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70%の可能性を探る365日

身を削るような「我慢」は、しない。


わたしは電話が好きじゃない。
美容院の予約であっても、電話をかける前は心臓がトクトクと静かに唸り、全身を嫌悪感が包み込んできて、お金で解決できるのならば、美容院の予約代理人に1000円を支払ったって良い。

わたしにとって電話をかける行為は、大きなストレス(我慢の時間)なのだ。

予約さえできれば、あとは最高だ。
髪の毛を綺麗に整えられ、晴れやかな気分にしてくれる。自分が整うと世界も美しく見えてくるもので、帰り道はスキップしたくなる程、ご機嫌になれる。小さなことでも自分を前に進めてくれる我慢は素敵だと思う。

内にある恐怖や嫌悪に向き合い乗り越えることで、自分自身が解放されたり、明るい未来がやってきたりするのなら、とても良い。

でも足を止める我慢、後退する我慢、苦しい未来が待っている我慢はだめだ。
苦しい我慢を美談になんて、絶対に、してあげない。

わたしは今でこそフリーライターのお仕事をできるようになったけれど、以前は会社の歯車となって機械のように働いていた。

あの頃。クリエイティブディレクターという職業であらゆる広告制作の仕事をしていた頃。昨今の影響によって経営が傾いた会社は組織の人員を半減させた。救済措置もないまま、以前と変わらない仕事量を社員に配分し、より高い質を求め、わたしの日々は会社を軸に回っていった。

早朝にパソコンの電源を入れて、休憩もしないまま陽は沈み、0時を回ってからもパソコンの画面は光り続ける。山場を乗り越えた先に待っていたのは「昇給やボーナス」による還元ではなく「アリガトウ」や「キミタチノオカゲ」といった10文字にも満たない言葉の亡骸。

ワーカーホリックの多い職場では、ヒィヒィ言いながら日々を生きることこそ美談とされた。まさに命を削る仕事。右手の拳を胸に当てた『心臓を捧げよ!』同然の空気感が其処にはあった。

限界はすぐに訪れたと思う。食欲がなくなり、夜は眠れない。動悸と涙を携えながら働くのが当たり前になって、自分がなくなるまで会社のために戦いつづけた。

悪魔という名の我慢は、正常な思考を止める魔法が得意なようで『頑張らなきゃ』『泣いてしまう自分が悪い』『成果を出さないと価値がない』と心を拘束し、日々自らを責め立てた。

それから数ヶ月。ついに限界突破を迎えたわたしは、我慢を辞めた。休職を経て、退職をする決断を下したのだ。

正直、我慢を辞めるのは怖い。
未来が不確定だから不安で仕方ない。休職したところで、何をしたらいいのか分からない。次の職を探さないまま退職して、生きていけるのだろうか。生きづらい世の中を恨んでみても、現状は変わらなくて、どうしようもなく苦しい。息をしているだけで辛い。人に相談するのでさえ、恐ろしい。

我慢を辞めても、息を吐けばドロドロとした不安が目の前を覆う毎日だった。だけれど、止まっていたわたしの時間が少しずつ動いていくのを頭の片隅で感じていた。

何もしないまま一日を過ごしたり、昼寝してみたり、好きなところに行って、好きなもの食べて、アニメを見て、漫画を読んで、音楽に浸って……。気ままに数ヶ月過ごしていると、何かが心に戻ってくるような気がした。

我慢という悪魔が解かれたことで、心に隙間が生まれていたんだと思う。空いた隙間には、新しい風がいくつも通り抜けていく。それが何かは分からないけれど、確実に今までとは違う、温かいものが自分のなかを通っていく感覚。

温かい気配に気がつくまでは、かなりの時間を要した。命を裂く勇気もないのに、楽になりたいと願った夜もあった。だけど、ほんの少しずつ、感じる。温かい何かに触れたいという欲求が、わたしのなかに生まれていった。

ちなみに、いまはすこぶる元気だ。
食欲がありすぎて、すでにお正月太りを気にしているし、お昼寝したくせに22時に眠くなるし、自分が好きな「書く」を仕事にしながらニコニコ過ごせている。

我慢のおかげで今がある、なんてちっとも思っていない。思ってやるものか。我慢の崩壊によって人生の転機を迎えた可能性はあるけれど、わたしは美談にしない。黒歴史と呼んだ方がよっぽどマシだ。

小さなことでも、自分を前に進めてくれる我慢は良い。だけど、辛いばかりの我慢はもうしない。『頑張らなきゃいけない』魔法を解いて、わたしはわたしにとって必要な我慢だけチャレンジしてみようと今は思ってる。

だからこそ、今年は「70%の2022年」と題して、70%の力で生きてみようと思う。

100%の力を出し切らないと価値が生まれない、わけがない。命削って頑張らないと認められない、わけがない。成果が出ないと生きてちゃいけない、わけがない。

そういう人がまわりにいるとしたら、それは価値観が違うだけ。互いに否定をする必要はない。人の言葉で自分を呪縛するのも、もうやめる。

70%の力で、充分素晴らしいはずだ。
充分、価値があるはずだ。

それを身をもって証明してみようと思う。この経験がきっと未来のわたしに良い影響をもたらしてくれる。

休み休みだって良いじゃない。
70%分のパワーで、できることをやってみよう。

果たして70%の力を出すと、どれだけの幸せを感じられるのだろうか。わたしは70%の可能性を、365日かけて探してみるよ。

by セカイハルカ
top画像:umikoさん(えもすぎる!色が綺麗)
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