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あの昭和家屋が約束の場所

5年前、僕は高校の同級生の特別な仲良しグループから去った。迷宮のように入り組んだ想いと傷を抱えながら。
そしてネット上で活動を始めた。しかし現在まで頭角を現せていない。ただ毒の消化は進んだ。再び舞い戻る。あの場所へ。あの娘の古い家へ。

前回のあらすじ。ノンフィクションな日記みたいなものです。これは第二話。)


5年ぶりの再会

狐火(例の女の人をこう呼ぶことにした)は昔と同じ、親から譲り受けた古い家に住んでいる。風情のある古民家だ。

合流し買い物を終え、そこへと向かう僕と梟(友人をこう呼ぶことにした)は、住宅街の狭い生活道路を歩いていた。

打ち捨てられた消費者金融の看板が目に入ってきて、懐かしさを感じた。
ああ、何も変わってはいない。


目的地の家の目の前に立つ。モダンな引き戸ではなく、すりガラスの扉を横にスライドさせる。ガラガラという音が鳴った。

梟の背中に続いて、僕も足を踏み入れた。


前方から狐火の声がした。それはすぐにわかった。

合言葉は~?


……予想外の展開だった。何だこのノリw


でもこの人はそういう人だったのだ。芝居がかったことをやりたがるのだ。

梟が何やら応答していたが、中へ入ることが許されたので、それは正解だったようだ。


お邪魔しまーす!!」僕は意識して、元気よく言った。

その力がこもった響きには、この状況に対する適度な反作用力を示すことで、自らを守ろうという意識が現れていたかもしれない。


「お~ 久しぶり~」狐火は言った。

そこには、何の含みも感じられなかった。拍子抜けするくらいに。


この年越しの集まりは5人で行われているので、他にも懐かしい2人が中に座っていた。古民家でこたつを囲んでいた。


(ここまで書いて僕は悩んだ。手が止まった。他人のことを悪く書いたり、そうでなくとも勝手に必要以上に詳しく描写しようとすると、陰口を言ってるような気分になる。

そういうことでもないんだろうけど、はっきりくっきりさせることに謎の抵抗感がある。迷いがあるけど、無理せずいま自然と出てくる言葉で記述していこうと思います。また、プライバシーに関わる部分には適切な改変を加えています。

これは「どんな風に語られるのか」ということも含めた娯楽です。そして未完成な僕が変化していくさまを観察する遊びでもあります。完成品を提供する女優型のコンテンツではなく、アイドル型のコンテンツなのである……)


僕は、2人とも軽くあいさつを交わした。「久しぶり」って。

特別なリアクションはなかった。

それぞれの人生を生きて今日という日を迎えたということで、
時間が止まっていたのはこちらだけということで、
向こうはあまり意識してなかったのかもね、と感じた。


狐火は妙に優しかった。僕に対して気を使ってくれている様子だった。

(この人はリーダーというか姫というか、その中間くらいの立ち位置を取りたがる。)

およそ訳の分からぬ理由で唐突に怒鳴りつけてくる可能性は想定していたが、暖かく迎えられるということは想定外だった。


しかし僕は、狐火の振る舞いを邪推せずそのまま受け入れる気にはならなかった。

もはや、あまり、ならなかった。

事前に梟から、彼女は非常に仲の良かった友人(女の人)と絶交した、病み具合はむしろ深まっているという話を聞いていたこともある。

(自分の目でしっかりと確かめるつもりだが。)


この人には昔からそういうところがある。

ある時期だけ妙に張り切って、利他的な優しい振る舞いをしたりするんだけど、それは長続きせず、後になるとその反動が来る。

それゆえ、この優しさは自分という人間へ向けられたものではなく、
絶交した過去の親友への当てつけ、
空いた心の穴を埋めるための行為なんじゃないか……
という疑いを持っていた。


