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ACT.112『下山』

大月行き電車

 既に夕暮れの河口湖の駅。
 自分は再び列車に乗車して大月の駅へ向かう。
 終点まで乗車すれば、ある程度の暇つぶしにもなろうかという感じだったが大半の時間は寝ていて大体の記憶を紛失してしまう事になる。
 冒頭の写真は大月まで向かう列車に乗車した際に撮影した記録だ。
 6700系NARUTO電車の側面である。
 富士山駅では一部しか切り抜いて撮影できずだったが、河口湖の留置線では偶然にもホーム側に停車していたので車内から撮影可能なのであった。

助っ人列車

 河口湖からは、JRの中央本線は新宿まで直通で運転する特急の『富士回遊』が復路の新宿に向かって発車準備を整えようかというところであった。
 富士回遊の存在は、東京の大都会と富士山周辺を直通で運転し直結させる事によって富士山リゾートへの利便性を向上させた事だろう。
 写真は、富士急行の社名変更の看板とのツーショットである。
 富士急行の車両と共演させるべきな看板だったのに、JRの車両との記念撮影になろうとはこれいかに…

 そんな特急/富士回遊には、中央本線での特急/あずさ・かいじと同じ車両が使用されている。
 かつてのJRからの富士急行直通で運転されていたJRの直通列車にも国鉄から継承した特急/あずさ・かいじの車両を採用していた。
 その時代の流れがこうして現在も継承されているのであった。最も、国鉄から継承した車両の場合は長さが6両近くもあり、こちらは分割併合も可能な3両のミニマムな車両であるという事が差異だろうか。
 車両の前に立ってみると、非常に直角的で大きく感じる。
 一部ではゲーム機のような愛称も付けられているが、その愛称に関しても何処か頷けるような形状をしていた。
 車両の顔に関しては、『聳り立つ壁』というような表現が似合うだろうか。
 ちなみに当然だが、車両の撮影は構内踏切から実施している。

 河口湖の駅側線には、もう1本のE353系が停車している。
 この編成も、富士回遊の復路便として運転される車両である。
 富士回遊に関してはこの日、乗客増に伴っての臨時便の増発も含めて運転されていたがその数はカウントも面倒な程であった。
 正直、助っ人として有能なのかこの車両の右に出る臨時便に適応した車両がいないのか、不思議な車両である。
 富士山はすっかり逆光状態の夕焼けと靄ががった雲によって、もう既に見えなくなっている。

満載の特急

 車内から懸命に撮影した、特急/富士回遊の表示。
 車両の行き先表示に関してであるが、日本語と英語の交互表示で点灯している。
 そして、列車名に関してはしっかりと『回遊』を意味する『excursion』が表示されている。てっきり、ローマ字当ての『KAIYUU』とでも表示しているのかとヒヤッとしたが、しっかりとそこに関しては訪日客に大人気の列車、しっかりとその名称を記していたのであった。
 大月までこの列車に乗車しても良かったのだが、指定席料金が別で発生する事や富士山駅を過ぎると有効区間外になってしまう事…などから乗車は見送った。
 しかし、それ以前に車内は外国人乗客ですし詰めになっているのである。外国人の団体旅行が大量に座席を抑えたのかと思しき勢いで車内は混雑していた。

 新宿へ向かって河口湖から下山する特急/富士回遊に関しては、この列車だけの愛称表示を出す事が可能になっている。
 表示に関してはこの遭遇時にはじめて知る事になったのだが、表示が出るまで待機していると列車の発車時間となり、車両に搭載されているミュージックホーンを鳴らして新宿に向かうべく走り出していった。
 辛うじて撮影したかった表示を収める事に成功する。
 ギリギリで収める事に成功した表示だった。次はもう少し接近して、停車している状態での撮影をしたい。

下山

 特急/富士回遊の発車した少し後だったろうか。
 乗車している大月行きの普通列車も、河口湖の駅を走り出した。
 が。ここから先は全く記憶にない。
 疲労に打ちひしがれ、完全に力を喪失した中で乗車したのでかなり早い時間に眠気が回ってしまい、先の記憶が大半に残っていないのだ。
 ただ、乗車した車両が通常の6000系とは異なるカラーの車両である『マッターホルン号』であったのだけは完全に記憶している範囲だ。
 代わりと言っては何だが、河口湖の駅付近の踏切で撮影した同車を。この車両に乗車し、自分は人に揉まれて過ごした富士山付近の旅路を終えて最終フェーズに入ったのである。

