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パリで見た、映画「おくりびと」の感想

日本語への渇望

2009年、30歳の私はワーホリでパリに住んでいた。

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そもそも私は「フランスに住んでみたい」「フランス人の彼氏を作りたい」というミーハーな動機で渡仏したので、決してフランス語が堪能なわけではない。

自分なりに頑張ってフランス語を習得しようとしたもののあまりのセンスのなさに挫折を味わい、フランス語漬けのストイックな生活もやめてしまった。

そして「私は日本人だし」と開き直ると、活字でも映画でも何でもいいから無性に日本語を欲するようになった。(「フランス人の彼氏を作る」という目的がブレないよう、パリ在住の日本人男性と恋に落ちないよう気を付けていたが)

映画「おくりびと」

そんな中、私がパリの映画館で鑑賞しようと決めた作品が「おくりびと」だった。

~あらすじ~
楽団の解散でチェロ奏者の夢をあきらめ、故郷の山形に帰ってきた大悟(本木雅弘)は好条件の求人広告を見つける。面接に向かうと社長の佐々木(山崎努)に即採用されるが、業務内容は遺体を棺に収める仕事。当初は戸惑っていた大悟だったが、さまざまな境遇の別れと向き合ううちに、納棺師の仕事に誇りを見いだしてゆく。

この映画を選んだ理由は、日本映画であること、胸糞悪くなるストーリーじゃないこと(グロイのとか、ホラーとか、天変地異ものとか、暗すぎるのとか、後味悪い映画は時間の無駄と思う私)、そして主役のモックンこと本木雅弘さんがカッコイイのも大きい。(ええ、私、自称”イイ男研究家”なもので)

個人的に「生と死」を扱うテーマも好きなので、私は「おくりびと」を観ることに決めた。

パリの映画館で見たからこそ抱いた感想を綴りたいと思う。

感想

まず、日本語最高!!(笑)

今まではハリウッド映画をフランスで観て、「音で英語を聴き取るのと、字幕でフランス語を読むの、どっちがわかるか!?」なんて脳みそをフル動員させていた私。(効果的だったのは後者)

日本映画だとそんな余計なことに頭を使わず、ストーリーに没頭できるのがいい。


「納棺師」という「死」を扱う職業だけに、その対極である「生」を意識させる行為、たとえば「食」「性」を主人公たちの日常生活から浮き上がらせているのが印象的だった。

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↑葬儀屋のメンバーでクリスマスにチキンを食べるシーン。

3人がムシャムシャと骨付きチキンを貪るシーンは、「生きるために動物の命を屠り、それを食して血肉にする」という行為を象徴していて生々しくもあるが、生きる者の業としていきいきと描かれている。

手前にはクリスマスツリー、壁には「〇〇大神」と神道のお札が貼ってあり、様々な宗教のごちゃ混ぜぶりが日本のクリスマスっぽい。

社長が「うちは、仏教、キリスト、イスラム、ヒンドゥー・・・。全部対応してるから。」と言ってるのも、日本の葬儀屋らしいというか。(笑)


一番の映画のみどころは、納棺師という職業に求められる所作の美しさ・・・。

モックン、この役のためにすごく練習したんだろうな。

俳優として当たり前のことなんだろうけど、その努力に敬服する。

プロのチェロ奏者が失職して納棺師に転職するという設定なので、繊細な感覚に秀でた人物がイメージされ、そういう男性ってセクシーなんだろうなとドキドキしちゃったり。


日本人は死をタブー視するきらいがあるが、人は生まれた瞬間から死へのカウントダウンが始まっている。

どうせ訪れるものならば、自分はどんな死を迎えたいか(※自殺という意味ではない)、どんな葬式をしたいかなどを考えることは大事なことだし、イメージすることで死への恐怖を和らげるものではないか。

そして、「死」を扱うという職業柄、忌避しがちな葬儀社や納棺師という存在を知ってもらい、その重要さやありがたさを知っていただきたいと思った。

※参考記事:私が死を意識した体験を綴ったエッセイ。
「百万回死んだワニを読んで思ったこと」は、こちら

みなさんも、映画「おくりびと」を観て、普段あまり考えない「死」について、考えてみてはいかがだろうか?

「おくりびと」を見て困ったこと

さて、さきほどチキンを食べるシーンを紹介したが、その後にも社長とモックンがふぐの白子を食べるシーンがあった。

↑2:10に山崎さん、3:01にモックンが美味しそうに白子を食べている。

私も人生で何度かふぐの白子を食べたことがあり、「この世にこんな美味しい物があるのか」と感動したのが忘れられない。

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このシーンを見たせいで、私はどうしてもふぐの白子を食べたくなった。

しかし、パリ中の日本料理屋を探しても、100%ふぐの白子は存在しないだろう。

私が日本に帰国するまでまだまだ数ヶ月の期間を要する。

〇〇の代用品

そこで取った苦肉の策。

「味は全然違ってもいいから、せめて見た目が似ているものでごまかす」

映画館の帰り道、スーパーで選んだのは、”モッツァレラチーズ”だった!!

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↑ほら、白くて丸くてモチモチしてる感じ、白子に似てません?

私はスーパーで、モッツァレラチーズとトマトとバジルを買い、自宅に帰った。


その晩、我が家の食卓にカプレーゼが並んだ。

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(※イメージ写真)

白子とは似ても似つかない味だが、白くてモチモチした物が食べられて、なんとか自分を納得させることができた。

総論

パリで見た映画「おくりびと」の感想の総論は、以下の通り。

「日本映画で日本語の飢えは満たせても、日本食の飢えは海外では満たせない。

言語の問題もあるが、私にとって海外完全移住は不可能である。(寒がりだから冬の間だけ南国に住みたいんだけどね)


後日談となるが、帰国後、友人とふぐ専門店に行き、私がふぐの白子に舌鼓を打ったことは言うまでもない。

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