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笑っていると楽しくなってくる話

 お笑いが好きです。笑いというのは不思議なもので、腹の底からこみあげてくるような、それでいて爽快な気分に包まれていくような。曇り空が晴れていくように、心に光が差し込みます。

 クラスに馴染めず部活に馴染めず、抑鬱と離人感に苦しんでいた中学生の頃、保健室の先生に言われたことがあります。「君は真面目すぎるよ。たまにはバカな番組をみて笑ったほうがいい。」
 真面目な私は早速お笑い番組をみました。すると、だんだん笑えてきます。笑っているうちにさらに面白く思えてきて、声が出ます。涙も出ます。心が軽くなります。泣くほど笑っていた私をみて、両親は心配したかもしれません。

 この感情は、どこから来るのでしょうか。

 楽しいから笑う、面白いから笑う。それが自然なことのように思われますが、ここでは「笑うから楽しくなる」という説に触れたいと思います。

 今では逆じゃない?と思うことを大真面目に主張した心理学者たちがいます。

 ジェームズ・ランゲ説(1890年)は感情の末梢起源説とも呼ばれますが、情動(感情)が身体的変化によって生まれるという立場をとります。末梢感覚器の知覚による変化こそが、感情を引き起こすというのです。詳しくはジェームズの著書「The briefer course」にありますが、彼はこの主張を実験によってではなく(!)、自身の経験から導き出したようです。

 彼らの説はキャノンやバードら(1927年)を始め複数の実験結果による反論を受けますが、現代においても完全に否定するだけの根拠は示されていません。比較的新しいところではシャクターとシンガー(1964年)により、感情は認知影響と身体反応の2つの要因が関与していると提唱されています。

 やはり「笑っていると楽しくなる」という経路も存在することが示唆されます。

 心身二元論には限界があって、実際には心と身体は同時に関連しながら存在し、切り離せない関係なのだと思います。心の問題を精神論だけで解決しようとすると歪みが生まれます。
 辛いこともあるでしょう。やりきれない思いは何処に収めればいいのでしょうか。そんな時、

 笑う。

 身体を動かして、全身の感覚器に刺激を与えていくのもいいでしょう。ほら、なんだか楽しくなってきます。何が楽しいのか分からないけれど、曇り空に光が差し始めました。淀んだ憂鬱な空気に変化が訪れます。

 あまりに悲しいときは、それでも泣けてくるかもしれません。そうしたら、泣けばいい。

 大切なのは自分の感情に気付いてあげること。

 否定すれば否定するほど、感情はエネルギーを蓄えて爆発していきます。それはちょうど笑ってはいけない環境で笑いを堪えるのが難しいように。許されない恋ほど熱く燃えていくように。
 哀しみや不安も、抑えようとすればするほど大きくなっていきます。

 どうせ生きていくなら、楽しい方がいい。

 今年はどんな年だったでしょうか。
 難しい顔で表情筋が固まっていませんか。

 あの日の私は、確かに笑いに救われました。

 楽しい人生への第一歩。意味もなく笑いながら年末を過ごすのも、素敵な試みかもしれません。

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