 乗車している列車から目を覚ますと、そこはもう大月駅であった。まさかそんな場所まで完全に熟睡して過ごしていたとは。なんたる不覚…
 列車の中から多くの乗客が荷物を纏めて改札に向かう姿が寝ぼけた視界に入ってくる。
 既に日も落ち、周辺は薄暗くなっている。
「そういや富士急ハイランドの近くに飲食街があったような…」
とこの時点で思い出した。
 改札を出て、再びこの派手なマッターホルン号に乗車する。次の目的地は、富士急行が世界に誇る絶叫マシンのテーマパーク、富士急ハイランドだ。

富士急ハイランド(と言っても乗らない)

 富士急ハイランドに下車した。
 駅周辺は富士急ハイランドのアトラクションと完全に一体化した仕様になっており、駅は『きかんしゃトーマス』の世界さながらな改装を受けていた。
 しかし後の写真で掲載するが、富士急ハイランドの駅は巨大なテーマパークがあるのにも関わらずホームはたった1面の構造になっており、駅舎がポツンとその場に残っているだけである。「あの富士急ハイランドが最寄りだからきっと相当に駅もデカいんだろうなぁ」なんて思って下車した時には、何処か拍子抜けしたような気持ちだった。
 さて、そんな富士急ハイランドの駅周辺であるが下車したすぐ先にはもう『富士急ハイランド』というくらいに距離感が近い。アトラクション類は迫り来るような勢いで駅の前に立っている。
 下車した時間帯では夜の盛り上がりに向けてまだまだ元気な状態であった。
 下車した目的は適当な飲食店探しだったのだが、それでも無関係に下車した乗客の聴覚を浚うくらいは元気な叫び声が聞こえている。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ…!!」
と何処か黄色いようなそうでもないような歓声が高い所から響いていた。
 よく見ると、アトラクションに乗車している富士急ハイランドを楽しんでいる人々だ。
 線路脇に、しかも駅から見える距離のアトラクションは何なのだろうと調べてみると、噂の
『ええじゃないか』
だった。列車を降りてから聞こえたあの叫び声は、『ええじゃないか』に乗っている人々の声だったのか。
 それにしても、絶叫マニアでもない自分にしてみれば回転しているマシンなのだなぁ…程度には至らない小さな感想なのであった。
 駅を出て河口湖方面に向かうと、踏切が掛かっている。この踏切を渡って、駅の反対側に回り込んだ。
 駅の反対側には飲食店が多く…とは言わないが数軒程度の店があり、その中の1つのチェーン中華屋さんに入る。
 ここまで一連の流れを記したが、肝心の『ええじゃないか』などの撮影は一切していなかったので席に入った際に見かけた『猫ロボット』を掲載しておく。
 中華屋さんへ入店すると、既に何組かが順番を待機しており盛況な状態が伝わってきた。

 この日の晩御飯。
 タッチパネル式のメニューを操作して、そのまま麻婆豆腐とご飯をセットにして頼んだ。
 味は何となくの辛さが効いているような感じだ。そこまで甘くもないし、刺激も強くはない。
 ご飯も進む旨さであった。
 結局、ドリンクも何も頼んでいないので一通りの食事が終了すると自分のテーブルが暇になった。
 あとは端末の充電をして一定貯まれば出るだけなので、何かもう1つ頼んで時間を浪費したい。この先、富士急行の列車を撮影してもそこまで良い条件では撮影できないだろうし。

 胃の中も少しだけ隙間があったので、ポテトの盛り皿を注文した。
 パネル式でポチポチ押していく方式は現代的すぎて何となく味気ないような感覚がするが、自分の好きなタイミングで注文できるのは非常に楽だ。
 塩気のあるポテトを摘みつつ、Xや撮影した記録を振り返ってのんびりと時間を潰す。
 放置していると、ポテトは段々とカラッとした状態を失ってきた。
 少しクタッとした状態でも中々のウマさではないか。
 食べ終えひと段落。そして端末の充電も満杯になったところで店を退店する。セルフ会計の店舗だったので、店員とは呼び出しの機会以外で全くと言って良いレベルに接触しなかった。

