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【読書録】『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』アルテイシア

いやー、幻冬舎さん、よくこんな本を出版されましたね! 勇気ありますね、あっぱれ! 

アルテイシアさんの、『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』(幻冬舎文庫)。副題は『アルテイシアの熟女入門』

読後の感想は、痛快の一言。

まずは、この本の表現スタイルについて。読書というよりは、娯楽として、マンガを読んでいる感じである。イメージとしては、書斎できちんと座って読むとか、スタバでお洒落にラテを片手に読む、という本ではない。自分の部屋で寝っ転がって、(表紙のイラストの女性たちような)下着とか部屋着姿で(もちろんノーメイク)、ポテチと缶ビールを片手に、鼻クソをほじりながら、「うまい! 座布団一枚!」と言って大笑いしながら読めるものだ。

アルテイシアさんの書くものは、Web上のコラムなども大抵そうだが、どギツい表現がこれでもかと出てくる。お食事中に適さない表現や、放送禁止用語が満載。下品、お下劣、エッチ。読む人によっては猛毒、不快に感じられそうな表現がバンバン出てくる。実際、Amazonの書評でも、評価は大きく分かれる。「低俗」とまで書かれている。

しかし、この、ゲテモノ的、飛び道具的な表現に騙されてはいけない。この本は、妙齢の女性(「熟女」=「JJ」)の生態を切り口にしたエッセイ集で、一見、軽い読み物に思える。しかし、実は、日本社会の不条理を、男女平等の観点から鋭く切り込んでいる。アルテイシアさんは、自らを「男尊女卑アレルギーの人間」と称していらっしゃる。それだけに、皆が当たり前と思っていることだけど、実はおかしいよ、と気づく敏感さを持っていらっしゃるのだろう。それを、ぶっ飛んだブラックジョークやどギツい表現でこってりと料理し、ショック療法を提供してくれる。これはもう、熟女だけでなく、男女、年齢、子持ち・子ナシにかかわらず、日本に暮らすあらゆる属性の人に読んでほしい。

この本は、私たち熟女に対しては、希望を与え、ややこしい社会を生きる知恵とカンフル剤(いや、麻薬か?)を授けてくれる。熟女候補生の若い女性に対しては、強く生きてほしい、安心して熟女になってほしいという、温かいエールが一杯だ。そして、男性にとっては、いい加減、女性の生きづらさを分かりやがれ!という厳しい指導とともに、実は男性たち自身も生きづらいんじゃね?という気づきを促し、またその諸悪の根源が何なのかを考える貴重な機会を与えてくれるだろう。

そういった観点から刺さった箇所を、以下に抜粋して記録しておく。なお、ここに抜粋したものは、本書のなかでも比較的真面目な記述である。本書には、もっとぶっ飛んだ表現が満載であることをお伝えしておく。
(※以下、太字部分は原文ママ。)
(※※お食事中の方は、これ以上読まないでください。)

