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名文セレクション

2020/05/11 12:00 に 旧アカウントにて投稿した記事を転載 最新順<昇順> ※2021年6月9日 更新 ***** 生きているというのはすなわち、思い出すことなのだ ***** 忠実ではないとしても、それが強烈なものであることには文句のつけようがない ***** 今夜の楽しさは、南米の齧歯動物四十匹分の皮にたまたま行きあたったおかげで生まれたのだ ***** とにかく、わたしの才能を傷つけないのが最優先でしたから ***** 細部をおろ

    • 偉大なるデスリフ

      フィッツジェラルドを順に…だけれど前々から気になっていた1冊を読んだ。 巨大な幻想の救いがたい虜…、神話が生み出す二次神話…、幻想を引き受ける「責任」というと何か重々しいが、軽快な会話で物語は進んでいく。 ギャツビーが本作ではデスリフであり、デイジーが本作ではアリスという設定。語り手キャラウェイはアルフレッド。 本作ではギャツビーとは異なり、デスリフがアリスを手に入れる…が結婚生活がうまくいかない。 デスリフはしゃべりすぎるし、愚痴を吐きまくるし、全然ギャツビーじゃな

      • グレート・ギャツビー

        大晦日の夜より、1年ぶりに長篇小説を読み始め、まるで水を得た魚のようにすらすらと読み終えたのだが、僕(誠心)の過去のnote(2020年11月21日)によると、 https://note.com/seishinkoji/n/n9081e6b3e7d6 今回で『グレート・ギャツビー』を読むのは4回目らしい。 また、本作の刊行は1925年だけれど、書き始めはちょうど100年前の1924年。おぉ…。 さて4回目はどんなことを感じたか…ややネタバレになるけれど書いてみようと思いま

        • ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集

          【出版社Webより】 三十代にして迎えた不遇の時代。困窮のなかにあって、その筆致は揺るぎなく美しい。バラエティ豊かな短編小説と秀逸なエッセイ。最後の十年のベスト作をセレクト。 ***** 短篇集『冬の夢』が、『グレート・ギャツビー』に続いていく「プレ・ギャツビー」であるとすれば、本作は『夜はやさし』に続いていく「プレ・テンダー(Tender is the night)」ということができそう。一方、エッセイの方の『壊れる』3部作は、『夜はやさし』の後に書かれた、末期のエッセ

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        名文セレクション

          冬の夢

          カーヴァーからフィッツジェラルドへ。 村上春樹訳に関しては、『グレート・ギャツビー』を3回、『マイ・ロスト・シティー』を2回(新訳と旧訳を1回ずつ)、『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』なども読んでいるので、読んでいないものを時系列で読んでいきます。 まずは『冬の夢』から。 【出版社Webより】 天衣無縫に、鮮やかに、痛切に――80年の時を越えて読む者の心を打つ、20代の天才作家の瑞々しい筆致。来るべき長篇小説の原型を成す「プレ・ギャツビー」期の名作五篇をセレク

          私たちがレイモンド・カーヴァーについて語ること

          訳者の村上春樹さんが関わったレイモンド・カーヴァーに関する著述は本当にこれで最後になる(これから刊行されなければ…)。 本書はサム・ハルパートという方がインタヴューし、編集したもの。 まず、このハルパートさんのインタヴューの傾向として、基本的には短いセンテンスで質問し、インタヴュイー(ほとんどがカーヴァーと親交のあった作家、前妻のメアリアン・カーヴァーと2人の子の1人であるクリス・カーヴァー)が多くを語るという点では良いのだが、いささか「〇〇という短篇小説は実際にあった話な

          私たちがレイモンド・カーヴァーについて語ること

          私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー

          【著書紹介文(出版社Webより)】 密なる才能、器量の大きさ、繊細な心--。J・マキナニー、T・ウルフ、G・フィスケットジョン他、早すぎる死を悼む作家と編集者九人が、慈しむようにつづる作家カーヴァーの素顔。 ***** 村上春樹編訳の、レイモンド・カーヴァーについてのメモワール。9篇のうちの最後のウィリアム・キトリッジによるものが良かったので、一部を転載しつつ、僕(誠心)が感じたことを最後に書きます。P228~232から、「チェーホフの短篇の引用の一部(※)」→「キトリッ

          私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー

          必要になったら電話をかけて

          カーヴァー没後十余年を経て発掘された未発表短篇集。 村上春樹翻訳ライブラリーとしては2008年が初版。 「ビギナーズ」が2010年に刊行されているけれど、これは「愛について語るときに我々の語ること」のオリジナル版であったため、愛について~と併読したため既読(8つ前の投稿)。 つまり、これにてレイモンド・カーヴァーの全作品を読破したことになる。 今回の未発表短篇5篇については、「未発表」であったがゆえに、発表されることに故人はどんな気持ちなのだろうか…ということがよぎった

