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【読書録】『世界のすごい巨像』地球の歩き方編集室

日本人海外旅行者のバイブルといえば、何と言っても、『地球の歩き方』シリーズのガイドブックだろう。

『地球の歩き方』ガイドブックは、メジャーな国から、超レアな国まで、日本人トラベラーが行くであろう殆どの国を網羅しており、頻繁に内容もアップデートしてくれる、便利でありがた~いガイドブックだ。

『ヨーロッパ』など、複数の国をまたいだ地域をとりあげるもの、『アメリカ』など、1国についてのもの、『パリ』『ソウル』など、都市にフォーカスしたものなどがある。そのシリーズは120冊を超える。

私が海外旅行デビューした約四半世紀前には、スマホもWiFiもなく、海外で出会う日本人旅行者は、ほぼ例外なく、『地球の歩き方』を手にしていた。異国の地で『地球の歩き方』を持っている人を見るや、「日本人ですか」と声をかけたり、かけられたりして、心安らぐひとときを感じたものだ。

コロナ禍で海外旅行に行きづらくなり、ストレスを溜めていたころ、以下の2つの記事を目にした。

いずれも、コロナ禍でピンチの『地球の歩き方』編集部が、生き残るために新しい取り組みをしているということを取り上げた記事だ。

編集部を抱えていたダイヤモンド・ビッグ社では、売り上げの大部分を占めていた海外ガイドブックシリーズが売れなくなり、その売上は9割減となったそうだ。

コロナ禍による海外旅行者の激減は、目も当てられないくらいの痛々しさだ。海外ガイドブック売り上げへのダメージたるや、想像に難くない。そして、編集部を含む出版事業などは、学研グループに事業譲渡されたという。

コロナ禍にかかわらず、ここ10年くらいの間で、インターネットの普及により、海外の観光情報は急激に検索しやすくなった。Googleマップ、Google翻訳などの便利なツールや、TripAdvisorや個人の旅行記ブログなどによる、口コミ情報も激増した。渡航先でWiFiが使えれば、必要な情報はすぐに検索できる。

そんな環境のなか、『地球の歩き方』ガイドブックの需要は、実は、コロナ以前から、既に減りつつあったのではないかと推測している。紙のガイドブックは言うに及ばず、『地球の歩き方』ガイドブックの電子書籍版も、今後も苦戦を強いられるのではないだろうか。

そんな中、編集部が40年間で培った旅の知識を生かせないかと、知恵を絞って出版したもののひとつが、『旅の図鑑』シリーズだという。

この『旅の図鑑』シリーズは、世界各国・地域をワンテーマで深掘りするもの。旅先に持って行く実用書というよりも、自宅で旅気分を楽しんだり、旅に出る前に、知識を深めるために読んでもらったりすることを想定しているという。本記事を書いている2021年10月現在、11冊が出版されているようだ。

世界の名所、歴史や文化に強い興味を持っている私には、心躍るシリーズだ。早速、いくつかを手に取ってみた。

そのうち、ものすごいインパクトで私の心をとらえたのが、今日ご紹介する旅の図鑑だ。

それは…。

旅の図鑑シリーズW08『世界のすごい巨像』。

副題は、『巨仏・巨神・巨人。一度は訪れたい愛すべき巨大造形を解説』

図鑑といっても、サイズは、いつもの地球の歩き方と同じ、A5変型判で、手に取りやすい大きさ。表紙の装丁も、『地球の歩き方』ユーザーにはおなじみのデザインだ。

まず、パラパラとページを繰って、ぶっ飛んだ。

巨像のオンパレード。タイトルのとおりなのだが、これがもう、ごった煮なのだ。

宗教に由来するものは、仏教、ヒンズー教、キリスト教と、なんでもあり。神様、仏様、マリア様。

偉人・政治家系は、関羽、チンギス・ハーンに、金日成。

古代遺跡スフィンクスやモアイなどの世界遺産。

自由の女神などの記念碑系。

そして、コアラ、ロブスターといった、歴史的価値はおそらくなさそうな、名産品系まであるのだ。

世界中から、目的も、時代も、価値も、全くバラバラのものを、巨像というただひとつの切り口で、よくぞここまで一冊に集めたものだ。ただただ感心するとともに、つい、ニヤリと笑ってしまう。

そして、特筆すべきは、その美しさだ。見開きで、ひとつかふたつの巨像の情報が、大きな写真とともに紹介されている。それぞれの巨像の写真が、美しく、かつ、インパクトがあるのだ。

たとえばこの写真。左は、ブータンのティンプーにある大仏、「ドルデンマ大仏」。右は、中国ルーガオの「長寿の神像」。

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ちなみに、話が逸れるが、この左の写真の、ブータンの「ドルデンマ大仏」には、コロナ前に訪問したことがある。

私が現地で撮ってもらった、スナップ写真がこちら。アングルがちょっと違うが、大体の大きさがお分かりいただけるだろう。

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そして。ガイドさんが教えてくれた構図でもう1枚。

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さらに、日本の巨像たちも、しっかり紹介されている。下の写真は、「牛久大仏」(左)と、「仙台大観音」(右)を紹介したページ。

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ちなみに、私が「牛久大仏」で撮った写真が、こちら。とにかく、デカかった…。

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そして、この本の折り込みページが、大変気に入った。

それは、「像の高さがひと目でわかる! 並べてみました世界の巨像ベスト30」と題したページで、世界の巨像を、高い順から写真付きで並べた一覧表になっている。

まさに、世界の巨像の異種格闘技、という感じ。こんなランキングを思いつくなんて、ユニークで、不思議で、なんか、シュールだ…。

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ちなみに、この一覧表によると、世界第1位~第5位は、次のとおり。

第1位「統一の像」(インド)(240m)
第2位「魯山大仏」(中国)(208m)
第3位「レーチョン・サチャー・ムニ」(ミャンマー)(129.2m)
第4位「ガルーダ・ウィスヌ・クンチャナ像」(インドネシア)(121m)
第5位「牛久大仏」(日本)(120m)

この巨像図鑑の情報が、知識として仕事などに役立つことは、殆どの人にとっては、まずないだろう。

でも、単に、眺めていて面白いし、飽きない。子どものように、ワクワクした気分になってくる。

どうしてこんな巨像たちが作られたのか。それぞれの巨像の、歴史、建設当時の事情やストーリーに思いを馳せるのが、とても面白い。そのすべてを訪問し、自分の目で見てみたくなる。

こういう切り口で、ここまで充実した写真とマニアックな解説ができるのは、長年にわたって、日本人旅行者のために世界中のガイドブックを作ってきた『地球の歩き方』編集部ならではだろう。持てるノウハウを結集してピンチを切り抜けようとした策が、見事に成功している。

『地球の歩き方』編集部さんには、私たち海外トラベラーのために、是非とも、このコロナ禍を生き延びていただきたい。そして、コロナ終息のあかつきには、私たちが満を持して海外に再び旅立てるよう、このようにユニークな情報満載の図鑑を、どんどん出版していただきたい。

『地球の歩き方』編集部さんを、心から応援しています。

ガンバレ~!!!


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