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新しい挑戦をするよりも、今ある物を洗練させていきたい。

2022年2月末。
「そろそろ春かな?」と思っても、まだまだ朝は布団から出るまでに時間がかかる。

でも部屋にやってくる風の冷たさは、UNIQLOで買ったモコモコのパーカーと内側ボアのパンツで凌げるほどの温度に変わってきていることは確かだ。ちょっと寒い。でも気持ちいい。先月は感じられなかった心の機微に春の面影を感じる日々だ。

春になると活気よく飛び交うのが #新生活 という言葉だろう。年度が区切られ、新しい季節がやってくる。学生たちは新学年を迎え、新たな学問や友達の輪に飛び込んでいく。

はじめて社会に進出する人たちもいるだろう。はじめてのバイト、はじめてのインターン、はじめての会社員、はじめての社会人。

初挑戦という活力漲る言葉に押されると、先の見えない不安に駆られながらも世界がキラキラとしてみえたものだ。(そんなことない人もいるかもしれないけれど)わたしはそうだった。

嫌なことや辛いことがあると、すぐリセットしたくなるタイプの人間だったので、余計にキラキラと美しく見えていたんだと思う。

学年が変わればクラスが変わる。学ぶ内容も友人関係も変化する。卒業はさらに取り巻く環境が大きく動く。
それと同時に嫌だった環境や関係や自分自身が、新生活の季節によって強制リセットされる感覚があった。

無理やり変えられることで、頭を切り替えるスイッチになったり、忘れたりすることができた。
だからわたしは、少し歪みはあるけれど世界が明るく見えて、初挑戦で溢れる新生活の季節はそう嫌いではなかった。

でも新生活の強制リセットボタンは年を重ねるごとに錆ついて、うまく機能しなくなった。

社会人になった年のこと。
わたしは「人に感動を与えられるヒトになりたい」という想いを語って受かったIT企業に入社し、どれほど社会に価値を残せるのだろうかと夢に思いを馳せながらパソコンのキーボードを景気よく弾いていた。

テレアポ、SEO、LPO、広告。
知らない言葉も多かったけれど、なんでもやってみたくて、文字通りなんでもやった。新しい知識、経験を毎日取り入れるたびに、瞳の輝きは増していった。

今は億劫でしかない飲み会や忘年会も、当時は「これが社会人の嗜みか」と胸を躍らせて梅酒を煽ったものだ。デキル新卒面をしながらサラダを取り分けて「女子力高いじゃん」なんて、しょうもない言葉に喜んだ時もあった。

どこにも属さず一人で生きていたら得られないであろう体験がこの身に起こるたびに、良いことも、悪いことも、社会人らしさに繋がっている気がして、甘んじて受け入れた。

擦り傷をつくる無茶苦茶な走り方をしていても、スニーカーの靴紐は解けなかったし、靴底がすり減ることもなかった。
転んだって、「いてて、転んじった!」くらいの打撃で、すぐに再スタートを切れた。

だけれど、それから数年。
月日が経つごとに新しい挑戦のハードルは上がっていく。

靴紐を結び直す頻度が増えて、靴を買い替える機会も増えた。楽しい時間はあっという間に過ぎていくのに、傷が癒えるまでの時間はどんどん長くなった。

大人になればなるほど新しいものに立ち向かうエネルギー、受け入れるエネルギー、乗りこなすエネルギー、乗り続けるエネルギーが必要になって、そのエネルギーゲージはなかなか溜まってはくれなかった。

次第に前を走る友達や面識のないSNSの人々を眺めていると苦しくなった。
わたしにもあんな頃はあったんだ。のどが乾いて水を欲するように、新しい刺激を求めつづけたあの頃が。
と、虚勢を張っても、だんだんと言い訳にしか聞こえなくなって自分の声にすら耳を塞ぎたくなる。

新しい挑戦に対して億劫になっている自分が、酷くイケナイものであるように思えてきたのだ。

それでも新生活の煌びやかな雰囲気はステップを踏んで近づいてくる。あたりに笑顔を振り撒いて、桜の花びらが舞う道を軽やかに飛んでくる。あろうことか無邪気に手を差し伸べてくるものだから、わたしは苦笑いで誤魔化すほかない。

直視したくない。目を逸らしていたい。
だけれど春の陽光はあたたかい。

痛くもなく、鋭くもなく、花が風を滑るように縮こまった背中に触れる。

ふと顔を上げると、青々しい空が見えた。

いつの間にか足元ばかり見つめていた自分に気がついて、意識的に視野を高めてみる。すると、

「新生活は新しい挑戦を迎える季節だ」、「キラキラした世界に飛び込んで活気盛んに行動するのだ」、「新しい刺激を得るのだ!」……etc.

そんなこと、誰が言ったんだろうと疑問が浮かんだ。

働き方も、過ごし方も、生き方も、すべて。表に見えるものだけが正解ではない。人の数だけ人生があるとは、よくいったもので、新生活の迎え方も千差万別であるはずだ。

表舞台で輝く姿にはどうも焦がれてしまい、それが一番正しい形なのだろうと見比べてしまうけれど、自分にとって居心地の良い形を選んだって良いんじゃないだろうか。

じぶんの心を守ること、新生活を迎えるにあたって、わたしに必要な意識はたぶんそれだ。

胸に手を当ててみる。
新生活をどう過ごしたいのか、問いかけてみる。

わたしは新しい挑戦よりも、今あるものを洗練させる意識で新生活を迎えたい。

新しいものを取り入れることも素敵だ。けれど、今あるものを洗練させていくこともまた、美しい挑戦だと思う。

心がホッとした気がする。
これからやってくる3月をあたたかい気持ちで迎えられそうだ。

by セカイハルカ
画像 : クリモトさん/女の子かわいい。服もカワイイ!
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