正調粕取研究ノート

日本が誇る伝統的蒸留酒「正調粕取焼酎」の魅力について書き溜めていきます。 日々の活動はTwitterアカウント「正調粕取.net(@seicho_kasutori)」をご覧ください。

正調粕取研究ノート

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    • 焼酎史マニアックス

      焼酎の歴史について考察した記事をまとめます。随時更新。

    • 正調粕取ジンプロジェクト

      正調粕取焼酎をベースとしたジンを造ろうというプロジェクトです。

    • 正調ミステリーハンター in 島根

      島根県(と一部鳥取県)への正調粕取焼酎の実態調査結果をまとめました。全5回、約1万6千字、写真盛りだくさんです。

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    正調粕取焼酎への思い

    はじめまして。 Twitterアカウント「正調粕取.net」の中の人です。 日本の伝統的蒸留酒である「正調粕取焼酎」のことを中心に、お酒のこと、食文化のことなどを Twitter に投稿しております。 このたび、Twitterでは書ききれない長文を発信するため、note を始ることにしました。 その「初回兼自己紹介」として、正調粕取焼酎への熱い思いを語りたいと思います。 1.農村の暮らしと歩んできた「悠久のロマン」正調粕取焼酎とは、「酒粕」を主原料し、通気性を確保するた

      • 【(仮)アル添の歴史・原案】後編:柱焼酎からアル添に至る系譜を探る

        前編はこちら 後編:柱焼酎からアル添に至る系譜を探る1 江戸時代:柱焼酎の変容 前編の繰り返しとなりますが、柱焼酎の最古の記録である『童蒙酒造記』の記述から、当時の柱焼酎の目的は「香味の調整(辛口化)」と「腐造・火落ち防止」であることが伺えます。 一方、明治時代以降の文献では、柱焼酎の目的として「腐造・火落ち防止」のみ言及されており、「香味の調整(辛口化)」は見当たりません(あくまで私が調べた範囲ですが)。 このような目的の変化が生じた理由は、辛口の日本酒を醸造する技法

        • 【(仮)アル添の歴史・原案】前編:シェリーと柱焼酎のつながりを探る

          まえがき お久しぶりでございます。 しばらくnoteの発信をしておりませんでした。 正直なところ、粕取焼酎の歴史研究は行き詰っており、これ以上進めるためには現地調査や聞き取りが不可欠だな…と痛感しています。 一方、自分自身が子育て中の主夫(兼業主夫)ということで、遠方に長期外出するチャンスが少ないため、まあ、そのうち…と気長に構えているところです。 そんなある日、クラウド上のデータを整理していると、気になるドキュメントを見つけました。 タイトルは「アル添の歴史メモ」。 そう

          • (続)「粕取前線」北上の足跡を追え!! ~近江商人の足跡と蒸留技術伝播の再検討~

            今年(2022年)は、これまでの断片的な研究成果を統合し、粕取焼酎の「通史」を記述することを目標としています。 まだまだ研究材料は不十分、かつ当方の考証も稚拙であり、良い成果を出せるかどうかは疑問ですが、ひとまず全体を形にして、後から質量を充実させていければと考えています。 その第一歩として、年明けに、清酒と酒粕を分かつ存在としての「布の歴史」について考察を行いました。 そして、第二弾である今回は、粕取焼酎蒸留技術の国内伝播の鍵を握る「近江商人」をテーマとして取り上げます

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            2022年頭ご挨拶:布の歴史と粕取焼酎

            遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。 今年も正調粕取焼酎をはじめとする日本の蒸留酒との付き合い、そして皆様との交誼を益々深めていきたいと考えています。 どうそ宜しくお願い申し上げます。 年末年始は兵庫県の実家に帰省し、日中は大掃除や息子たちの相手で賑やかに過ごし、夜は落ち着いて飲食と読書を楽しんでいました。 その間に読み終えた一冊、永原慶二『苧麻・絹・木綿の社会史』という本がとても素晴らしい内容であり、これを起点に粕取焼酎ついての思索を深めることができました。

            「正調粕取ジン」プロジェクト始動!!

            はじめに本noteでは、正調粕取焼酎の可能性を少しでも広げ、認知の向上・消費の拡大・文化の継承などに繋げるため、ボタニカルとの相性を探る実験を開始しました(過去の記事を参照)。 上記のうち第一回目の実験を行った直後のこと、かねてから交流がある東京リバーサイド蒸留所のマスターディスティラー・山口歩夢さんが、私の拙い実験に呼応する形で一本のDMを送ってくださいました。 読んでびっくりの内容です。 私は一介の素人、それに対して山口さんは若くして恐るべき技量・知識・好奇心、そして

            「正調粕取ジン」プロジェクト(序章②:正調粕取焼酎と和ジンのブレンド実験)

            実験シリーズの第二回をお送りします。 1.実験の着想前回の実験では、正調粕取焼酎に様々な和のボタニカルを浸漬し、その相性を探っていきました。 その結果として、正調粕取焼酎の香味が、思いのほか多様なボタニカルと調和することが分かりました。 さて、次の実験をどうしたものか。。。 複数のボタニカルをブレンドしようか、それとも、正調粕取の色々な銘柄で遊んでみようか。。。 早くも迷走しそうな雰囲気でしたが、思わぬところで素晴らしいヒント(というか、答え?)に出合いました。 そこは

            論文精読:山下勝「粕取焼酎」(後編)

            前編はこちら。 後編では、山下勝氏の論文「粕取焼酎」のうち、明治・大正以降の粕取焼酎事情の部分をご紹介します。 0.仮説:近代は粕取焼酎の「全盛時代」?当方は、この論文を読む前から、明治・大正時代は粕取焼酎の「全盛時代」だったのではないかという仮説を持っていました。 その根拠は、この時期に酒粕の発生量が飛躍的に増加したと考えられるからです。 明治・大正時代の政府は、富国強兵・殖産興業を推進するための財源として酒税に着目し、酒類への課税を強化するともに、研究開発の支援など

