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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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記事一覧

不可視な機械によって脱中心化される人間——ジジェク『身体なき器官』を読む

スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek、1949 - )は、スロベニアの哲学者。リュブリャナ大学で哲学を学び、1981年、同大学院で博士号を取得。1985年、パリ第8大学のジャック=アラン・ミレール(ジャック・ラカンの娘婿にして正統後継者)のもとで精神分析を学び、博士号(Doctor of Philosophy)取得。現在はリュブリャナ大学社会学研究所教授。ジジェクについては過去記事(ポストコロナの「哲学的革命」——スラヴォイ・ジジェクの『パンデミック』を読む)も参照

些細なものに宿る普遍性——『フランツ・カフカ断片集』を読む

フランツ・カフカ(Franz Kafka, 1883-1924)は、オーストリア=ハンガリー帝国領のプラハで、ユダヤ人の商家に生れる。プラハ大学で法学を修めた後、肺結核に斃れるまで実直に勤めた労働者傷害保険協会での日々は、官僚機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌となる。生前発表された「変身」、死後注目を集めることになる「審判」「城」等、人間存在の不条理を主題とするシュルレアリスム風の作品群を残している。現代実存主義文学の先駆者。 モーリス・ブランショは「カフカの主要な物語は断片で

丸山眞男が日本思想にみた「原型」と「原型を超える思想」

丸山眞男(まるやま まさお、1914 - 1996)は、日本の政治学者、思想史家。専攻は日本政治思想史。専門学問は、「丸山政治学」「丸山思想史学」と呼ばれ、経済史学者・大塚久雄の「大塚史学」と並び称された。丸山眞男に関する過去記事(日本思想の無構造性と思想的雑居性——丸山眞男『日本の思想』を読む)も参照のこと。 本書『丸山眞男を読みなおす』の著者、田中久文氏(哲学者・日本女子大学名誉教授)によると、丸山は戦後民主主義思想の旗手でありながら、さまざまに批判にさらされてきた。し

すべてを「失敗ありき」で設計する——マシュー・サイド『失敗の科学』を読む

本書『失敗の科学(原題:Black Box Thinking: The Surprising Truth About Success)』は、さまざまな「失敗」の事例について、詳細な事例内容と背景にあるメカニズムについて分析し、紹介している。なぜ10人に1人で起こる医療ミスの実態は改善されないのか?なぜ墜落したパイロットは警告を無視したのか?なぜ検察はDNA鑑定で無実でも有罪と言い張るのか?医療業界、航空業界、グローバル企業、プロスポーツチーム…あらゆる業界を横断し、失敗の構造

リスクと不確実性の違い——「ナイトの不確実性」の定義とは

本書『不確実性超入門』は、金融アナリスト・コンサルタントの田淵直也氏による一般向けに書かれた本である。「不確実性」の科学について、金融市場や歴史上の出来事を例に分かりやすく解説している。株価の大暴落(ブラックマンデー)、サブプライムローンとリーマンショック、フランス革命など予測不能な歴史上の出来事には共通するものがある。それが「不確実性」であり、単純には予測できない事象である。特に近年の市場の暴落や経済・金融危機では多くの「専門家」たちがまったく予想できないことが起きた。

「オメガ点」に向かう人類——キリスト教的進化論を唱えたテイヤール・ド・シャルダンの思想

ピエール・テイヤール・ド・シャルダン(Pierre Teilhard de Chardin,1881 - 1955)は、フランス人のカトリック司祭(イエズス会士)で、古生物学者・地質学者、カトリック思想家である。北京原人の発見に参加。オメガ点という生命論的な考え方を提唱しウラジーミル・ヴェルナツキーと「ヌースフィア(叡智圏)」の概念を構築した。 本書『現象としての人間』において、テイヤールは、古生物学上での人類の進化過程を研究し、人類の進化に関する壮大な仮説を提示した。宇宙

洞窟の外に出てイデアの光を見よ——プラトン『国家』を読む

師ソクラテスが国家の名において処刑された。それを契機として書かれたのが、プラトン(前427 - 前347)の著作の中の最高峰とされる『国家』である。岩波文庫で約900頁をなす大著である。師ソクラテスが説きつづけた「正義」と「徳」の実現には、人間の魂のあり方だけではなく、国家そのものを原理的に問わねばならないとプラトンは考えるにいたる。この課題の追求の末に提示されるのが、本書の中心テーゼをなす「哲人統治」の思想にほかならない。理想の国家を統治する哲人王による統治。王となるべき国

