Blackmagician_BOY

色の魔力を解剖する。

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  • 色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して

    2つの三原色と3つの色覚理論について、できるだけ関連性を明示して書きました。 色彩現象の理解にとって基礎であると同時に最大の障壁でもあります。

記事一覧

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(10/10) おわりに

 分け入っても分け入っても青い山  放浪の俳人・種田山頭火は人生の不条理・困難性をこの句に込めたように感じます。生まれを選ぶことはできず、何かを得ようと精一杯足…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(9/10) 色彩の再現と審美的基準

 色彩にまつわる理解を深めるために2つの三原色、2つの色覚理論、段階説を考察してきました。光に対して人間の視覚系がどのように作用し色知覚が生じているのか、全体像…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(8/10) 色覚理論の融合 段階説②

 考察の準備として、まず『分離と相補性①』で掲載したグラフ①を再掲します。        グラフ① 引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/視覚  3種類の錐体(…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(7/10) 色覚理論の融合 段階説①

 人間の色知覚について三色説と反対色説それぞれの捉え方を見てきました。それぞれが前提とする事実に沿って捉えれば、どちらも現実に生じる現象に対して合理的な説明を与…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(6/10) 2つの色覚理論 三色説と反対色説②

 三色説を支持する、あるいは異を唱える、それぞれの場合に合理的な理由があるようだということが分かっていただけたと思います。三色説の有効性は加法混色・減法混色の説…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(5/10) 2つの色覚理論 三色説と反対色説①

 光の三原色と色材の三原色について、網膜の機能と併せて個別の性質と特徴、分離と相補性を説明してきました。恣意的なサンプル選択を行いましたが、おおよその言いたいこ…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(4/10) 2つの三原色 分離と相補性②

 長くなりましたが疑問の解明に必要な知識が整いました。  PCディスプレイに表示された蜜柑の画像と、それを印刷した蜜柑の写真が見せる色は何が違うのか?  まずPCディ…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(3/10) 2つの三原色 分離と相補性①

 前節で光の三原色RGBと色材の三原色CMYについてその相違点と共通点を考察しました。RGBは自ら発光する物体を人間が見るときに感じる色知覚を説明する原理、CMYは自ら発光…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(2/10) 2つの三原色 RGBとCMY

 映像や写真に親しむ方にとって「三原色」という概念は、もはや深く考える対象ですらないほど当たり前の存在かもしれません。いうまでもなく、「赤・緑・青」(RGB)と「…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(1/10) はじめに

 2021年のいま、映画などの映像作品は「色が付いている」状態が普通です。米国アカデミー賞において、1968年(撮影賞でモノクロとカラーの区別が撤廃された年)以…

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(10/10) おわりに

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(10/10) おわりに

 分け入っても分け入っても青い山
 放浪の俳人・種田山頭火は人生の不条理・困難性をこの句に込めたように感じます。生まれを選ぶことはできず、何かを得ようと精一杯足掻いてもその力はちっぽけです。色彩現象の難解さを前に突きつけられる非力感にもどこか相通ずるものがある気がします。しかし色彩現象の究明は時空を超えたちっぽけな力の蓄積によって成し遂げられてきました。地道な観察と実験、ときに天才的な着想が脈々と

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(9/10) 色彩の再現と審美的基準

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(9/10) 色彩の再現と審美的基準

 色彩にまつわる理解を深めるために2つの三原色、2つの色覚理論、段階説を考察してきました。光に対して人間の視覚系がどのように作用し色知覚が生じているのか、全体像を理解するうえで重要になる論点をできるだけ明確にしながら記述したつもりです。
 ただ全体像を把握していただけたとして、ここで終わってしまったらそれはつまらない。「この理解が何の役に立つのか?」、「この理解をどのように活用すればいいのか?」が

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(8/10) 色覚理論の融合 段階説②

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(8/10) 色覚理論の融合 段階説②

 考察の準備として、まず『分離と相補性①』で掲載したグラフ①を再掲します。

       グラフ① 引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/視覚
 3種類の錐体(と桿体)がそれぞれ異なる波長域に対して反応する特性を有していると説明しましたが、その様子が示されています。縦軸は横軸に示す波長の光に対して各錐体(と桿体)が反応する度合いを表し、上辺に向かって強く、下辺に向か

