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グラナダの熱い夜(フランス恋物語㊹)

Mañana

グラナダ観光2日目。

約束通り、ユウスケくんは朝9時に私が泊まるホテルのロビーで待っていてくれた。

福士蒼汰似の大学生は、朝から爽やかな笑顔で挨拶をしてくれる。

「おはようございます。今日もお願いしますね。」

孤独と危険が付きまとう女一人旅と違い、イケメン好青年と一緒にグラナダ観光できることを、私は改めてありがたく思った。

Albaicín

午前中は、アルバイシン地区を観光することにした。

【Albaicín】(アルバイシン)
11世紀頃にイスラム教徒によって築かれた、グラナダ最古の町並みが残る地区
敵の侵入を防ぐ城郭都市として造られたため、道は迷路のように入り組み、方向感覚を失わせる。
高台にあるMirador de San Nicolás(サン・ニコラス展望台)から眺める、シエラ・ネバダ山脈を背景にしたアルハンブラ宮殿の景色は観光客に人気。
城壁の近くにあるPl. Larga(ラルガ広場 )は、16世紀に市場として栄えた、アルバイシンの中心。
周辺は今でもこの丘に住む人々の商店街として活気に満ちており、パティオに咲く花々や陶器の鉢、アラブ様式に装飾された窓が美しい。

まずはサクロモンテの丘にある、洞窟博物館に入る。

ここは真っ白な洞窟の中に昔ロム族が住んでいた生活を再現したものだ。

私たちはふざけて、そのロム族の人形をバックに同じポーズで写真を撮ったりした。


サクロモンテを出ると、エル・サルバドール教会を見学し、最後にサン・ニコラス広場へ向かった。

サン・ニコラス広場は眺めが良いことで有名なので、既にたくさんの観光客でいっぱいだった。

ここらからは、昨日行った旧市街のカテドラル、そして今日午後に行くアルハンブラ宮殿がよく見える。

「あ~、もうすぐ俺たちは、あそこに見えるアルハンブラ宮殿に行くんですね。」

「そうだよ。私、世界史の教科書で一目惚れしてからずっと行きたかった場所なの。今日やっと行けるから本当に嬉しい。」

「そんなに前からなんですか? それはテンション上がりますね。」

私たちは、数時間後に行くアルハンブラ宮殿に胸を躍らせた。


市バスに乗り旧市街に戻ると、めんどくさがりな私たちは昨日2度食事をしたスペインバルで、またランチを食べた。

口が黒くなるのも気にせず一緒にイカスミのパエリアを食べたりして、二人の心の距離が近付いているのを感じた。

La Alhambra

私たちが持つアルハンブラ宮殿チケットが14時入場指定で、10分前には入場した。

【La Alhambra】(アルハンブラ宮殿)
宮殿と呼ばれているが城塞の性質も備えており、その中に住宅、官庁、軍隊、厩舎、モスク、学校、浴場、墓地、庭園といった様々な施設を備えていた。
現代に残る大部分は、イベリア半島最後のイスラム王朝・ナスル朝の時代の建築とされ、初代ムハンマド1世が建築に着手し、その後のムスリム政権下で増築された。
スルタンの居所であるとともに、数千人が居住する城塞都市でもあった。
建物は白を基調としているが、アルハンブラとはアラビア語で「赤い城塞」を意味する”アル=カルア・アル=ハムラー”と呼ばれていたものが、スペイン語において転訛したものである