 女を容姿でジャッジする人々は「ブスのくせに生意気だ」と抜かした口で、「美人だからって調子に乗るな」とほざき、「あいつは美人だから仕事をもらえた」と女の実力を認めない。すなわち、美人にとっても敵なのだ。
 ここはブスと美人でタッグを組み、糞尿を集めて出陣するしかないだろう、バキュームカーで。(p193)
 世間は、「ババアが若い女を妬む」という構図も好むが、これも男の妄想だろう。少なくとも、私の周りにそんなJJはいない。みんな「若い女子」を見ていると昔の自分を思い出して、守ってあげたいし、応援したくなる」と口をそろえる。
(中略)
 そう、女は若くなりたいわけじゃない。酒の席でオッサンに説教されたり、キャバ嬢的なサービスを求められるのは真っ平だ。男目線で「年をとると男に相手にされなくなるから、若い女を妬む」と妄想するのだろうが「男の相手なんかしたくない」がJJたちの本音である。(p194)
(…)「多様性を認めよう」と言いつつ、現代日本は品質管理社会で、「この大根は太すぎる」「このカボチャは形が悪い」と規格外は排除される。
 女性は特に完璧を求められがちで、「母として妻として働く女として活躍しろ」とスーパーウーマンを要求される。
 ケイト・ブランシェット先輩が来日した際「母親と女優業の両立は大変ですか?と質問されて「私がショーン・ペンやダニエル・デイ=ルイスんなら、そのような質問はしないですよね。父親の場合、両立は大変か?とは聞かれないと思います」と答えていた。
 日本の女優で堂々とそう言える人は少ないし、言ったら炎上しそうだ。どんなに活躍している女優でも「毎朝5時に起きて子どものお弁当を作ってます」と良妻賢母アピールしないと「母親失格」の烙印を押されてしまう。(p213)
(...)人には向き不向きがあるし、適材適所がある。働いて稼ぐのが得意な女性もいれば、家事や育児が得意な男性もいる。それぞれ得意分野で助け合えるのが、みんなが生きやすい社会だろう。
 みんなが完璧超人を目指すんじゃなく、ベンキマンがベンキマンのままで生きられる社会を目指すべきだと私は思う。かつ、大切なのは「なんでもできるようになること」ではなく「助けを求めること」だと思う。(p219)
 私は「女王蜂になってはならぬ」とJJべからず帖に刻んでいる。
 クインビー(女王蜂)症候群という言葉がある。男社会で成功した「名誉男性」的な女性が、他の女性に厳しくあたることを表す言葉だ。
 彼女らは「男以上に働いて出世競争を勝ち抜いてきた」という自負があるため「私はこんなに苦労したんだから、あなたたちも苦労するべき」と主張する。後輩女性が性差別を訴えても「私が若い頃はもっと大変だった」「努力不足を棚に上げて、権利ばかりを主張して甘えている」と批判する。
 本人は男社会で今の地位を築いているため、現状のシステムを変えたくないのだ。それを否定することは、自分の成功も否定することになるから。(p225) 
(…)「何でもかんでもセクハラや性差別と言われたら、何も話せない」とほざくボンクラには、「じゃあ一生黙ってろ」と言いたいが、親切なJJなので教えてあげよう。「その言動を取引先の女社長にするか?」と考えてみるといい。
「なんで結婚しないの?」とか「子どもは3人以上産め」とか、取引先の女社長には言わないだろう。それを誰に対しても言わなければ、失言は避けられる。
 元財務次官の「胸触っていい?」「手縛っていい?」発言について「本人はセクハラを行った認識はない」と報じられていた。「セクハラ罪という罪はない」と妄言を吐いた麻生大臣も同じ認識なのだろう。
 だったらそれを、メルケルに言ってみればいい。「手縛っていい?」と言った瞬間、屈強なドイツ人のSPに拘束されるはずだ。
「自分より立場の弱い女には何言ってもいい」と考える老害がいる。そんな連中にセクハラ発言されても、メルケルじゃない我々には射殺してくれるSPもいない。麻生大臣はゴルゴ13に狙撃される政治家ファッションだが、この世界にデューク東郷は存在しない。(p228-229)
 うちの夫婦は選択的子ナシである。全ての女性がいきやすい社会を目指す者として、私は子持ちと子ナシの溝を埋めたいと願っている。(p236)
 私は子ども好きではなく、男尊女卑アレルギーの人間である。「女性がこんなに子育てしづらい社会は間違っとる!」という怒りから、少しでも子育てママをサポートしたいと思っている。(p237)
 以前、ネットで子ナシvs.子持ちのバトルを見かけた。
「子どもが熱を出したからと言って、堂々と遅刻や早退をして悪びれない。それどころか『自分はこんなに大変だ』とアピールする。子持ちはそんなに偉いんですか?」という独身女性の意見に「だらだら残業して『忙しい』とアピールする独身こそどうかと思う。こっちは時短勤務内に仕事をこなしているのに」「嫉妬するくらいなら、結婚して子どもを産めば?」と子持ち女性が返していた。
 それを見て「人間よ、もう止せ、こんなことは」と高村光太郎の顔になった。

 遅刻や早退をして悪びれないのは、属性じゃなく人間性の問題だ。そういう人は独身時代に二日酔いで遅刻や早退をしても悪びれなかったはずだと、冷静に考えればわかるだろう。しかしメディアは「勝ち犬 vs. 負け犬」と女同士の対立を煽るため、それに乗せられて「エイリアン vs. プレデター」のように戦争が始まる。
 それはもう政府の思うツボぢゃないか。

 周りの女性陣からも「職場で子持ち女性のしわよせが子ナシにくる」「それにムカついても文句も言えないし、ムカつく自分は性格ブスだと落ち込む」という声を耳にする。
 そういう時、本当は子持ち女性にムカついているんじゃなく、仕事が増えたことにムカついてるんじゃないか。
 自分の仕事が増えなければムカつかないし、「彼女らは家に帰っても休みなしで育児をするのか、大変だな」と気づかって「何か手伝えることはない?」と声をかけるだろう。
 なので性格ブスとか落ち込む必要はない、会社と政府がブスなのだ。ムカついたときは会社と政府にどんどん文句を言おう。

 日本は育児と仕事を両立しづらい社会だ。ワーママたちの疲弊しきった姿や保育所問題、マタハラや育ハラの現状を見て「自分には無理だ」と産み控えする女性も多い。
 出生率の高い先進国は、子育て支援が充実した国々である(事実婚や非嫡出子に平等に権利があるのも特徴)。

 政治家たちは己の怠慢や力不足を棚上げして、少子化を女のせいにする。「子どもを産まない女に税金を使うな」系の失言は自民党のお家芸だが、最近も女性議員が「LGBTは生産性がない」「税金を投入するべきではない」と耳を疑うような発言をした。
 LGBTも子ナシも労働して納税して、子どものための社会保障費も負担しているが、「生産性がない」と仰せになる。特大のウンコを生産してプレゼントしてあげたい。

