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答えのない問題を解きほぐす力

「推論の根拠を聞くとばかばかしいほど簡単なので僕にだってできそうな気がするよ。それでいて実際は説明を聞くまでは何が何だかわからないのだから情けない」。これはシャーロック・ホームズの相棒ワトソンの言葉を引用したものだ。

誰にだってこういう経験はある。難しい問題を与えられて、答えに至るプロセスを説明されてから「なるほどね」と思うのだ。

問題解決の思考力は、考えなければ考えないほど退化していく。昨今はネットで調べれば、すぐに答えが出てくるが、それらは断片的な情報であって、総合的な「考える力」を私たちから奪っていく。

結論から考える仮説思考力


仮説思考とは

(1) 今ある情報だけで最も可能性の高い結論仮説を想定し、
(2)常にそれを最終目的地として強く意識し、
(3)情報の精度を上げながら検証繰り返して仮説を修正しつつ最終結論に至る思考パターンのことだ。

仮説思考を鍛えるポイント

仮説思考を鍛えるポイントは次のとおりだ。

①どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢
②前提条件を設定して先に進む力
③時間を決めてとにかく結論を出す

の3点である。

少ない情報から算出することがゲームのキモであり、情報が少ないからと諦めたらそこでゲームオーバーだ。ネット検索の普及で、わたしたちは「仮説思考」を鍛える力が減っている。そのことについて、非常によく説明されている本があるので紹介したい。

この本ではフェルミ推定のプロセスが問題解決の縮図であるということを中心に紹介していて、そのプロセスが簡潔ながら「思考力」を高めるのに大きな力を持っていることを説明している。

その例題問題として、日本全国にある電柱は何本か計算せよというものがある

例題:日本全国にある電柱は何本か計算せよ

ここで条件がつく。

日本全国に電柱は何本あるか。制限時間三分。インターネットを始め一切の情報参照不可。

考え方のプロセスが大切であって、正解を得ることが究極の目的ではない。
頼りにすべきは最低限の周知情報とそれをもとに「考える力」だ。

この先を読み進める前に、まず三分考えてみて欲しい。
あなたならどのような答えをどのようなプロセスで導き出すだろうか。


さて、あなたの答えは出ただろうか。著者がいうプロセスの考え方とはとは次のようなものだ。

概念1 俯瞰して分解する

全体から考えるフレームワーク思考力。対象となる問題を俯瞰して、対象となる課題の全体像を高所から俯瞰し、捉え、捉えた全体像を最適の切り口で
切断し、断面を分析分解する。以下の図参照  

概念2 前提状況を決定する

問題解決の前提状況を決定することが鍵になる。例えば電柱と言ってもどこまでを電柱と呼ぶか、などと悩み出したら、前に進むことができない。切り口の設定を素早くすることが回答への近道だ。

概念3 タイムボックスの考え方

時間を区切って何がなんでも答えを出すこと。ネット漬けになっている頭ではすぐに得られる情報に飛びつくことが多い。ここでグッと我慢して、まず自分の頭で考える癖をつける。

概念4 オプション思考

どのようなアプローチがあるのか。問題解決のプロセスは一通りではないはずだ。ここで3Cや4Pなどのフレームワークを使って問題にアプローチしてみる。しかもそれらを素早く検証して、最適なアプローチを選び出す能力が必要だ。

フェルミ推定というツール


さて、あなたなりの回答が出たところで、著者の説明を追ってみよう。
電柱が日本全国に何本あるか、知識として知らなくてもよい。大切なのは、回答を導き出すプロセスなのだ。

