星苳 春 -sebuki haru-

星苳 春 -sebuki haru-

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見えない光で照らして、見えない闇を見つける科学。心が気づかないもので心には気づけない。張り詰めた弦は切れやすく鳴りにくい。響かない言葉に壊れやすいけど、初めての季節ほど湧き水のようにしたたかに響く。思うよりも多くの時間は余韻だけで生きている。今は静かな春の声に周波数を合わせて。

    • その木が植えられてピアノになるのは百年後。朝の水はまだ冷たいけれど、掌で湛えている間だけ時間は止められる。生きていればこぼれていくものだから遠い日のことは考えられない。今朝、芽生えたから土は今日も生きている。心の形は見えないから不安になる。信じて少しだけ身を預けるようになった冬。

      • 風に負けないように地面低く葉を伸ばした。育てた種を遠くまで見送れる孤高に咲く。よく晴れた朝、繋いでいた手をそっとほどいた。続いた雨の日にすぼんでいた繊細な傘は、乾いた空に開いてどこまでも飛んでいける。風が奏でる音楽は心を越えていくから、風に素直で軽やかな羽根があればいい。

        • 言葉は湿度と温もりを帯びて寒空の下で白く濁る。発言が事実を作り、問題にすることが問題になる街。ピアノが弾けるなら言葉は要らない。風に忙しく散る小雪の装い。その結晶は見えないけれど花のように雄弁。そんな風に話してみたい雪の日の願い事。いつしか積もらなくなって、日常に沁み込んだ言葉。

        見えない光で照らして、見えない闇を見つける科学。心が気づかないもので心には気づけない。張り詰めた弦は切れやすく鳴りにくい。響かない言葉に壊れやすいけど、初めての季節ほど湧き水のようにしたたかに響く。思うよりも多くの時間は余韻だけで生きている。今は静かな春の声に周波数を合わせて。

        • その木が植えられてピアノになるのは百年後。朝の水はまだ冷たいけれど、掌で湛えている間だけ時間は止められる。生きていればこぼれていくものだから遠い日のことは考えられない。今朝、芽生えたから土は今日も生きている。心の形は見えないから不安になる。信じて少しだけ身を預けるようになった冬。

        • 風に負けないように地面低く葉を伸ばした。育てた種を遠くまで見送れる孤高に咲く。よく晴れた朝、繋いでいた手をそっとほどいた。続いた雨の日にすぼんでいた繊細な傘は、乾いた空に開いてどこまでも飛んでいける。風が奏でる音楽は心を越えていくから、風に素直で軽やかな羽根があればいい。

        • 言葉は湿度と温もりを帯びて寒空の下で白く濁る。発言が事実を作り、問題にすることが問題になる街。ピアノが弾けるなら言葉は要らない。風に忙しく散る小雪の装い。その結晶は見えないけれど花のように雄弁。そんな風に話してみたい雪の日の願い事。いつしか積もらなくなって、日常に沁み込んだ言葉。

          錯覚を打ち消すために敢えて歪んだタイポグラフィ。正しさだけでは心に寄り添えない。今にも途切れそうなフィルムを手繰り寄せて、擦り切れそうな回想の始まりに帰る。0と1の電気信号に色褪せない未来を託しても、この恋は知らない。忘れていく美しさ、数えられない温もりは昔から空の下にある。

          錯覚を打ち消すために敢えて歪んだタイポグラフィ。正しさだけでは心に寄り添えない。今にも途切れそうなフィルムを手繰り寄せて、擦り切れそうな回想の始まりに帰る。0と1の電気信号に色褪せない未来を託しても、この恋は知らない。忘れていく美しさ、数えられない温もりは昔から空の下にある。

          音楽を見つける時、心もまた宇宙になる。道に迷った時、重力を持った主音が果てまで光を届けてくれる。また巡り会う日には素直な音を研ぎたいと願いながら、遠ざかる星の音の悲しい響きに背を向けた。晴れから雨、そしてまた晴れのカデンツ。雨上がりに訪れる七色の歌。振り向けば世界で一番眩しい星。