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(7/10) 色覚理論の融合 段階説①

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(7/10) 色覚理論の融合 段階説①

 人間の色知覚について三色説と反対色説それぞれの捉え方を見てきました。それぞれが前提とする事実に沿って捉えれば、どちらも現実に生じる現象に対して合理的な説明を与えていると思います。
 こうなるとどちらが正しいのか?という点をはっきりさせたくなるのが人情ですね。
 長きにわたる論争の主戦場はこの点に決着をつけることにあったと言えるでしょう。その歴史の中でいまとなっては学説年表に記載されるだけの誤りが

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(6/10) 2つの色覚理論 三色説と反対色説②

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(6/10) 2つの色覚理論 三色説と反対色説②

 三色説を支持する、あるいは異を唱える、それぞれの場合に合理的な理由があるようだということが分かっていただけたと思います。三色説の有効性は加法混色・減法混色の説明から感じていただけるようにしたつもりで、これは絶大です。現代社会経済の根幹を支える基盤の1つと評価しても言い過ぎではないでしょう。青色LEDの発明と量産化手法にノーベル物理学賞が授与されたこと、プロセスインキ(CMYK四色印刷用インク)の

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(5/10) 2つの色覚理論 三色説と反対色説①

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(5/10) 2つの色覚理論 三色説と反対色説①

 光の三原色と色材の三原色について、網膜の機能と併せて個別の性質と特徴、分離と相補性を説明してきました。恣意的なサンプル選択を行いましたが、おおよその言いたいことは論理的整合性を保ちながら示すことができたと思っています。不満を持たれる方がいらっしゃるかもしれませんが、現実の複雑さ(注1)を回避し説明を単純化するためにとった手段であるとご理解いただければ幸いです。
 結構納まり良くできたと思っていま

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(4/10) 2つの三原色 分離と相補性②

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(4/10) 2つの三原色 分離と相補性②

 長くなりましたが疑問の解明に必要な知識が整いました。
 PCディスプレイに表示された蜜柑の画像と、それを印刷した蜜柑の写真が見せる色は何が違うのか?
 まずPCディスプレイに表示された蜜柑の画像を考察します。
 この画像を見たとき、おそらく橙色(オレンジ色)を感じるでしょう。この色は光の三原色RGBによる加法混色に従って表示されています。例えば、AdobeRGB値(8bit)=(233,163,

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(3/10) 2つの三原色 分離と相補性①

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(3/10) 2つの三原色 分離と相補性①

 前節で光の三原色RGBと色材の三原色CMYについてその相違点と共通点を考察しました。RGBは自ら発光する物体を人間が見るときに感じる色知覚を説明する原理、CMYは自ら発光せずに光を反射(あるいは透過)する物体を人間が見るときに感じる色知覚を説明する原理です。そして、どちらも人間の色知覚という現象を体系的に再現性をもって説明できる点で共通しています。
 しかしこれだけでは説明しきれない疑問がありま

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(2/10) 2つの三原色 RGBとCMY

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(2/10) 2つの三原色 RGBとCMY

 映像や写真に親しむ方にとって「三原色」という概念は、もはや深く考える対象ですらないほど当たり前の存在かもしれません。いうまでもなく、「赤・緑・青」(RGB)と「シアン・マゼンタ・イエロー」(CMY)の2つの組み合わせそれぞれを三原色と呼んでいます。
 しかし色彩科学に魅了された(足を絡めとられた)当時、なぜ2種類あるのか理解できませんでした。「原色」というからには1組じゃないのか?どうしてこの2

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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(1/10) はじめに

色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(1/10) はじめに

 2021年のいま、映画などの映像作品は「色が付いている」状態が普通です。米国アカデミー賞において、1968年(撮影賞でモノクロとカラーの区別が撤廃された年)以降に開催された54回中、全編モノクロで製作され作品賞を受賞したのは、1993年”シンドラーのリスト”(一部パートカラーあり)・2011年”アーティスト”の実に2タイトルだけです(独自調査)。
 映像作品を楽しむ感覚としても、モノクロになって

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