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色彩の再現と審美的基準の統一的理解を目指して(3/10) 2つの三原色 分離と相補性①

 前節で光の三原色RGBと色材の三原色CMYについてその相違点と共通点を考察しました。RGBは自ら発光する物体を人間が見るときに感じる色知覚を説明する原理、CMYは自ら発光せずに光を反射(あるいは透過)する物体を人間が見るときに感じる色知覚を説明する原理です。そして、どちらも人間の色知覚という現象を体系的に再現性をもって説明できる点で共通しています。
 しかしこれだけでは説明しきれない疑問がありました。
 「光をそのまま見た場合と反射(透過)した光を見た場合に、同じ人間が知覚する色がなぜそれぞれ別な原色(原理)によって作り出される(説明される)のか?」
 今節と次節でこの疑問について考えます。

 疑問の内容が抽象的なので、より具体的な例で言い換えてみましょう。
 「PCディスプレイ上で見る蜜柑と写真で見る蜜柑の色はなにが違うのか?」
 もう少し噛み砕くと、PCディスプレイは自ら発光することでRGBによって、写真は光を反射することでCMYによって蜜柑の色を表現している。その蜜柑の色は同じはず、なのにRGBとCMYに分かれるのはなぜか?
 個人的にこの現象を「RGBとCMYの分離」と呼んでいますが、理解するためには人間の眼にある視細胞とその生理反応、そして光の直視と反射(透過)について考察する必要があります。
 まずは視細胞と生理反応です。
 人間の眼の網膜上には桿体(かんたい)と錐体(すいたい)という光を感じる2種類の視細胞があります。このうち桿体は主に暗闇で弱い光を感じる機能を担っていて、色を識別することが出来ません(高感度なモノクロフィルムのような振る舞いです)。
 色知覚にとって重要な役割を担っているのはもう一方の錐体です。錐体はさらに細かく3種類に分類されて、それぞれL錐体・M錐体・S錐体と呼ばれます。違いは反応する光の波長で、L錐体=564nmをピークに400~780nm、M錐体=534nmをピークに400~650nm、S錐体=420nmをピークに380~530nmの範囲でそれぞれ反応します。L・M・Sは各錐体が主に反応する波長域(Long・Medium・Short)の頭文字から採られています。3つを足し合わせた全範囲380~780nmがいわゆる可視光領域です。また各錐体はL錐体:M錐体:S錐体=40:20:1の比率で網膜上に存在すると言われています。
 下図は光に対する各視細胞の反応をグラフ化したものです。

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      グラフ① 引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/視覚
 赤・緑・青に着色されている線が、それぞれL錐体・M錐体・S錐体で、黒の点線は桿体を表しています。赤・緑・青に着色されているのは、それぞれの錐体によって代表的に感じられる色だからです。

 視細胞の生理反応が分かったことで、次のよく知られた性質を説明することができます。私は「RGBとCMYの相補性」と呼んでいますが、「加法混色RGBでCMYを、逆に減法混色CMYでRGBを作り出すことができる」性質です。
 具体的には、すべて1:1の混色で
 加法混色RGBにおいて、R+G=Y、G+B=C、R+B=M、
 減法混色CMYにおいて、C+M=B、M+Y=R、C+Y=Gが成り立つ(すなわち人間の色知覚を生じさせることができる)ことを言います。
 視細胞の生理反応から相補性が成立する過程を詳しく見てみましょう。ここに光の直視と反射・透過が関係しています。
 光の三原色RGBによる加法混色を言い換えれば、光源から発せられた光そのものの混ぜ合わせを見る(眼で感じる)ことです。
 ・光源から発せられたR+Gを見ると、その長・中波長成分によって
  L錐体+M錐体が反応し、Yとして知覚されます。
 ・光源から発せられたG+Bを見ると、その中・短波長成分によって
  M錐体+S錐体が反応し、Cとして知覚されます。
 ・光源から発せられたR+Bを見ると、その長・短波長成分によって
  L錐体+S錐体が反応し、Mとして知覚されます。
 次に、色材の三原色CMYによる減法混色を言い換えれば、光源から発せられた光が物体の表面で一部反射・透過(同時に一部吸収)され、その反射・透過された光を見る(眼で感じる)ことです。
 ・光源からR+G+B(=白色光)が発せられ、C+Mで着色された
  物体に当たると、CでR、MでGが吸収されてBだけが反射(透過)
  されるので、その短波長成分によってS錐体が反応しBとして知覚
  されます。
 ・光源からR+G+Bが発せられ、M+Yで着色された物体に当たると、
  MでG、YでBが吸収されてRだけが反射(透過)されるので、その
  長波長成分によってL錐体が反応しRとして知覚されます。
 ・光源からR+G+Bが発せられ、C+Yで着色された物体に当たると、
  CでR、YでBが吸収されてGだけが反射(透過)されるので、その
  中波長成分によってM錐体が反応しGとして知覚されます。
 複雑ですが、どちらも結果として人間の眼に届くRGBの量とそれに対するL・M・S各錐体の反応を調整して色知覚を生じさせていると言えます。

 蛇足ながら直視と反射に関して1つ補足しておきます。
 RGB とCMYの解説文で「RGBが重なるように白い壁に投影している図」をよく見かけます。この図は事実を表していますがその使用に際して前提の説明が不足している場合も多く、混乱を引き起こしかねない厄介な代物です。
 物理的な再現性という点で「RGBが重なるように白い壁に投影し、その反射光を見た場合、加法混色に従った色知覚が生じる。」これは正しい記述です。しかし、これまでの説明をお読みいただいた方の中には「反射は減法混色に従うのでは?」という最もな疑問をお持ちになる方もいらっしゃるでしょう。
 この理解には「白い壁とはどういう状態か」という前提条件を把握しておく必要があります。結論を言ってしまえば、「白い壁=すべての光を反射している(光が吸収されない)状態の壁=その壁を見ることは光源から発せられた光を直視しているのと同じ」という状態が作られていることになります。よってその色知覚は加法混色に従ったものになるのです。光を見ている環境がどのように条件づけられているか、を常に想定する必要があります。

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