          音楽を見つける時、心もまた宇宙になる。道に迷った時、重力を持った主音が果てまで光を届けてくれる。また巡り会う日には素直な音を研ぎたいと願いながら、遠ざかる星の音の悲しい響きに背を向けた。晴れから雨、そしてまた晴れのカデンツ。雨上がりに訪れる七色の歌。振り向けば世界で一番眩しい星。

          心は柔らかく見えて型に嵌まったまま次の住処を探す。川の流れるように忘れているのに、忘れられないのはずっと続いているから。ふる里の海まで、水は気紛れに見えて世界の形に忠実にダンスする。通いなれた橋、一筋の波光。幾度の優しい光に染まる未来へ。心細くて手を握った、気紛れで暖かい冬の日。

          心は柔らかく見えて型に嵌まったまま次の住処を探す。川の流れるように忘れているのに、忘れられないのはずっと続いているから。ふる里の海まで、水は気紛れに見えて世界の形に忠実にダンスする。通いなれた橋、一筋の波光。幾度の優しい光に染まる未来へ。心細くて手を握った、気紛れで暖かい冬の日。

          早く起きた日は部屋を灯さずに、窓の向こうの時明かりを頼りに朝を見つけたい。闇と光が溶け合う空の秘密。社会に閉じ込めようとしてひずんだ心の声が、その指先でどんな和音にも名前をつけて自由を歌う。暗闇の中から光に向かう顔は美しく、秘密の窓を押し開けて、新しい風にそよぐ最後の帳をめくる。

          早く起きた日は部屋を灯さずに、窓の向こうの時明かりを頼りに朝を見つけたい。闇と光が溶け合う空の秘密。社会に閉じ込めようとしてひずんだ心の声が、その指先でどんな和音にも名前をつけて自由を歌う。暗闇の中から光に向かう顔は美しく、秘密の窓を押し開けて、新しい風にそよぐ最後の帳をめくる。

          探しているとき、すでに祈っている。流れ星が綺麗なのは、待ち望んで見つけた一瞬だから。少し肌寒くなってきた、この道を歩いていると次第に海の匂いが近づいてくる。沢山歩いてきたのに、地球の隅っこでしか生きられなくなった。きっと恐れるものは内側からやってくるから、変わるために旅に出る。

          探しているとき、すでに祈っている。流れ星が綺麗なのは、待ち望んで見つけた一瞬だから。少し肌寒くなってきた、この道を歩いていると次第に海の匂いが近づいてくる。沢山歩いてきたのに、地球の隅っこでしか生きられなくなった。きっと恐れるものは内側からやってくるから、変わるために旅に出る。

          消えそうなキャンドルが揺れる消えていく夜。栞の場所を少し迷って本を閉じた。明日の夜はもうここに帰って来ないけど、いつもの朝を迎えたくて箱に詰めずにいた。引っ越しの時にしか見返さない思い出は明日の為に片付けて。椅子が軋む音を久しぶりに聞いた気がして、いつもより一緒に居れた最後の夜。

          消えそうなキャンドルが揺れる消えていく夜。栞の場所を少し迷って本を閉じた。明日の夜はもうここに帰って来ないけど、いつもの朝を迎えたくて箱に詰めずにいた。引っ越しの時にしか見返さない思い出は明日の為に片付けて。椅子が軋む音を久しぶりに聞いた気がして、いつもより一緒に居れた最後の夜。

          お湯に浮かんでもう一度開く白く小さな花びら。枝先で咲いていた季節と同じ、部屋には初恋の初夏の記憶が香る。そよ風のような優しさに気づけなかったのは、自分でも気づかない心の隅に溜まった埃を払ってくれていたから。貰ったけど、すぐに受け取れなかった手紙が詰まったポストが開く白く仄かな朝。

          お湯に浮かんでもう一度開く白く小さな花びら。枝先で咲いていた季節と同じ、部屋には初恋の初夏の記憶が香る。そよ風のような優しさに気づけなかったのは、自分でも気づかない心の隅に溜まった埃を払ってくれていたから。貰ったけど、すぐに受け取れなかった手紙が詰まったポストが開く白く仄かな朝。

