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容器の残量は打診で測る

 私がまだ研修医の頃、打診と聴診技術のとても優れた先生に教わったことがあります。その先生は離島での診療経験も豊富でしたので、ここでは敬意をもってDr.コトーと呼ばせていただきます。

 Dr.コトーは言いました。

「皆さんは不透明なボトルに入った液体の残量を、どうやって調べますか?」

 何を言っているんでしょうかこの人は。ボトルの大きさにもよりますが、持ち上げてチャプチャプ振れば大体見当がつくでしょう。

「まさか、医者がチャプチャプ振って見当をつけるなんてことはありませんよね?」

「医者なら打診で分かるようにならなくては。」

 打診というのは、手首のスナップをいかして指先でポンポンと軽く叩きながら診察する手法です。ブラックジャックでも度々登場する技術ですが、まず思い出すのは「第78話 地下壕にて」ですね。

 やってみせよう、と言ってDr.コトーは水の入ったボトルに近付きます。トトトト、トントン。ここ、と言って水位をピタリと当てました。
 ええ…なにそれかっこいい。

 聴診器を使うと応用範囲が広がるんだ、と言ってDr.コトーは得意気にリットマンマスターカーディオロジー(高級聴診器)を取り出します。詳細は割愛しますが「聴性打診」という技術があって、聴診器と打診技術だけで「慢性硬膜下血腫」「胸水貯留の量」「骨折の有無」などを推定することが可能です。細工したヘルメットを頭蓋骨に見立てて「血腫」の場所をあてたり、ゴミ箱に水を入れて水位をあてたり、2本のキュウリの片方にカッターで切り込みを入れてどちらが「骨折」しているかあてたり、とても面白い実習でした。

 医療資源や検査機器の限られる「離島」では、こうした身体診察の技術が非常に重宝されます。在宅医療でも有用でしょう。

 さて、ここまで魅せられたら自分もできるようになりたいと思います。だってかっこいいから。それで私は日常生活でもスキあらば打診を行い、病棟では聴性打診に勤しみました。

 1年くらい経つと、ボトルの残量が打診で完全に分かるようになりました。今でも打診は日常診療で使いますし、時々聴性打診もやっています。

 Dr.コトー。今なら胸を張って言えます。

 チャプチャプ振った方が早い。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方のジュースの残量が期待通りの飲み心地でありますように。


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