する過去記事も参照のこと。 本書『ものがたりの余白』は、エンデ晩年のインタビュー集である。少年時代の

          「木々が葉を落とす、そこには別の力が現れている」——ミヒャエル・エンデ『ものがたりの余白』より

          動物的個我を超えた「生命」は愛を知る——トルストイ『人生論』を読む

          レフ・トルストイ(Lev Nikolayevich Tolstoy, 1828 - 1910)は、帝政ロシアの小説家、思想家。フョードル・ドストエフスキー、イワン・ツルゲーネフと並び、19世紀ロシア文学を代表する文豪。代表作に『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』など。文学のみならず、政治・社会にも大きな影響を与えた。非暴力主義者としても知られる。トルストイの『戦争と平和』、『光あるうち光の中を歩め』についての過去記事も参照のこと。 本書『人生論』は1886年暮から8

          動物的個我を超えた「生命」は愛を知る——トルストイ『人生論』を読む

          キリスト者は何人にも従属しない自由を持ち、かつ何人にも従属する——ルター『キリスト者の自由』を読む

          マルティン・ルター(Martin Luther、1483 - 1546)は、ドイツの神学者、教授、聖職者、作曲家。聖アウグスチノ修道会に属する。1517年に『95ヶ条の論題』をヴィッテンベルクの教会に掲出したことを発端に、ローマ・カトリック教会から分離しプロテスタントが誕生した宗教改革の中心人物である。 冒頭に引用した『キリスト者の自由(ドイツ語:Von der Freiheit eines Christenmenschen、ラテン語: De libertate chris

          キリスト者は何人にも従属しない自由を持ち、かつ何人にも従属する——ルター『キリスト者の自由』を読む

          文化を発展させることで戦争を防止する——アインシュタイン/フロイト往復書簡『ひとはなぜ戦争をするのか』より

          アインシュタインとフロイトの往復書簡。20世紀を代表する物理学者と心理学者が、「ひとはなぜ戦争をするのか」という重要で普遍的なテーマについて1932年に往復書簡を交わしていたといのは、あまり知られていない。発端は1932年に国際連盟からアインシュタインへなされた依頼である。それは「今の文明でもっとも大事だと思われる事柄を取り上げ、一番意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」という依頼だった。アインシュタインが取り上げたテーマは「ひとはなぜ戦争をするのか?」という根本的な

          文化を発展させることで戦争を防止する——アインシュタイン/フロイト往復書簡『ひとはなぜ戦争をするのか』より

          世界リスク社会と来るべきコスモポリタン国家——ベック『世界リスク社会論』を読む

          ウルリッヒ・ベック(Ulrich Beck、1944 - 2015)は、ドイツの社会学者。ポンメルンのシュトルプ(現在のポーランド領スウプスク)生まれ。ミュンヘン大学卒業。ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学、オットー・フリードリヒ大学バンベルクを経て、1992年からルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ミュンヘン大学)およびロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会学教授を務めた。チェルノブイリの原発事故直後に出版された『リスク社会(邦訳では『危険社会』)』(198

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