          必要になったら電話をかけて

          英雄を謳うまい

          【著書紹介(出版社Webより)】 初めて活字になった短篇『怒りの季節』など来るべき作品世界を暗示する習作群、単行本未収録の詩、自作を語るエッセイ、死を目前にした最後の散文。作家カーヴァーの起点と終着点を結ぶ作品集。 1. 訳者解題より、本選集のタイトルの意味について。 原題は“No Heroics,Please”。訳者はこれを『英雄詩はお呼びじゃない』とした方がコミカルな効果が出るかもしれないと書いている。なるほど。 カーヴァーは人生のある時点で英雄たちの物語に別れを告げ

          英雄を謳うまい

          滝への新しい小径

          【書籍紹介(出版社Webより)】 人生に残された時間はわずか。小説の執筆を諦め、詩作を選び、心血を注いで刻みつけた命の終わりの鮮烈な輝き--。一人の真摯な創作者レイモンド・カーヴァーの遺作となった詩集。 好きなのを3つ、転載します。 ワールド・ブック・セールスマン 彼は会話を聖なるものと考えている。 それはもう死にゆく芸術なのに。微笑みを浮かべつつ かわりばんこに、彼の一部は今日であり 一部は大総統である。その タイミングがコツだ。 ひらべったいブリーフケースからは 全

          滝への新しい小径

          あえて良かった短篇トップ3を挙げるとすると、「メヌード」「象」「ブラックバード・パイ」。 それぞれについて書いてみます。今回はネタバレもあまり気にせずに。 「メヌード」 近所の奥さんと浮気をし、家庭崩壊の危機にある男の話。彼はとにかく眠れず、いろんなことを思い出す。記憶の断片がただひたすらつづられている。ネガティヴがネガティヴを呼ぶ。 最後の方、熊手をもって枯れ葉の掃除にとりかかるあたりから何かしら空気が澄んでくる。何も語らず、黙々と枯れ葉を掃除する。隣の家のもやる。隣の夫

          ウルトラマリン

          レイモンド・カーヴァーの詩集。好きなやつを2つほど転載します。 今朝 今朝はまったく見事な朝だった。地面には少し 雪が残っていた。クリアな青い空に太陽が 浮かんで、海はどこまでもブルー、そしてまた ブルー・グリーン。 さざ波ひとつなく、穏やか。服を着替えて 散歩に出た-自然のさしだすものを しっかりと受け取らずにおくものかと。 身をかがめるように曲がった、古木のそばを通った。 あちこちの岩陰に雪が吹き溜まった 野原を横切った。断崖まで 歩いていった。 そこで僕は海を、空を

          ウルトラマリン

          水と水とが出会うところ

          レイモンド・カーヴァーの詩集。好きなやつを3つほど転載します。 ハッピネス まだ朝は早いので、外はほとんど真っ暗。 僕はコーヒーと、そしていつも早朝に 心をよぎる、思いとも言えないようなものと一緒に 窓辺に立っている。 すると、少年とその友だちが 新聞を配達するために 道を歩いてくるのが見える。 セーターと帽子という恰好、 一人の子供が肩から袋をかけている。 なにしろ、ものすごく幸福で 口もきけないくらいなのだ、その子供たちは。 できるものなら、腕を組みたいくらいじゃない

          水と水とが出会うところ

          大聖堂

          序文(著者の妻、テス・ギャラガーによる)が印象的。レイモンド・カーヴァーの『朗読』についてのこと、話は悲劇なのになぜか聴いて笑ってしまうとか、笑い声が大きすぎて途中で朗読が中断される、とかそういったエピソード。そこにある喪失のいたましさの表れ方がきわめて大胆かつ率直であったせいでそうなる、とある。 70年代、80年代にかけて色褪せたアメリカン・ドリームについて、訳者の言葉を借りれば「アメリカという幻想の共同体からのfailure(フェイリャ=失敗者)」についての短篇集。仕事に

          ファイアズ(炎)

          読むのに2か月かかった。仕事について力を入れたり研究したり、また帰郷したり海水浴に何度か行ったり…と小説からやや遠ざかっていた2か月。久々の投稿です。 【出版社Webより紹介文】 訳者が初めて出会ったカーヴァー作品「足もとに流れる深い川」等、より成熟したヴァージョンを含む七短篇と詩、作家としての来し方を記す秀逸なエッセイ。多彩な魅力を凝縮する自選作品集。 ***** レイモンド・カーヴァーの発表時系列だと本作は「愛について語るときに我々の語ること」と「大聖堂」という大作

          ファイアズ(炎)

          愛について語るときに我々の語ること / ビギナーズ

          レイモンド・カーヴァーの短篇集『愛について語るときに我々の語ること』は、編集者ゴードン・リッシュにより過剰な改変がなされたものだった…。オリジナル版が『ビギナーズ』。 これらは17篇から成り、それぞれ1~17まで順に収録されている。タイトルは同じものもあれば異なるものもある。表題作はいずれも16番目に収録されているもので、それぞれの作品はオリジナル版に対して30~70%ほど縮められている。 『ビギナーズ』の方に、カーヴァーがリッシュに宛てた痛切なる手紙が収録されていて、3回

          愛について語るときに我々の語ること / ビギナーズ