コルドバの夜は更けて(フランス恋物語㊷)
2回のスペイン旅行計画
6月・・・私は絶対スペインに行こうと思っていた。
あんなにラテンの国が好きなのに、まだスペインに行ったことがなかった。
特に行きたい街は、アンダルシア地方のコルドバ・グラナダと、バルセロナだ。
調べてみると、同じスペインと言っても、アンダルシア地方とバルセロナはとても離れていて、電車で移動すると5時間くらいかかるらしい。
日本から行くのなら、きっと一度にまとめて行っただろう。
でも、私は今パリに住んでいる。
パリから空路でマドリッドまで2時間、バルセロナまでは1時間半で行けるし、LCCを使えばチケット代も驚くほど格安だ。
私はこの地の利を最大限に利用し、 「スペインを2回に分けて行く」という贅沢な方法で旅をすることにした。
まずは、「既に暑い」と言われているアンダルシア地方へ行く。
アンダルシア旅行で私が無性に見たかったのは、「ヨーロッパ圏に存在するイスラム建築」だった。
スペイン入国
パリ午前7:00発→マドリッド9:05着のフライトで、スペイン入国を果たした。
パリの友人たちはみな予定が合わず、私はやむなく一人旅を選んだ。
タクシーでマドリッドのアトーチャ駅まで移動し、コルドバ行きのAVE(スペイン版新幹線)の切符を買って、10:14発の電車に乗り込む。
初めてのスペイン旅行だが、首都・マドリッドは観光しないつもりでいた。(バルセロナに行く時も同様)
「いかにもヨーロッパな街並み」は、もうフランスで十分堪能しているし、有名なプラド美術館もどうしても見たいというほどでもなかった。
しかも、マドリッドは治安が悪く、「最近はパスポートを狙った首絞め強盗が多発している」と情報を聞き、ますます行きたくなくなった。
リスクを回避するためにも、マドリッドは空港→駅→バスターミナルを経由しただけで、速やかに最初の目的地であるコルドバに向かった。
Córdoba
私を乗せたバスは、12時過ぎにコルドバに到着した。
【Córdoba】(コルドバ)
スペイン南部、アンダルシア地方に位置するコルドバは古代ローマ文化、イスラム文化、キリスト教文化、さらにユダヤ教文化が加味された複雑で立体的な文化を持つ景観の街である。
1984年にメスキータが、そして1994年にはアルカサル、ユダヤ人街などコルドバの旧市街全体が世界遺産登録されている。
まずは長距離バスターミナルに行き、明日のグラナダ行きの切符と最終日のグラナダ→マドリッド行きの切符を買う。
私は挨拶ぐらいしか、スペイン語はできない。
事前に英語で書いたメモを用意し窓口の人に見せて、なんとか希望の切符を買うことができた。
このやりとりで、私は「por favor(お願いします)」というスペイン語を覚えた。
次に市バスでメスキータ周辺に移動し、予約していたメスキータ真ん前のホテルのチェックインを済ませた。
私に用意された部屋は屋上に設置されたプレハブ小屋だったが、北はメスキータ、南は川を挟んでカオカラの塔が見えるという絶好のロケーションにあり、私はこの不思議な部屋がすぐに気に入った。
Mezquita
部屋に荷物を置き身軽になったら、まずはお目当てのメスキータに行く。
【Mezquita】(メスキータ)
西暦786年頃、当時コルドバを支配したイスラム王朝の後ウマイヤ朝・最高指導者アブデラマン一世によってメスキータは着工された。
その後も増築を重ね世界最大級のモスクとなったメスキータだが、13世紀に「レコンキスタ」によりキリスト教支配下となってからは、今までのイスラム様式のモスクにキリスト様式の建築デザインが混合していき、現在の形となった。
そこは予想以上に大きく、イスラム建築だけではなく、スペイン独特の装飾が凝ったキリスト教の礼拝堂も共存していて、とにかく圧巻・・・の一言。
外はうだるような暑さなのに、メスキータの中はひんやりとしてて、それがまた静謐さを醸し出していてとても良かった。
メスキータを出た後、ビアナ宮殿を目指して歩いたが、道に迷ったのと暑すぎてへばってしまい、一旦ホテルに戻りシャワーを浴びて休憩することにした。
まだ6月だというのに、人の体力を容赦なく奪うアンダルシアの暑さに、ここの地域の人がシェスタをする理由が解った。
そして、シェスタで静まり返った通りは、真昼間で明るいのに怖く感じた。
