ムーン・パレス

書影

初のポール・オースター。

前から気になっていた作家。どうやら本作の評価が最も高そうなので選んだ。

はっと息をのむようなすばらしい表現がたくさんあった。カポーティの言葉の美しさと、チャンドラーの比喩の執拗さ(良い意味での)がほどよくブレンドされているような印象。

そして柴田元幸さんの訳が良いです。とてつもなく親切。訳者によって違うよなぁ…と再度実感。

M・Sフォッグ(主人公)は幼少の頃から家族の不運にみまわれる。
最後まで偶然と奇跡を重ねるけれど、トマス・エフィング(フォッグが初めて就いた介護職で相手した老人)がフォッグに語る物語のように、跡を消しながら真相に向かっていく。

芸術について多く触れられている。「書き続けることで己が消えてゆく」というのはサリンジャーの晩年や、「月と六ペンス(サマセット・モーム)」に登場する画家を思い出させる。

失い続けるフォッグは歩き続け、そしてたどり着く。

ラストシーン…かなり好きです。

「体のぐあい」についての描写が細かく多彩。精神が肉体に影響する、というよりも「肉体が精神に影響する」こと。忘れがちだけど、大切なこと。エフィングは絶体絶命の孤独の中で、規則正しい生活を送った。

「海外の小説が初めて」という方にもおすすめです。

いつかオースターの他の作品も読んでみたい。(積ん読がいっぱいあるのでな)

【著書紹介文】
失い続けた先に、何があるのだろう。孤独で、もやもやした青春――。名手オースターの人気No.1作品。

人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた……。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。

(書影と著書紹介文は https://www.shinchosha.co.jp より拝借いたしました)

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