まずフェルミ推定のプロセスのアプローチ設定からモデル分解に至るまでのプロセスとして、日本全国を市街地と郊外に分ける。

市街地では50m四方に電柱1本と仮定する。これが200mx200mだと16本だ。対して郊外では200mx200mに1本暗いと想定する。

さらに日本における市街地と郊外の割合をも仮定する。例えば1:3とすれば、日本全体の面積の1/4 が市街地、3/4が郊外だ。

もしも日本全体の面積を知らなければ、それでもいい。新幹線の主要駅間の距離を参考にするなどして、おおよその数字を弾き出す。

あとはその全体面積に、上記の市街地と郊外の割合を当てはめて計算するだけでいい。

そうすると3,300万本という数字が計算される。

この数字が実際の数字にどれだけ近いかは、ここでは最重要点ではない。
この数字を弾き出すまでのプロセスが大切なのだ。


このような考え方は、ビジネスでの新商品開発の際の市場把握や、
開発の時期と想定など、様々な問いかけに応用できる

可能性は限りなく広い。


さて問題を解き終わったら、振り返って次の項目を一つ一つ検討してみよう。

実は、この「振り返り過程」が、この本のもっとも意義ある部分だと考える。

1 問題を見たときの反応:知的好奇心を問う問題を見たときの反応はどうでしたかこれは知的好奇心特に問題解決に対しての好奇心を試しているパズルを解くのが好きなタイプの人はほぼ間違いなくこの電柱の問題に高い興味を示して目を輝かせるはずである。

2 回答のデータの不足にはどう対処できたか:タイムボックスで答えを出せるかと言う仮説思考力を試している。締め切り時間から逆算してできることを図りながら計算すると言う思考回路を持っていないと、一生懸命計算しているうちにタイムアップと言う結果になったはずだ。

3 前提条件不足への対応:少ない前提条件をどうやって処理したいかを試す設問であるどこまでを電柱と言うのか電力様だけなのか通信用も含めるのか等々細かいことを気にしだしたら3分間などすぐに断ってしまうあまり瑣末な事は気にせずに常識的に普通の人が電柱と思うのはこの辺りであろう、と早めに決定する力。

4 どんなに少ない情報でも仮説を設定できたかと言う仮説思考力を通設問でやる考える一生の強さ裏を返せば情報への日依存度が問われている

5 モデル分解のオプションはいくつ考えたか:フレームワーク思考における切り口の選択の力を問う設問である(全体俯瞰)。この場合には全国の電柱をした後にどういう切り口で全体本数を算出するかと言う選択肢(オプション)を考える力が必要になる。瞬時これを複数考えてどれが最終的に計算しやすく精度の高い結果が得られるかを判断する能力が必要になる。

6 問課題着手の順序はどうしたか:フレームワーク思考における視点の高さを問う設問だ。要は自分の身の回りからズームアウトで考えたか、上空の視点からズームインで考えたかと言うことになる。視点の低い考え方をする人と言うのは例えば、家の近くの状況など算出できることを考えてから、日本全体に広げようとする。

7 因数分解の粒度は: 枝葉末節にこだわっていないかという抽象化思考の確認と共に、ボトルネックの考え方ができるかというフレームワーク思考を確認する設問。計算時間を考慮した場合に必要以上に細かく分けていないか、全体とのバランスを考えた上で、ブレークダウンを詳細すぎていないか。

8 出した回答の有効数字の桁数: フレームワーク思考であるボトルネックの考え方ができるかどうかである。わかるところだけ詳細に計算した有効筋をそのまま使って、必要以上に細かな計算結果になってはいなかったか。全体の精度を考慮すれば、有効数字3桁以上の数字にほとんど意味はない

9 考えることへの嗜好が強いかどうか: ネット情報中毒の人は検索したくてうずうずしてしまう。対して、考える力がある人は、自動的に同じような問題をやってみようと考える。

10 回答結果はどうだったか; 算出結果が真実にどれくらい近かったか。最善のプロセスで計算した方が、精緻さは二の次で、どのように考えたかということが大切。


「思考力」「考える力」と叫びながら、なんの役にも立たない実用書が多い中で、この本は思考力をつけるプロセスをこれ以上ないと言うくらい的確に説明していると思う。

ぜひ手にとってみていただきたい。


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