2022秋 ブランディングを考える

「正しい日本語はない」
これは以前、僕が短歌の師匠から言われた言葉です。

言葉の使われ方、意味や概念は、時間とともに変わっていくもの。当然その時代ことの正しさがあります。それ以来僕は、例えば講義などで「適切な日本語」と表現するようになりました。

そこで考えると、実はマーケティングの代表的な定義、AMA(全米マーケティング協会)の定義も、これまで何度も変わっています。時代の変化や社会での役割に合わせて、その意味が変わってきたことになります。

そうした中で僕は、実は「ブランディング」という言葉の意味も変化しているように思います。
これを特に感じたのは、「セルフブランディング」という言葉について、何度か違和感をおぼえたからなのですが、今回はあくまでも「私見」として、ブランディングの変化について考えます。

・ブランディングのおさらい
ブランディングについて、講義などでは以下のように説明しています。

■企業や製品・サービスの特徴を差別化し、消費者や顧客に対するベネフィット(利益)を明確にすることで、ブランドエクイティ(ブランドの価値)を確立する行為である。

この説明だと、辞書のままなので、もう少し解りやすく説明します。

企業や製品・サービスについて、「差別化」ですから、まず‘消費者から見て’、競合他社よりも優れている点や、他にはない特徴を明確にします。そしてその特徴が消費者にどのような効用(製品やサービスがもたらす利益や効果)を明らかにします、そしてこれらの組み合わせが、消費者にとって最も簡潔に印象付けられるようにする、ということになります。

これはあくまでもブランディングの基本的な考え方です。ただしこのとき、「顧客に何をもたらすことができるのか」という点が最も重要になります。これについては、マーケティングの「4C」を考えていただくのが1番効果的でしょう。
そして顧客から見た4Cの最も適切な組み合わせ、つまりマーケティングミックスが、ブランディングの本質である「価値提案」になります。

つまり4Cを基本とした、顧客並びに消費者にとっての、あらゆる面から見た満足を実現すること、そしてそれが、自社と顧客並びに消費者の、共通認識として認知された状態が「ブランディング」ということになります。

・セルフブランディングとは
さてここで、僕が疑問に感じた「セルフブランディング」についても述べたいと思います。

セルフブランディングとは、文字通り「自分自身のブランディング」ということになりますが、、、そもそもブランディングとは、自身の立ち位置を明確にする行為です。誰かが勝手にブランディングをしてくれる、なんてことはないので、言葉として違和感を感じますが、、、

簡単に言えば、「個人」という「自分自身」のイメージ化のような意味で使われているのだと思います。

例えば服装や話すこと、雰囲気やライフスタイルなど、その人物の人となりを、ビジネス用に「演出」したり。
あるいはSNSなどで記事を掲載することで、どんなことに気を使っていて、どんな価値観を持っているかを知らしめたりとか。

要は、その人の活動を円滑にするための「イメージコントロール」という意味で使われていると考えます。

ある意味でこれは大切なことです。
例えば企業のCIを行うときに、僕は必ず「組織の品格はリーダーの品格」と伝えます。リーダーシップを執る人や、事業主のイメージは、その企業や組織、事業や製品のイメージと直結します。
しかし一方で、SNや動画配信などが一般化し、あらゆる人があたかも総タレント化のように、その人のイメージをコントロールする、というのは、、、少し気持ち悪く感じています。

・今求められる「ブランディング」とは
社会の価値観や考え方の変化に合わせて、様々な言葉も定義が変わります。
近年、「パーパス経営」という言葉が注目を集めていますが、そうした中で、「ブランディング」に求められることも変化しているのではないでしょうか。

パーパス経営では、企業がどのようなパーパス、つまり「意志」や「志」を持って、何に貢献するかを明らかにするものです。企業は、その内外に示したパーパスを実現するため、どのような指針に従って活動するのか、どのような製品やサービスを提供するのかを示し、これを実現しようとします。

例えばマーケティングの講義では、CIによって企業の内部の意思を統一し、ブランディングによって企業の意思を外部に「価値提案」という形で示すと説明します。
これは基本的には変わらない原則ですが、現在の企業では、これらを単純に分けることができないと考えます。

あらゆる人やコミュニティがインターネットやSNSで繋がりを持ち、SDGsなどといった、あらゆる文化や社会で共通する価値観をもつようになり、企業と消費者の垣根は限りなく低くなりました。
特にプロダクト・アウトの生産か脱することのできなかっか日本の企業および産業は、いまだに「良いものは売れる」という神話にしがみつく傾向にあります。

しかし現代の社会で考える「良いも」とは、「良い企業」「良い人」「良い考え」「良い作り方」などなど、企業や製品・サービスをあたかも「人」のように捉え、その「人格」までもが品質の1つとして認識されます。

もちろん、全ての製品、全ての消費者に当てはまるわけではありません。
しかしこのような状況の中で、先に挙げた「タレント化」のようなイメージのブランディングは、時として逆効果になり、その「ウソ(とあえて記します)」が見抜かれてしまうと、取り返しのつかないダメージを受けます。

だからこそ、僕は今必要なブランディングは、社会と未来に何を成したいか、そのために自分(企業)はどんなどんな存在になろうとしているのか、そしてそのために何に取り組んでいるのかを示す必要があるのではないでしょうか。
こうした「姿勢」と「覚悟」を示すことが、これからのブランディングに欠かせないものだと考えています。

2022年、涼しくなり始めた秋に感じたこと。


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