サンタ・マリア教会を横切って、カルロス5世宮殿を見学後、遂にメインの王宮へ・・・。

王宮の中は予想以上の美しさで、私は息を飲んだ。

「どうですか?高校以来の憧れの場所は?」

茫然と突っ立っている私を見て、横にいるユウスケくんが聞いた。

「ここに来て本当に良かったよ・・・。」

私は感動しすぎて、思ったことをそのまま答えることしかできなかった。



王宮を出たら、アルカサバの塔に登り、今度はこちらからアルバイシン地区を眺めてみる。

「同じ日に二つの見晴らし台から、それぞれの名所を眺めるって不思議な感じですね。」

アンダルシアの陽光に照れされて微笑むユウスケくんは、私にはまぶしすぎた・・・。


歩くのに疲れると売店でアイスを食べて少し休んでから、「砂漠の民の水に対する憧憬を表現している」といわれる、ヘネラリフェ庭園を見に行った。

ここは色とりどりの花が綺麗で、いたるところに噴水や池があり、まさに地上の楽園だ。

私は、イスラムの王様の気分になれるアルハンブラ宮殿がすっかりお気に入りになっていた。

Iluminación

22時、ライトアップされたアルハンブラ宮殿を見に、私たちは再びこの地を訪れた。

昼間は修学旅行生や観光客でごった返していたが、夜はグッと減り、ゆっくりと観光することができる。


ライトアップされた王宮は・・・それはそれは美しかった。

まさに”アラビアンナイト”の世界そのもので、今までの人生でも最高と言ってもいいくらい、素敵な風景だった。

私たちはアルハンブラ宮殿の敷地中を回り、思い残すことはないよう写真を撮りまくった。

La cena

写真を撮り終わって満足すると、”打ち上げ”と称して、すっかり行きつけとなったスペインバルに入った。

お揃いのロゼワインで乾杯し、2日間の充実したグラナダ観光をお祝いする。

スペイン最後のディナーは、ガスパッチョとミックス・パエリアに決めた。


昨日出会ってからたくさん会話を重ねてきた私たちだが、「旅で知り合った同胞」という間柄なので、あえてお互いのプライベート・・・特に恋人に関することは触れないでいた。

しかし、今夜のユウスケくんは私に気を許したのか、今日で最後だからか、3杯目のロゼワインを飲む頃には、ある告白を始めていた。

「あぁ・・・本当は今頃ミキと一緒にここにいたのになぁ。」

ユウスケくんは、「このスペイン旅行はミキという同じ大学の彼女と行く予定だったが、出発直前に別れてしまい、仕方なく一人で来た」という経緯を私に説明した。

私はとりあえず慰めの言葉を言った。

「そっか・・・。でも終わったことは仕方ないじゃん。

気持ち切りかえて次行きなよ。

ユウスケくんイケメンなんだから、すぐに新しい彼女できるよ。

ほら、そんな凹まないの。」

お酒が強くないユウスケくんは、徐々に気弱な部分を私に見せ始めた。

「レイコさん、俺、寂しいよ。

ミキは初めての彼女だったんだ。

夜、一人でいると、ミキのことを考えて眠れなくなるんだ。」

そんなこと言われても、私はどうしたらいいんだよ・・・。

「もっと悩め少年よ。悩んで大人の男になるのだ。」

もう何と言っていいのかわからないので、敢えて突き放した言い方をしてみる。

「・・・・・・・・・。」

ユウスケくんが無言になった。

あれ、少し言い過ぎたかな?