          夏の雨上がり、立ち昇る大地の匂い。鞄を預けたままの思い出。はぐれて落ちてきた一滴に揺れている傘の後ろ姿、水たまりの空に佇んでほどけていく。夏からの雨宿りができた、涼しかった一日の終わり。ひと筆で描いた綿雲が遠く空で燃えている。間に合ったように輝いている明日の空。

          夏の雨上がり、立ち昇る大地の匂い。鞄を預けたままの思い出。はぐれて落ちてきた一滴に揺れている傘の後ろ姿、水たまりの空に佇んでほどけていく。夏からの雨宿りができた、涼しかった一日の終わり。ひと筆で描いた綿雲が遠く空で燃えている。間に合ったように輝いている明日の空。

          鉄線に囲われた畑の中では宇宙にただ一人の恐怖さえも美しかった。心の中のもっとも弱い蜜を預けて、飛び立っていく姿を見つめていた。ひと片の想いを摘んで、またとない煌めきを残しつつ宇宙の一部になる。どんな鉄線もかい潜る自由な詩人が勤勉な歯車として持ち帰る、六角形の部屋、芸術家たちの家。

          鉄線に囲われた畑の中では宇宙にただ一人の恐怖さえも美しかった。心の中のもっとも弱い蜜を預けて、飛び立っていく姿を見つめていた。ひと片の想いを摘んで、またとない煌めきを残しつつ宇宙の一部になる。どんな鉄線もかい潜る自由な詩人が勤勉な歯車として持ち帰る、六角形の部屋、芸術家たちの家。

          心当たりはよく晴れた冬の午後、雨宿りをした木の枝で小鳥が唄っていた。強い風の日に折れた枝を拾って罪から罰へ、夜空の星を何度もなぞった。枝が折れたのはただ風が吹いたから?晴れの日に雨宿りしたから?励ましてくれた空に悲しみが染みついたらここに来て。あの鳥が頷いてまた塗り変えてくれる。

          心当たりはよく晴れた冬の午後、雨宿りをした木の枝で小鳥が唄っていた。強い風の日に折れた枝を拾って罪から罰へ、夜空の星を何度もなぞった。枝が折れたのはただ風が吹いたから?晴れの日に雨宿りしたから?励ましてくれた空に悲しみが染みついたらここに来て。あの鳥が頷いてまた塗り変えてくれる。

          パキラの横の本棚で色褪せた背を向けて本が並ぶ。窓の向こうが見たくて窓辺に置いた、その木に水をあげる日が待ち遠しい。詩のように覚えてる幹の上の5枚の言の葉。ただ揺れていた、鳴いていた、一緒にいたという事だけ。広い言葉の森で葉擦れの音も鳥の騒ぎも。一休みした切株も、眠ったままの栞も。

          パキラの横の本棚で色褪せた背を向けて本が並ぶ。窓の向こうが見たくて窓辺に置いた、その木に水をあげる日が待ち遠しい。詩のように覚えてる幹の上の5枚の言の葉。ただ揺れていた、鳴いていた、一緒にいたという事だけ。広い言葉の森で葉擦れの音も鳥の騒ぎも。一休みした切株も、眠ったままの栞も。

          絵に描いたような雲。小説のような奇跡。非常灯という虚構がすぐそばにある舞台。目に見えなくて手で触れられない音楽。足を踏み入れることができない鏡の世界。紙飛行機を飛ばすのは簡単だけど、二度と同じ軌道は描けない。世界で一番売れた本よりも、この人生に張り巡らされた伏線を信じてみたい。

          絵に描いたような雲。小説のような奇跡。非常灯という虚構がすぐそばにある舞台。目に見えなくて手で触れられない音楽。足を踏み入れることができない鏡の世界。紙飛行機を飛ばすのは簡単だけど、二度と同じ軌道は描けない。世界で一番売れた本よりも、この人生に張り巡らされた伏線を信じてみたい。