バースデイ・ストーリーズ

書影

【著書紹介文】
奇妙な話、切ない話、心がほんのり暖かくなる話。村上春樹が選んで訳す誕生日をめぐる十三話。訳者書き下ろし短篇「バースデイ・ガール」も収録。ライブラリー版のために訳した二篇を追加。

(書影と著書紹介文は https://www.chuko.co.jp より拝借いたしました)

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アンソロジーというのは、あるいはときによっては選ぶ側も読む側も「難しい」のかもしれない。
短篇集でもあるわけだが今年よんだ短篇集を並べてみると、

・犬の人生(マーク・ストランド)
・ナイン・ストーリーズ(J.D.サリンジャー)
・夜想曲集(カズオ・イシグロ)
・Carver's Dozen(レイモンド・カーヴァー)
・ワールズ・エンド<世界の果て>(ポール・セロー)

うん、どれもすごく良い印象がある。後味がある。

ところが今回はなかなか難しかった。

なぜか?

書き手が異なるから、のような気がする。話によってはぐわんぐわん頭がこんがらがる感じのある種の不快さもなかったわけではない。
また、あとがきにもあるように、訳者では選びきれずにいろんな方面からの推薦も受けている。(もちろん訳者がそれを読んで納得したものが掲載されているわけではあるが)

なるほどこれを逆に解釈すれば、ある場合にはアンソロジーは気に入ったものだけをふと手にとって再読するのがいいかもしれないし、同じ著者の書いた、全体としてひとつの流れになっている短篇集ならば、気に入ったものを読むのとともに全体を読み直してみるのもいいのかもしれない。

それでもこの「バースデイ・ストーリーズ」で気に入ったお話を少しご紹介。

【ムーア人(ラッセル・バンクス著)】
主人公はたまたまレストランでかつての不倫相手と遭遇する。彼女は80歳の誕生日を祝われている。再会を喜び、彼女を家まで送り届けることになる。別れた後の帰り道で主人公は涙をこらえるので精いっぱいになる。
…というお話。時の流れの残酷さと対照的に、謙虚に生きることの大切さが伝わってくる。あぁ…いろいろくぐりぬけてこられた人生なのだなぁ…。すごくよかった。

【バースデイ・ケーキ(ダニエル・ライオンズ著)】
とあるケーキ屋さんでの最後の一つのケーキをめぐっての攻防。片や7歳の娘の誕生日に買って帰りたいと切望する母親。片や毎週土曜に必ず買って帰るおばあさん。店主は常連のおばあさんに許可をとらねばと母親を保留するが、事情を説明してもがんこなおばあさんは譲らない。ついに母親は悲しみ、怒り嘆くが…。
…というお話。表面的にはみえない「苦しみ」が人それぞれにあるのかもしれない。それぞれに事情をかかえて生きている。それでも何かしら暖かさが残るお話。

【バースデイ・ガール(村上春樹著)】
訳者書き下ろし短篇。久々に村上春樹さんの小説を読んだけれどとてもよかった。レストランで働く20歳の誕生日を迎えた女性が、とある事情で急きょそのレストランのオーナーの部屋に夕食を届けたときの出来事。
もしも願いがかなうなら?幸せなきもちの残るオープン・エンド。うん、やっぱ春樹さんの小説すごくいい。

他にも「皮膚のない皇帝(リンダ・セクソン著)」「慈愛の天使、怒りの天使(イーサン・ケイニン著)」もなかなか良かったし、「風呂(レイモンド・カーヴァー)」は実は「ささやかだけれど、役にたつこと」のショート・ヴァージョンで、なかなかよかったけれど、長い方(ささやか~)の方が僕は好き(これめっちゃいい話です。ランキングも1位をつけている↓)。
https://note.com/seishinkoji/n/n2444d66d1676

…なかなか良かったアンソロジーなのではないか(笑)
もしかするとこんなふうに少しだけ後で(読後1週間後ぐらいにこれを書いています)ふりかえるのがいいのかもしれない。

残るものが、残る。
それがいいじゃないか。

GWはジャック・ロンドンの「マーティン・イーデン」を読みます。

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