しかし今のところ、邪気は感じられない。

僕は色んな可能性を心の中で検討していたが、まだその天秤はフラットなまま、どちらにもふれていなかった。


昭和家屋のしんとした深みが辺りに広がっている。

この砂壁(ざらざらとしていて、触ると少し砂が落ちてくる和風のよくある壁)は、年月の中で何を目撃してきたのだろうか。



年越し鍋

皆お酒が入って饒舌になり、たくさんの新情報が飛び交っていた。

これは自分にとってはということで、他の人はだいたい知っている近況であるようだった。

その中心にある鍋の中身はかなり減っていた。白菜としめじが出汁の表面に浮かんでいた。


基本的に話題の中心は梟ともう一人で、他の三人は聞き手に回っていた。

自分だけが5年ぶりなので、知らない情報が多いのは当然だとしても、会話のテンポとか、笑いが起きるポイントとか、そういう部分に少し距離を感じた。

自ら離れていったのに、なぜか寂しい気持ちになった。


たまに会っていた梟も、他の人も含めた場になると、二人だと出てこないような話題とか表情が出てきて、少し寂しくなった。

疲れているだけなのかもしれないが。


梟は数学の研究者を目指している(しかし窮地に追い込まれているらしい)人なので、学会とかでいろんなとこに行ってるという話をしていた。

そして彼は、食事や生命に関しての独特な考え方(肉は食べないとか)を持っていて、それを周りの人に話して調和的に理解させていた。

自分には真似できないなと思った。


もう一人(普通に良い人、男の人。以下「熊笹:クマザサ」とする)は、化学系の有名企業に勤めている人だ。

結婚していて、今度子供が生まれるらしい。

この鍋の材料費も、彼が全員におごってくれた。ありがとう。

自分には真似できないなと思った。

僕は鍋のしめとして用意された雑炊をかみしめた。そして思った。


あの冬の寒い化学室(高校時代のたまり場のようになっていた)から、そんな真っ当な未来へたどり着いたのか。

制服を着てたあの頃はともに眺めた窓越しの曇り空が。
ゴミ捨て場から拾ってきたテレビでゲームしてた生温い日々が。


なんとも言えない気持ちになった。


梟は、自らの考え方としては、子供を生むことに対して否定的であると明言したが、喜んでいるその気持ちは祝福したいと言った。

熊笹は「そういう考え方もわかるよ」と笑って言った。

二人とも大人やん。そんな感じだったっけ。


狐火は熊笹が持ってきた日本酒に口を付けて、渋い顔をしていた。
好みではなかったらしい。いい品だけど。


この流れで「子供の名前何にする?」という話題になった。
皆、少し考えていた。


自分は受け狙いで変な名前を提案した。笑いが起こった。


……だけどこれがいま出来る精一杯のことだった。

鍋の中の雑炊の残りが、冷えてもう固くなっていた。



ふたたび

各々のホットな話題も出尽くして、場が落ち着いてきた頃だった。


狐火は友人の誕生日をよく覚えていて(昔から誕生日会をやりたがる人)、おおむね正しくその日付を列挙した。

その面々は僕の記憶とほとんど変わっていなかったが、上述の絶交した人は入っていなかった。

それを聞いていて、この列挙された名前と日付のリストは、狐火が現在仲が良い人と認識している範囲を表しているのだと思った。


自分の名前と、亡くなった友人の名前は入っていた。
誕生日の日付も正確だった。

知らない名前が追加されていることもなかった。


色々感じるところはあるけれど、こうしていると、
まるであの日の続きをしているかのようだ。そう思った。


(つづく)



*100円で変えられる、この話の中の僕の行動

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近頃はみんな辞めていくけど自分はまだ踏ん張ってます。
今年も力を入れてやっていくつもりです。

お金をただ投げるだけだと面白くなさそうなので、
読者参加型の遊びにしますw

この話は全3~4回程度を予定していますが、
終わりまでの期間中に頂いたサポート(or 有料コンテンツのご購入)は、
この話に出てくる友人たち等へ普段はしないような
何か面白い事・良い事をするために使おうと思います。

なるべく面白い事を起こして、その時の話をこの場で書きたいです。
(ただ、うまく出来なくても怒らないでください……こちらとしても新しい試みで模索中なので……)

例えば合計300円だったら、もう時期はずれだから一例だけど、何人かに年賀状を送ってみるとか。
例えば合計1000円だったら、誕生日プレゼントなどの形で(このグループには以前そういう風習があったので復活させてみる)、何か選んだ本を渡してみるとか。

そんなイメージ。


ではまた次回。僕は生き残ることが出来るか。
よかったらフォローやいいねやシェアも、よろしくお願いしまーす。

頂いたサポートは無駄遣いします。 修学旅行先で買って、以後ほこりをかぶっている木刀くらいのものに使いたい。でもその木刀を3年くらい経ってから夜の公園で素振りしてみたい。そしたらまた詩が生まれそうだ。 ツイッター → https://twitter.com/sdw_konoha