「ぼくは、ぜったい捕れるまで帰らない!」諦めない気持ちを、キミから学んだ日
「もうぜったいにオオルリボシヤンマが捕れるまで、僕は帰らないからね!」
今にも泣き出しそうな顔をした息子が、そう言い出すのを聞いて、私はやれやれと思った。
もう、かれこれ数時間、湖の横で息子の奮闘ぶりをボーッと見続けている。
息子は時々不機嫌になりながらも、ずっと網をふり続けている。
ここ数年の夏の息子の写真は、網をもって水辺を見つめているものが圧倒的に多かった。
昨年の夏、私たち家族は、長野県の山の中へ2泊3日の旅行に行く予定になっていた。
そこは湖もたくさんある場所でお目当てのトンボも穫れるだろうと、息子は前からとても楽しみにしていた。
これまで捕ることができたのは、ギンヤンマ、オオヤマトンボ、イトトンボ、コオニヤンマ(正確にはヤゴ)などなど。
息子は、次なるターゲットを、オニヤンマとオオルリボシヤンマと決めていた。
中でも大本命は、家の近所では全くお目にかかることのできない、オオルリボシヤンマだった。
【オオルリボシヤンマ】『ウィキペディア(Wikipedia)』より 日本最大級の大型のヤンマで、近縁のルリボシヤンマよりやや大型。オスは全長76-94 mm、メスは全長76-93 mm、。オニヤンマの黄色の斑紋を瑠璃色に置き換えたような形態。オスは成長すると斑紋が青色となり、メスには斑紋が青色と緑色の2種類のタイプがある
旅行、1日目
旅行の道中、まず休憩で立ち寄ったSAで、息子のトンボとりのために数時間の足止めになった。
そのSAは、小さなロープウェイと巨大な滑り台がある場所で、奥に山が広がっていた。
小さな水辺があり、オニヤンマがいるのを息子が目ざとくみつけた。
少しだけ試しに網をふるはずが、うまく捕れず、あっという間に30分が経った。
いかにも捕まえられそうな距離で、オニヤンマが周回してくるにも関わらず、息子は何度もチャンスをのがし、うまくいかない自分に苛立ちながらも、さらに網をふり続けた。
オニヤンマは時速70kmで飛ぶらしいので、なかなか捕るのは難しいのだ。
(私もチャレンジしたけど、撃沈!)
あっというまに1時間半くらい経っただろうか。
「目的地につけば、きっと、いっぱいトンボいるからね……」 と何度も説得するも、「ここで絶対とる!このチャンスを逃したら、目的地に行っても本当にいるかわからないから」という息子。
「たしかに…」おっしゃる通りではある。
しかし、すべり台に目を輝かしていた下の息子も夫も、何度も滑り台を往復して、もうとっくに飽きている。
さらに30分ほどねばり、結局オニヤンマを捕ることができないままに2時間が経ち、息子は泣きべそをかきながらその場を去ることになった。
私は、内心ヒヤヒヤしながら、「どうか目的地の湖に、目当てのトンボ様がいてくれますように…」と祈るような気持ちで目的地へ行った。
目的地にいくと、ギンヤンマが何匹か飛んでいたようだ。
(私の目では、オニヤンマもギンヤンマも区別がつかないので、遠目で区別がつく息子はなかなかすごいなと思う。)
この日は、オニヤンマもオオルリボシヤンマもおらず、息子は少々がっかりしたようだった。
私は、どんなトンボでも、まずはいてくれてよかったな……と少しだけホッとした。
一日中網をふり続けた、旅行2日目
義理の家族と合流し、私は、乗り物好きな下の息子とゴンドラに乗ったり、少し山歩きをするなどして過ごすことにした。
上の息子は当然、トンボとりをするために、近くにある湖や沼をめぐる計画のようだった。
夫がそれに付き合うことになり、夫の旅行時間は、ほぼすべてトンボ捕りに費やされた。
この日は、オオルリボシヤンマがいそうな沼や湖に少しずつ移動して、数時間ずつ網を振り続けて過ごしたようだ。
私は早々に、行きのSAの時点で、あぁもう付き合い切れるないなぁと脱落していたので、夫が気長に付き合ってくれたのはありがたかった。
しかし、この日も念願のオオルリボシヤンマに出会えはしたものの、確保まではできず息子はイライラを募らせていた。
そうそう、自然と向き合うって、簡単にはうまくいかないよね...ということを、私たち親子は身をもって知った。
旅行、3日目。 執念が実を結ぶ?
早くも、帰る日が来てしまった!
そして、とうとう「オオルリボシヤンマを捕れるまで帰らない!」と、息子が言いだした。
私は、まずいな……と思った。
もし捕れなかったら、行きに立ち寄って数時間足止めされたSAにぜったいに寄る!とまで言い出した。
まさか帰りまで、そんな目に会うのはゴメンだ。
でも、これまで、夫もかなり本気モードで息子につきあい、あらゆる沼をめぐり捕れなかったオオルリボシヤンマ。
正直この旅行では無理なのではないか…...と私は諦めかけていた。
どうしたら、息子が機嫌よく帰ってくれるだろうか。
一生懸命がんばった息子に、一体どんな言葉をかけたらいいのか?そんなことを考えはじめていた。
あと数時間で去るというときになって、一番観光客の多い湖に立ち寄ることにした。
でも、この判断が良かったようだ。
観光客が多い湖なので、多分「オオルリボシヤンマ」はいないんじゃないかと私達はふんで、これまで行かなかった場所。
ボートで湖へ乗り出し、ボートの上で網をふることにした息子。正直危ないなと思ったが、もうここまで来たら、思う存分やらせるしかない。
トンボをみつけた息子が指示を出し、夫がすばやくそこへ移動し、息子が網をふるという時間がしばらく続いた。
ちょうど11時半頃だっただろうか。
満面の笑みで、息子たちが戻ってきた。
ついに念願のオオルリボシヤンマゲット!!!
ずっと仏頂面だった息子が、ものすごく嬉しそうな顔をしているのを見て、本当に良かったなと思った。
あんなに一生懸命に網をふるいつづけてきた息子が、執念でとったオオルリボシヤンマはものすごく綺麗だった。
思えば、息子みたいな執念を、今、私はもてているだろうか。
息子のこのオオルリボシヤンマへの執念には、気迫も集中力もすごいものがあった。
高原で涼むはずが、思いがけず過酷なトンボとりツアーとなった夫には敬意を示したい。
でも、このなかなか自分の思う通りにはならない自然という教室の中で色んなことを学んだろうし、私も息子から沢山教わったものがあった気がする。
後日談
それから2週間もしないうちに、日光に住む友達に、そうめん流しのようにオニヤンマがとれる公園があるというのを教えてもらい、喜んでトンボとりに行った息子。
そこでは、本当にそうめん流しのようにオニヤンマやオオルリボシヤンマが周回していたようだ。
簡単にお目当てのトンボが山のように捕れたようで、息子も大満足。(みなさん、リリースしたけど。)
最初からそこへ行っていれば、今回のような苦労もハラハラもなかっただろう。
でも、捕れそうで捕れない!という渇望みたいな経験をすることも、きっと貴重な体験になったんだろうから良しとしようと思う。
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