「物語の力」の欠落と〈顔〉の不在——鈴木智之氏の『顔の剥奪』を読む

鈴木智之氏(1962 -)は、法政大学社会学部教授。専攻は理論社会学、文化社会学。著書に『村上春樹と物語の条件』(晶文社)、共編著に『失われざる十年の記憶』(青弓社)、訳書に『傷ついた物語の語り手』(ゆみる出版)などがある。 本書『顔の剥奪:文学から〈他者のあやうさ〉を読む』は、哲学者エマニュエル・レヴィナスが語る〈顔〉の概念を軸に、人と人がともにあるということが基礎づけられる〈顔〉の現れ、「共在の器官」としての〈顔〉が不在になるとき、剥奪されるときの諸相を、さまざまな文学

構造を超える生成としての〈テクスト〉——クリステヴァの記号分析学

ジュリア・クリステヴァ(Julia Kristeva, 1941 - )はブルガリア生まれ、フランスの思想家・精神分析家。パリ第七大学教授。25際のときブルガリアから渡仏し、ロラン・バルトのゼミに参加してたちまち頭角を現す。意味生成の動的過程への着目から当時支配的だった構造主義を批判し、テクスト論、記号論に新境地をひらく。さらに精神分析、女性論をも領野に収め、現代社会の硬直化に対して解体を試みている。主な著作に『セメイオチケ』、『詩的言語の革命』、『ポリローグ』、『恐怖の権力

「恥の文化」としての日本文化論——ルース・ベネディクト『菊と刀』を読む

ルース・ベネディクト(Ruth Benedict、1887 - 1948)は、アメリカ合衆国の文化人類学者。ニューヨーク生まれ。「レイシズム」の語を世に広めたことや、アメリカ文化人類学史上最初の日本文化論である『菊と刀』を著したことによって知られる。 『菊と刀:日本文化の型』(The Chrysanthemum and the Sword: Patterns of Japanese Culture)は、ベネディクトの戦時中の調査研究をもとに1946年に出版された。ベネディク

「非還元の原理」を掲げノンモダニズムを生きる——ラトゥールの「アクターネットワーク論」

ブルーノ・ラトゥール(Bruno Latour、1947 - 2022)は、フランスの哲学者・人類学者・社会学者。専門は、科学社会学、科学人類学。アクターネットワーク論(Actor–network-theory:ANT)に代表される独自の科学社会学の構想によって知られる。パリ国立高等鉱業学校での教授経験を経て、2006年からパリ政治学院教授。 本書『ブルーノ・ラトゥールの取説』はブルーノ・ラトゥールの「アクターネットワーク論」(以下、ANT)を、モダニズム(近代の思考)、ポ

何をしたいわけでもないが、何もしたくないわけでもない——メランコリストのための哲学「現代実在論」

1987年生まれの気鋭の哲学者、岩内章太郎氏による『新しい哲学の教科書:現代実在論入門』より引用。岩内氏は早稲田大学国際教養学部卒業。同大学大学院国際コミュニケーション研究科博士後期課程修了。博士(国際コミュニケーション学)。専門は、哲学。本書が彼の初の著書である。竹田青嗣氏に師事。博士論文は、フッサール現象学についての「思弁的実在論の誤謬」(『フッサール研究』第16号)。 本書の射程は、新しい局面を迎えている現代の「実在論」、つまり「人間以後」の世界を思弁する「ポスト・ヒ

民主制と共和制はどう異なるか——カント『永遠平和のために』を読む

イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)は、プロイセン王国の哲学者であり、ケーニヒスベルク大学の哲学教授である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらした。 『永遠平和のために』(Zum Ewigen Frieden)は、晩年のカントが1795年(70歳時)に著した政治哲学の著作である。副題は「一哲学的考察」(Ein philosophi

見えざる現実をみるためのの多自然主義——ハージ『オルター・ポリティクス』を読む

ガッサン・ハージ(Ghassan Hage, 1957 - )はオーストラリアの人類学者、社会学者。専門は、精神分析人類学。メルボルン大学教授(文化人類学・社会理論)。レバノン・ベイルートに生まれ、1976年にオーストラリアに移住、シドニー大学などを経て現職。ナショナリズム、レイシズム、多文化主義、ポストコロニアリズムに関する批判的著作や、トランスナショナルなレバノン人ディアスポラの民族誌的研究で広く知られる。 本書『オルター・ポリティクス』は、2005年から2013年にか