 子持ち vs. 子ナシがウンコを投げ合っていれば、政治の責任から目をそらさせられる。そんな策略に載ってはいけない。ウンコを投げる相手を間違ってはならない。
 せっかくひねりだしたウンコなのだから、正しい相手にぶつけよう。かつ余剰のウンコを土嚢がわりにして、子持ちと子ナシの溝を埋めよう。
(p237-240)
 子持ちと子ナシの溝を広げるのは、デリカシーのない人々の発言である。不妊治療中に「子どもはまだ?」「早く産んだほうがいいよ」と言われてつらい、といった声も耳にする。

 21世紀になっても、旧石器時代のセンスで生きている人間もいるのだ。そんな連中がハンドアックスで殴ってきたときに、「〇〇さんはお子さんが2人もいていいなー」と笑顔でサービスする必要はない。それをすると相手は載ってきたと勘違いして、嬉々として斧を振り回してくる。

 その手のハラスメントの撃退法として、私は「bot返し」「明菜返し」を提案している。
(中略)
「〇〇さんはそういう考えなんですねbot」化すれば、それ以上話を広げようがないし、うまくいけば「自分と相手は違う人間なんだから、考え方も違って当然」と先方に気づかせることもできる。
 もしくはベストテンの中森明菜、と言われてもわからない人は友近のモノマネを参考して、小声&伏し目がちで「いろいろ事情があって……」と返そう。
 明菜返しで「この人に子どもの話は地雷だ」と思わせれば、今後の被害も防げる。さらに相手が「人には事情があるんだから、プライバシーに踏み込むべきじゃない」と学べば、他人への被害も防げる。
(p243-244)
 この世界は「女は年をとると価値が減る」という呪いに満ちているが、現場のJJたちはどっこい愉快に生きている。「年をとるって悪くない」と実感しながら。
 JJの最大の幸福は、あらゆる呪いから解放されることだろう。(p257)
「女は出産や育児で長時間労働ができない」の裏には「男はプライベート無視で奴隷のように使い潰せる」がある。「女の締め出し」と「男の使い潰し」はセットであり、そんなアンハッピーセットはいらねえ! と男女共に言いたいだろう。

 男だって「奴隷になれるのは男だけだぜ、ヒャッハー!」と喜んでいるわけじゃない。父親も早く帰れて育児できる方が、家族みんながハッピーだろう。実際、出生率の高い先進国は男女が子育てしながら働ける環境や制度が整っている。
(中略)
「女は締め出していい」「男は使い潰していい」はいずれも性差別であり、本当の敵は誰なのか? と考えると、それは「プライベートを犠牲にして働け」と圧をかけてくる人々だ。
(p265)
 日本の社会は男も女もどっちも地獄だが、地獄の種類が違う。男は「ひたすら奴隷として働け」というシンプルな地獄だが、女は地獄のラインナップが多い。

「少子化だから子どもを埋め」「労働力不足だから働き続けろ」「保育所不足だから自分で何とかしろ」「そんなに働いたら子どもが可哀想」「ついでに女を忘れずキレイにしろ」と無理難題をふっかけられて、羽生竜王に勝つぐらい優秀なAIでも、「この腐った世界をぶっ壊す……!」と中二な答えを出すだろう。(p269)

いかがだっただろうか。ウンコとか、糞尿系の表現もあり、お上品な方は眉をしかめられたかもしれないが、この本のユニークなところなので、そのまま引用した。

個人的には、メルケル首相のくだりが特に好きだ。「取引先の女社長基準」は、周囲にいるセクハラ予備軍のオッサンたちに、是非教えてあげようと思う。

「男 vs. 女」、「若い女 vs. ババア」、「子持ち vs. 子ナシ」、「美人 vs. ブス」。こんなミクロな対立軸で、自分と違う相手と比較したり競争したりマウンティングしあったりして、落ち込んだり疲弊したりするのは、貴重な時間やエネルギーの無駄。それに、「女の締め出し&男の使い潰し」という構図の現状を変えたくない政治家たちの思うツボ。もっとマクロで問題の本質を捉えて、自分と違う属性や立場の人たちと協力して、社会を変えていくべきだよなあ、と考えさせられた。

最後にもう一言。文章を書く、という観点からも、アルテイシアさんの書くものにはハッとさせられる。批判を恐れず、言いたいことを自由に書くのが、面白いものを書く秘訣なのだなあ、と、当たり前のようなことに改めて気づかされる。先日記事にした、田中泰延氏の『読みたいことを、書けばいい。』という本の教えをそのまま実践しているような本だ。私も、たまには、自分の殻を破って、こんな風にお下品な路線で記事を書いてみようか?という欲望に駆られてしまう。

この本、個人的には強く推しますが、くれぐれも自己責任でお願いします!

※ご参考までに、アルテイシアさんのインターネットの記事へのリンクも掲載します。

※今回の私の記事を気に入ってくださった方には、以下の過去の記事もお読みいただければ嬉しいです!


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