            論文精読:山下勝「粕取焼酎」(前編)

            昨年末のことになりますが、正調粕取焼酎を始めとする酒類の知見をより深めるため、「酒史学会(しゅしがっかい)」に入会しました。 そして、さっそく下記の論文を取り寄せ、年末年始に精読しました。 ・山下勝「粕取焼酎」  第 20 号(平成 16 年 3 月刊行)収録 ・西谷尚道「日本の焼酎-その税制と技術史について」   第 25 号(平成 21 年 2 月発行)収録 ・菅間誠之助「本格焼酎形成期にみられる清酒醸造技術の影響」  第5号(昭和 62 年5月発行)収録 どれも素

            「正調粕取ジン」プロジェクト(序章①:正調粕取焼酎への和ボタニカル浸漬実験)

            Twitterアカウント「正調粕取.net」にて、今月から不定期のニュース投稿を始めました。 この実験記事は、上記2番目の「東京リバーサイド蒸留所」にインスパイアされたものです。 1.事のはじまり 東京リバーサイド蒸留所では、酒粕を蒸留し、そこに各種ボタニカルの風味を加えたジンを製造することになっています。 マスターディステラーの山口さんから伺ったところによると、ベースのスピリッツは「吟醸醪粕取焼酎」だそうです。 そこで、ふと思い立ちました。 吟醸醪粕取焼酎ベースのジ

            日本酒・焼酎のユネスコ無形文化遺産登録に向けた動きについて(最後に粕取焼酎も出るよ。)

            遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。 本note及びTwitterアカウント「正調粕取.net」を開設したのは、昨年のちょうど今頃のことでした。 ニッチな分野ですが、皆様との楽しい交流があったからこそ、細々と続けて来られたのだと感謝しております。 今年もネタが続く限り続けて行きますので、宜しくお願い申し上げます。 さて、年始一発目からお堅いネタですが、当方らしい「オチ」を用意しておりますので、最後までお読みいただければ幸いです。 ■はじめに:日本酒・焼酎と無

            【夏休み自由研究】室町時代~江戸時代初期の酒造技術伝来史

            久しぶりの投稿です。 8月は子供の夏休みということで、家族との時間を大切にしつつ、アウトドア、読書などを楽しみ、控えめながらお酒も楽しんでいました。 そして9月を迎え、「実りの秋」に向けて復活の狼煙を上げようということで、夏休みに自分なりに考えたことを書いてみようと思います。 さて、読者の方は良くご存知かと思いますが、正調粕取焼酎、そして焼酎全般の歴史を語る上で最も大きなミステリーは、技術伝播(海外からの伝来と国内伝播の両方を含む)の記録が残されていないことです。 これまで

            【外伝:豪雨復興支援】球磨焼酎の歴史と魅力<後半:球磨焼酎の発展&総括編>

            江戸時代を迎えると、球磨地方の史料に焼酎のことが現れるようになります。さらに、明治時代以降は焼酎の製造、流通などに関する具体的な記録が増加し、現在に至るルーツが見えてきます。 そこで、自由に空想を巡らせた前半とは対照的に、この後半は史料に基づいて球磨焼酎の歴史を追っていきます。 ■現代の球磨焼酎の分類とそのルーツ現在、球磨地方(人吉市及び球磨郡)には27の藏元があり、200以上の銘柄の焼酎が製造されています。ここでは、製造方法によって大きく以下の3つのタイプに区分します。

            【外伝:豪雨復興支援】球磨焼酎の歴史と魅力<前半:前書き&焼酎先史時代編>

            私が球磨焼酎に関心を持ったのは、いまから約3年前、焼酎の師匠である新橋のバー「玉箒」のマスターと、友人congiro氏の奨めによるものでした。その後、自分なりに色々なタイプの商品を試す中で、とりわけ常圧・長期熟成商品の「全体として静かでありながら、芯の部分に米の風味が凝縮されている味わい」に魅了され、すっかりファンになってしまいました。 そして、2018年の年末に球磨地方への聖地巡礼を果たした直後、報告がてら「玉箒」を訪れたところ、マスターから「明治波濤歌」という一風変わっ

            はじめての蒸留現場-天鷹酒造訪問記

            「あちらが蒸留器です。」 案内された作業場の片隅に、少々古びた金属製の機械が見えました。 おお、これが…これが憧れの「せいろ式蒸留器」か!!! 蒸留酒に目覚め、焼酎に開眼し、正調粕取焼酎にのめり込んだ身として、いつかは必ず蒸留現場に立ち会ってみたいと、強く願っていました。 そして、ついにその機会が訪れたのです。 ■事のいきさつ先日の記事「【緊急投稿】いま「正調粕取.net」が応援する3つの蔵元」に書いた通り、天鷹酒造(栃木県大田原市)は、私が最も応援している正調粕取蔵

            「粕取前線」北上の足跡を追え!! ~江戸時代の東北・関東地方における粕取焼酎普及の一考察~

            以前のnoteに書いた通り、正調粕取焼酎の蔵元は、「九州北部」、「山陰」、「南東北・北関東」の3地域に集中しています。 今回のnoteでは、このうち「南東北・北関東」の正調粕取焼酎の歴史について、現時点の調査成果を整理します。 ■「会津農書」と粕取焼酎焼酎に関する古い文献の一つに、会津郡幕内村(現・福島県会津若松市)の農家・佐瀬与次右衛門が著した『会津農書』(1692年)があります。 この書籍の最大の特徴は、寒冷地、豪雪地、さらに外部から資源を調達しづらい山間部という会津の