静まる遊園地

 夕食を収めるためだけに富士急行線を再び乗車し、富士急ハイランドまで再びやってきたラストスパートだった。
 再び列車に乗車しよう…と、その前に。列車を撮影したく駅の周辺の踏切で待機した。
 駅の前。踏切が隔てているが、この踏切の前には富士急ハイランドが世界に誇るアトラクション『ええじゃないか』が聳え立っている。
 写真の方にも、その鉄骨が聳えているのが分かるだろうか。営業は既に終了し、アトラクションに狂喜乱舞していた入園客も家路へ帰って周辺はかなり静かになっている。
 自分が駅眺めている背後にはバス停の屋根がかかっている。
 丁度自分が富士急ハイランド駅とアトラクションの『ええじゃないか』を見ていると、自分の背後のバス停にバスが停車した。
 行き先は『甲府駅』である。何日か前、笛吹市を移動する際に世話になったバスと今度はここで再会するとは。系統番号も笛吹市で見た時の番号とそっくりそのままだったのであまりにもビックリした。
 そういえばこの日は東京に宿泊する予定になっているのだが、考えによっては甲府市や山梨県での滞在も悪くはなかったのではないだろうか。
 しかし山梨県も宿泊関係が完全に全滅しており、東京に行く計画をそのまま進めた。
 自分が乗車しないと判断し、背後に停車していたバスは再びエンジンを掛けるとブザーを鳴らしてドアを閉めた。
 闇夜にエンジンの音が消えていく。
 甲府駅前…の4文字が流れていくのを見守った。

 富士急ハイランドの中で、最も線路際に近いアトラクションの『ええじゃないか』。
 このアトラクションの特徴は、『マシンの走行中に捻りを加えて回転する事』なのだそうだ。
 座席の回転するギミックは3種類ほどあるようで、レパートリーの多岐さによるマシンの回転する数は『世界一の回転』を誇るそうだ。
 今回は富士急ハイランドに入りもしなかったし、『ええじゃないか』の回転を見るだけで終了という結末になったが、自分がこのテーマパークの中に入る事はあるのだろうか。
 生涯、友達や彼女などでも持たない限りないような気がする。

 『ええじゃないか』の鉄骨などを見ながら。時にXなどの反応を見つつ列車を待機していると、富士山方面から列車がやってきた。
 しかしながら呆気ないくらいのシルエットである。撮影してまず自分のカメラの性能を憂いだのは勿論なのだが、この時少しだけ違和感を感じた。
「ん?富士急行にこんな電車在籍してたか…?」
疑問が浮かんできた。
 列車がこの後加速し、駅を出た時。
 その違和感の正体が分かるのであった。

 やってきたのは、銀色を基調して白いマスクを被っているJRの電車だった。
 中央線で活躍するE223系電車である。
「JRの乗り入れやったんかいな…、そりゃ違和感にもなってまうわいなぁ」
 迫り来る正体を見届け、列車が最後の河口湖まで力走していく姿を見届けた。
 JR中央線の車両がこうして走行している事実。これは即ち何を意味するのかと言うと、
『中央線の東京・新宿から1本の電車に乗車してそのまま乗り換えなしで山梨県の山奥まで移動できる』
という事を示すのだ。
 一応列車としては、東京を発車して都心の方までは乗客の出入りがあるのだろうが果たして河口湖や富士急線内まで乗車している乗客は居るのだろうかと少し不安になった。
 都心の街並みを彩る車両がこうして山梨県の静かな街にやってくると、何処か強烈な違和感を感じる。
 それは結果的に最後まで拭えなかった。

 流し撮りして、自分の撮影している踏切を去っていく姿まで完全に撮影。
 流し撮りしていて辛うじて読める判読になるが、しっかりと『河口湖』の3文字も確認できる。
 この路線の主力となっている6000系電車は何回も連載内で記しているようにかつて東京都心で『205系として活躍した』のだが、そんな205系たちはこのE233系によって東京都心での職務を追いやられた。
 そんな6000系たちにはある意味で自分の職場を追いやった憎い存在だと思う…のだが、乗り入れ車両として再びのチームメイトになる事をどう思って活躍しているのだろうか。
 なお、このE233系は河口湖で一夜を過ごして、翌朝に再び東京を目指し走り出す。
 自分がこの日の朝、ホテルの大浴場から見届けたオレンジ帯の列車がその東京行きの便だったのだ。
 入浴時は水蒸気などでよく見えなかったが、こうして実際に車両を見ると東京からの通勤電車が車両そのままに入線しているのだなぁと考えさせられる。

