村上春樹、河合隼雄に会いにいく
ブルータス年譜によると、短篇集『レキシントンの幽霊』が1996年11月で、その次の著物が翌12月のこれ『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』ということで少し寄り道してみた。
今回よむのは3回目だと思う。短篇ジャーニーに手応えを感じつつ、いっちょここいらで頭の整理でも良さそうだ、ということで手にとって一気に読んでしまった…。
春樹さんの小説のスタイルは1979年にまずデタッチメント(かかわりの回避)からスタート。風の歌を聴け、とか、ピンボールとか、カラっと。
次に物語を語り、次に長篇『ねじまき鳥クロニクル』からコミットメント(かかわり)という3段階を踏んでいる。(作家人生43年とすると1996年って前半に入るんだなぁ…)
なぜ最初にデタッチメントを追求していたか、みたいな話もあって、でもそれは自分の立ち位置を明確にするため、だったのですね。
ではそれはなぜかというともう少しさかのぼるけれどキリがないのでこれはこのあたりにしておいて…。
河合隼雄さんに春樹さんは何度も何度も「僕は〇〇なところがあるんですけど、これはやはり□□なんでしょうか?」みたいな問いかけをする(本書においてはこれが最も興味深い)
僕の知る限りこういった姿勢の春樹さんは他にないわけで、いかに河合さんが特別な存在だったのか、ということを改めて感じた。
(僕も河合隼雄さんが大好きで他にも数冊よみました)
集中して仕事をするために渡米したんだと思うけれど、その間に湾岸戦争があったり、アメリカ人の強い倫理観に触れたりする中で「自分って何なのだろう」みたいなものが再燃。そして帰国。
ここから、地下鉄サリン事件の被害者にインタビューした初のノンフィクション『アンダーグランド』(これ、僕最後まで読んでないなぁ…)を発表するなど、どんどんコミットしていく。
春樹さんの場合はそういうものが原動力になっていったということ。僕の場合は…と置き換えて考えるところもあった。
ところで、プリンストン大学で日本の文学を教えていた内容がもとになっている『若い読者のための短編小説案内』も並行して読んでみると、春樹さんの意外な一面がたくさん見えて、「いかに自分の立ち位置を模索していたか」というのが伝わってくる。そしてやはり『ねじまき鳥クロニクル』はずいぶんターニングポイントになった小説なのではないかと改めて感じた。そのうちまた読むぞ。
ところで話がローリングするけれど、この2人の対談の前にも対談があって、それは『こころの声を聴く 河合隼雄対話集(新潮文庫)』に収められており、これも2人の対談の部分だけ今回よみ返してみた。
これはプリンストン大学で聴衆100人ぐらいを前にしての公開収録。すさまじい量の河合さんのジョークの数々にかなり笑った。
たとえばこんな感じだ↓
実際、村上さんの小説を読んで癒された人はたくさんいます。私のところに相談に来る学生さんが、『ダンス・ダンス・ダンス』を読んで救われたと言われます。ほんとは僕の本を読んで救われたと言ってほしいんですけど(笑)
他にもこんな感じだ↓
村上▶僕は日本で生まれて日本語を母国語として育ってきて、日本語で書くし、それ以外の選択肢ってのはありえないわけですね。
~中略~
河合▶村上さんが言われたとおりで、私の場合も、日本語というよりは関西弁でしか考えられない(笑)
*****
「僕が小説で書こうとしてるのは、ほんとの底まで行って壁を抜けて……」という村上さんの発言は『ねじまき鳥クロニクル』の井戸のイメージを想起させる。このような深い井戸掘りの作業をするために、村上さんが海外に在住しておられることがよく了解できる。日本にはおせっかいが多いので、落ち着いて一人で井戸など掘っておられないことだろう。編集者とかいう人が「どれぐらい掘れましたか」と覗きに来るに違いないし、隣近所も放っておいてはくれないだろう。
現代は一人一人の人間が自分の物語を見出してゆかねばならぬときだ、と私は思っている。「傷というのは物語に入る入口なんです」と私は言ったが、実際私はそう思って、多くの傷ついた人達とお会いしている。やり甲斐のある仕事である。
(『こころの声を聴く 河合隼雄対話集(新潮文庫)』P280より)
【著書紹介文】
村上春樹が語るアメリカ体験や1960年代学生紛争、オウム事件と阪神大震災の衝撃を、河合隼雄は深く受けとめ、箱庭療法の奥深さや、一人一人が独自の「物語」を生きることの重要さを訴える。「個人は日本歴史といかに結びつくか」から「結婚生活の勘どころ」まで、現場の最先端からの思索はやがて、疲弊した日本社会こそ、いまポジティブな転換点にあることを浮き彫りにする。
(書影と著書紹介文は https://www.shinchosha.co.jp より拝借いたしました)
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