夕方、ローマ橋を渡ってカオカラの塔(アン・アンダルス博物館)に行き、塔の頂上から川の向こうのメスキータを眺めてみる。
カオカラの塔はイスラム時代にできた要塞塔で、現在は中が博物館になっている施設だ。
その中は、メスキータの復元模型や当時の王宮の様子を再現したジオラマなどがあり、言葉がわからなくてもその成り立ちを知ることができて良かった。
Cena
気が付けばもう19時。
暑い中いっぱい歩いてお腹が空いたので、パエリアの看板が掲げられたレストランで晩ご飯を食べることにした。
頼んだのは、大好物のシーフードパエリア・・・それから白ワイン。
本場スペインで初めて食べたパエリアはとても美味しくて、たまたま行ったお店が当たりでとても嬉しかった。
周りを見渡すと、他のお客はカップルや家族連ればかりで私のようなお一人様はいない。
充実した旅をしているつもりでも、やはり食事時になると一人旅は寂しく思えた。
「はぁ、ここで偶然知り合いに会ったりしないかな。この際、フランス人でもいいよ。」
・・・いつの間にやら、フランスは第二の故郷になっていた。
Noche
ホテルに戻るとドッと疲れが出て、うとうとと寝てしまった。
23時頃に目が覚め、私はふと「メスキータの夜景を撮らなければ」と思った。
外の様子を見て人がいなければ戻ろうと思ったが、観光客がいっぱいいて大丈夫そうなので、夜のメスキータを散策することした。
昼間も素晴らしかったが、ライトアップされたメスキータは幻想的でまた違う魅力があった。
Flamenco
メスキータの周りを歩いていると、ある建物からフラメンコの音楽と靴の鳴り響く音が聴こえてくる。
客引きのおじさんに「本来は20ユーロだけど、今なら10ユーロだよ。ドリンク付きで、あと1時間以上は見られる。どうだい?」と言われ、入ってみることにした。
舞台の上手(かみて)側前のテーブルに着席し、ワインを飲みながら開演を待った。
舞台上にはギタリストと男性歌手が2人づつスタンバイしており、しばらくすると一人の女性ダンサーが登場し、フラメンコショーが始まった。
時には優雅に、時には激しく舞う踊り子の姿に、私の目は釘付けになった。
Cantante
しかし・・・しばらくすると、私は違う人物に目が奪われることになる。
メインパートの男性歌手が歌い出すと、その何ともいえないセクシーな歌声にすっかり魅了されてしまったのだ。
よく見ると、彼はその美しい歌声にピッタリの端正な顔立ちをしているのがわかる。
「すごい!! この人歌が上手いだけじゃなくて超カッコいいじゃん・・・。」
私はいつの間にか、主役である踊り子よりも、情感たっぷりに歌い上げるその男ばかりを見ていた。
彼を見ていると、「フランス人男性とは付き合ったことがあるけど、スペイン人の男性はどんな感じなんだろう?」という好奇心が沸いてくる。
その男を見つめすぎたせいだろうか・・・何度か目が合った気がした。
気が付けばショーは終わっていた。
私は椅子から立ち上がることもできず、まだその余韻に浸っていた。
すると、さっきまでステージで歌っていたあの男がやって来て、「一緒に飲もうよ。」と私の腕を掴むではないか。
・・・え、そんなことってあるの!?
私は反射的にこう返していた。
「Pouvez-vous parler le français?」
(フランス語を話せますか?)
彼は顔をしかめた。
「英語は話せるけど、フランス語は話せない。僕の祖父世代はフランス語が必修外国語だったけど、残念ながら今は英語なんだ。」
英語でそう答えると、私の頬にキスをした。
・・・そっか、じゃあ英語で話すしかないか。
しかし彼はそこで立ち去り、別のテーブルの日本人女性のところに行ってしまった。
どうやら彼は、単なる日本人女性好きのようだった。
・・・私はホッとしたような、ちょっと残念なような、微妙な気持ちで英語で会話をする二人を眺めていた。
その後ホテルに戻ったが、ベッドに入っても、さっきの歌手のことが思い出され、なかなか眠りにつけなかった。
私がもしスペイン語か英語を話せていたら、今頃まだあの男とワインを飲んでいたのだろうか。
・・・明日はコルドバを離れて、グラナダへ行く。
そしてグラナダでも、意外な出会いが私を待っているのであった。
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