振り向けば英国

 世界に誇る…の口上は良いとして、全国的な人気を誇るテーマパーク、富士急ハイランド。
 この富士急ハイランドを運営している会社が、あの富士山の横を沿って走る山岳鉄道と兄弟なのはどこか信じられないような気持ちだった。
 余談だが、自分は読書も趣味の1つとしており、水野敬也/夢をかなえるゾウで登場した場所だと感動しつつ、入り口だけを眺めていた。
 2回目だが、自分には一生の友だちか彼女でも出来ない限り、この門を潜る体験はしないだろう。本当に謙遜でもなくそう思う。

 富士急ハイランドの門の後方。
 アトラクションとして一体になっているのではと思うくらいには駅が近い。しかもこの雰囲気。めちゃくちゃイギリスっぽくなかろうか。
 どうやらこの雰囲気になった理由なども調べてみると、令和2年の『きかんしゃトーマス原作75周年記念』としてアレンジされているようだ。
 富士急ハイランド内のトーマスランドがここまでの盛り上がりと一体感を見せている事に、ただただ驚くばかりである。
 駅の中に行ってみよう。
 既に係員らは居らず、富士急ハイランドの喧騒も消えているので静かな無人駅といった佇まいであった。

 ホームに入って、この感じ。
 もう日本の鉄道駅ではないといった感じなのだが、車両が来るまでは本当に異国を旅している感覚になるだろう。
 お金がなくて海外に行けない、ちょっとだけ海外気分を摂取したい、そうした考えの中には丁度良いアクセントなのではなかろうか。
 車両が到着するまで、この駅が日本の鉄道の駅だとは本当に信じられないだろう。
 なお、駅の構内にもカプセルプラレールの『きかんしゃトーマス』シリーズのガチャガチャ筐体があったり、原作のトーマス登場する駅よろしくそうした風味のポスターが掲載されていたり、とかなり手が込んでいた。

 あくまでもこの駅の感じだけで見れば、何処か海外の鉄道を訪問している錯覚になるのだろうがトーマス関係の装飾が目に入ってくると、
「あぁ、この作品の関係でこの駅は海外っぽくなったのだな」
と目が覚めるような感覚になる。
 あくまでも『細かいヶ所』だけは英国っぽく感じるだけで、実際にトーマス劇中のセットを再現しつつも…という感じではないらしい。
 個人的にはこの駅と富士急行を行き来する車両を、今度はじっくり見てみたくなった。
 この駅に出入りする日本型の車両を撮影してみる…というアイデアは、今度の訪問までに良い課題になりそうだ。

 駅名標には勿論、主役の『トーマス』が。
 トーマスといえば戸田恵子の世代な自分だが、実は日本版のトーマスの声を長く務めたのは2代目である比嘉久美子なのだそうだ。
 現在では2Dアニメへと変化し、田中美海が3代目の声優を務めている。
 田中氏のトーマスは一体どれだけ続くのだろうか。興味の沸くところである。
 ちなみに話が遅くなったが、この富士急ハイランドの駅には副駅名として『トーマスランド』が冠されている。

 しばらく待っただろうか。
 列車がやってきた。
 接近メロディとして鳴っているのは、きかんしゃトーマスのテーマ…(2代目)であり、接近放送の案内はトーマスの声優、比嘉久美子によるものだった。
 帰りに乗車する列車がこちら。
 6700系の金富士仕様で、富士急行の開業90周年を記念して導入された車両だ。
 最後にそうした記念の車両に乗車できるのは、何処かツイている気分になる。
 列車が停車し、ドアが開くとトーマス・パーシーの声優が交互に放送を入れる。確かドアが閉まる時はパーシーだったような。
 富士急ハイランドからの乗客は、流石に観光の時間ではない…にしても日本人の利用がかなり多かった。自分が言えた話ではないが、一体何処で何をしていたのだろう。
 そのまま乗車して、富士山方面に向かう。
 

東京へ

 富士急ハイランドを去り、今夜は東京で一夜を過ごす。宿泊というほど大それた事もしないので、こうした表現で紡がせて頂く。
 列車に乗車し、志村正彦のポスターの下に座る。
 何処か自分の中ではこの志村氏を追ってこの路線に乗車している感覚があったので、帰りの列車、最後に乗車する列車はこのポスターの下が良かった。
 乗車していると、車内放送が入った。
 無機質な自動放送が入り、車掌が案内を入れている。
「この電車は、本日の東京連絡、最終電車でございます…」
と。
 間一髪だったようだ。
 ギリギリ確保された道を伝って、東京までの足をゆく。

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