「レイコさん、今夜一緒に寝てくれない?」

私は噴きそうになった。

「何それ!? 本気で言ってるの?」

ユウスケくんは泣きそうな顔で言った。

「スペインを旅行中、ずっと寂しかったんだ。

それがレイコさんと出会ったことで救われた。

今夜は一人で眠りたくないんだ。

お願いだから一緒にいて・・・。」

酔ったユウスケくんは大胆になり、私から”旅で出会った年上のお姉さん”というフィルターを外したらしい。


突然の好青年の爆弾発言を受け、驚きと同時に「ちょっといいかな?」と思ってしまっている自分がいる。

2日間ユウスケくんと一緒に過ごして楽しかったし、もう二度と会うこともないだろう。

最後の旅の思い出として、一夜を共にするのも悪くない。

私自身、「もっと彼と一緒にいたい」という気持ちがあったのも事実だ。

私は心の中で小さく決心すると、目の前のユウスケくんを見つめ、さっきまでとは違う優しい声で答えた。

「いいよ。じゃあ、私の部屋に来て。」

Hotel

それぞれが予約しているホテルの距離は、歩いて5分もかからない近さだった。

私は自分の部屋に帰るとシャワーを浴び、ユウスケくんが来るまでに寝る準備を整えておいた。

ユウスケくんは自分の部屋でシャワーを浴びて荷物をまとめ、そのまま私の部屋に来るという。

知り合ってたった2日しか経ってない男の子と一夜を共にする・・・。

そんな非日常な出来事に、私の中で緊張とドキドキする気持ちがせめぎ合う。

シャワーを出て部屋を片付けていると、ユウスケくんの押す呼び鈴が聞こえ、私はドアを開けて招きいれた。

「レイコさんの泊まる部屋は、大きくて広くていいなぁ。」

照れを隠すように、ユウスケくんは第一声に私の部屋の感想を述べた。


「どういう風に寝たい?」と率直に聞くと、「レイコさんはベッドで寝てください。俺はソファでいいです。」という返事が返ってきた。

ユウスケくんは、単に話し相手が欲しかっただけか・・・。

がっかりした気持ちがないわけでもないが、このままプラトニックで終わらせるのも悪くない。

私は本当にどちらでも良かった。


私たちはそれぞれの場所に寝て、お互いの恋バナを延々とした。

離婚のドロドロ話やフランスでの恋愛遍歴を語ったら引かれそうなので、私の方は過少報告にしておいたが。

ユウスケくんは、ミキという初めての彼女の話を熱く語った。

いかに彼女が好きだったか、彼女に振られて辛かったか・・・。

話を聞いているうちに同情してしまって、私は胸が締め付けられた。

「そっか・・・。辛かったね。」

私が慰めの言葉をかけると、ユウスケくんはこう言った。

「レイコさん・・・そっちに行っていい?」

今夜はもう別に寝るものだと思っていたので、その申し出には驚いた。

でも、癒してあげたい気持ちと彼への好奇心には逆らえず、「いいよ。」とベッドから手を差し伸べた。


ユウスケくんはベッドに入ると、私を強く抱き締めた。

「ごめん。とにかく寂しくて・・・。初めはそんなつもりじゃなかったんだけど。」

ユウスケくんは言い訳がましく言ったが、そんなことはどうでも良かった。

「いいよ、別に。こうやって出会ったのも何かの縁だし。

私で良ければユウスケくんを慰めてあげる。」

ユウスケくんの方を見ると、彼は私の顔を両手で包み込みキスをした。

若い男の子特有の荒々しいキスは、私の中の制御されていた何かのスイッチをONにした。


今まで一人しか経験がないというユウスケくんには少し稚拙さも感じたが、真っ直ぐで純粋な彼のセックスは決して悪くなかった。

私はできるだけ優しく、彼が癒されるよう愛したつもりだ。

元気な彼は二度目もリクエストし、それにも応えてあげた・・・。

「レイコさん、すごいね。やっぱり大人の女は違うね。」

終わった後、正直な彼はそんな感想まで口にした。

「そう!?じゃあ次は、年上のお姉さんと付き合ってみたら?」

ストレートに褒められたのが恥ずかしくて、思わずどうでもいいアドバイスをしてごまかした。

Promesa

翌朝、ユウスケくんの熱烈なキスで目が覚めた。

昨夜全てを曝け出した私たちは、また一つに溶け合った。

私は彼に抱かれながら、アンダルシア旅行の最後を飾る思い出として、これも悪くないな・・・などと考えていた。


ホテルを出ると、長距離バスターミナル近くのカフェで遅めのブランチを一緒に食べた。

私はこれからバスでマドリッドに向かい空路でパリに戻る予定で、ユウスケくんはバスでセビリアに向かうという。

私たちが一緒に過ごす時間はもうすぐ終わりで、このまま二度と会うことはないだろう。

食後のエスプレッソを飲みながらそんなことを考えていたら、ユウスケくんが唐突に質問してきた。


「ところでレイコさんって、いつ帰国するんだっけ?」

「ワーホリの期限が今年の年末だから、クリスマスまではパリにいるつもり。パリのイルミネーションを見てから帰るよ。」

「そうなんだ。帰国したら、日本のどこに住むの?」

「東京だよ。」

「そうなの!?じゃ、俺も東京だからまた会おうよ。」

ユウスケくんの笑顔は、昨日より元気そうに見えた。

「いいよ。」

私たちは、紙にお互いのメールアドレスを書いて交換した。


・・・でも、私はわかっていた。

この青年はモデルみたいにカッコいいし、すぐに新しい彼女ができて、きっと私のことなんか忘れるだろう。

半年後に私が帰国しても、私たちが会うことはきっとない。

memoria

それから2週間後後、ユウスケくんから帰国報告のメールがあった。

そこには、スペインの風景写真が添付され、一緒に観光したお礼と共に、彼が回ったスペイン各地の旅の思い出が綴られていた。

私も、パリの写真を付けて自分の近況報告などを返信した。

その後何度かメールのやりとりがあったが、1ケ月ぐらいでそれも途絶えた。

きっと新しい彼女ができたのだろう。

私は、「良かったね。」と心の中でつぶやいた。


彼とはそれっきりで、私が帰国した後も会うことはなかった。

私にとってユウスケくんは、”グラナダの彼”として記憶に残った。


一旦パリに戻った私だが、数日後にはバルセロナ一人旅が控えていた。

2回目のスペインでも、旅を彩る新たな出会いが私を待っていた・・・。


ーフランス恋物語㊺に続くー


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