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5日間限定の恋人~初日~(フランス恋物語119)

Le 1er jour

2月15日、月曜日。

昨夜、ついに私は上野さんと結ばれた

彼との行為でヘトヘトになった私は、泥のように眠った・・・。


「玲子、起きなくて大丈夫なの?」

朝8時、上野さんの心配そうな声で私は目覚めた。

・・・あれ、なんで、上野さんが私を起こしてるんだっけ?

寝惚けている私は、今自分の身に起きていることを理解できていない。

周りを見渡すと、床に無造作に置かれた着物が目に入り、やっと昨夜の出来事が思い出された。

「え!?・・・ってことは、あれは全部夢じゃなかったの?」

独り言をつぶやくと、横に寝ている上野さんが肘を付いて笑っていた。

「そうだよ、玲子。

昨日の玲子、すごく良かったよ。」

そう言うと、私を抱き寄せ熱烈なキスをした・・・。


私の出勤時間は11時だ。

持ってきていた着替えは普段着だし、着物もあるので、一旦帰宅しなければならない。

今なら間に合う・・・。

「上野さん、私今から明大前の家に帰りますけど、一緒に行きますか?

それとも残って、夜待ち合わせにします?」

私は飛び起きると、着替えの洋服を持ってバスルームに向かった。

「俺は残るよ。まだ眠い・・・。」

ベッドから、上野さんの声が聞こえる。

この状況だと私もあまり構ってられないし、そっちの方がいい。

そういえば、部屋も片付けてなきゃ。

私は慌ただしくシャワーを済ませると、寝室に戻り、着物を片付け、荷物の整理をした。

出かける準備が終わると、連絡先と「明大前19:30待ち合わせ」という文字をメモに書き、今にも二度寝しそうな上野さんに渡した。

「これ、私の連絡先なので、何かあったら電話かメールください。

上野さんの携帯番号は、昨日貰った名刺に載ってますよね?

明大前の駅前に19:30待ち合わせでお願いします。」

「玲子、ちょ・・・ちょっと待って。」

出発しようとする私の腕を引き寄せ、上野さんは”行ってらっしゃい”のキスをする。

その引き寄せ方といい、キスの仕方といい、すべてが完璧すぎて、朝からドキドキが止まらない・・・。

「仕事頑張ってね。

今夜、明大前近辺で美味しい物、食べに行こう。

玲子の好きな物ご馳走するよ。

あ、宿泊費は今夜まとめて渡すから。」

「わかりました。行ってきます。」

私はニヤニヤしながら部屋を出た。

・・・今日から、上野さんとの愛の5日間が始まる!!

それが5日間限定とわかっていても、私は幸福な気持ちでいっぱいだった。

変わる世界

上野さんが起こしてくれたおかげで、今日も遅刻することなく出勤することができた。(むしろ、クリーニング屋に訪問着を出しに行く余裕があったくらいだ)


「おはようございます。」

朝、出勤すると、なぜか職場の世界が違って見えた。

もう類と会っても気まずくない。

事情を知ってそうなお局の鈴木さんの視線だって、怖くない。

「類との失恋が過去のもの」に変わった今、恐れるものは何もなかった。

・・・まるで、配属したての頃に戻ったみたいだ。

上野さんに愛し愛されるだけで、こんなに気持ちって変わるものなのか・・・。

「恋の力は偉大」だと、私は身を持って知ったのだった。


仕事中、何度か類の視線を感じた。

私はなるべく気付かないふりをしていたが、目が合ってしまった時は余裕で微笑むことさえできた。

彼は私の心境の変化の変化に気付いたのだろうか・・・。

幸か不幸か、今日は類と二人きりになることはなかった。

Le rendez-vous

19:30、明大前駅に着くと、先に来ていた上野さんが待っていた。

昨日のスーツ姿の上野さんも好きだけど、カジュアルな服もこなれた感じに着こなしていてカッコイイ。

あの上野さんが、私のうちの最寄り駅にいるのは変な感じだ。

上野さんは私の肩を抱いて、恋人らしく歩き始めた。

「明大前って初めて来たけど、そこまで栄えてないんだね。」

「そうなんです。すごくアクセスはいいんですけどね。

でも、そのちょっとマイナー感が私は好きなんです。」

「ふ~ん。」と言いながら、上野さんは不思議そうに街の風景を眺めた。


「まさか初日に居酒屋に連れて行かれるとは思わなかったよ。」

日本酒を美味しそうに飲みながら、上野さんは言った。

私が今夜行こうと決めたのは、個人経営の魚の美味しい居酒屋だった。

「だって私は魚が食べたかったし、帰国したばかりの上野さんも和食の方がいいだろうなと思って。」

上野さんは私の頭をクシャッと撫でた。

「玲子、よくわかってるな~。

てっきりオシャレなフレンチとかイタリアンに行くのかと思ったよ。」

頭を撫でられて嬉しい気持ちがバレないよう、私はクールに返事した。

「そもそも、明大前にそんなお店ありませんから。

どっちかというと、隣の下高井戸の方が開けてますよ。」

久しぶりの東京の外食に、上野さんはノリノリのようだ。

「じゃ、明日は下高井戸で晩御飯食べる?」

刺身を食べていた私は、魚繋がりで思い付いた。

「それなら明日は、下高井戸の寿司屋に行きますか?

地元民の間で人気の寿司屋がありますよ。」

”寿司”という響きに、彼は大喜びだった。

「寿司、いいね。

パリの寿司屋も年々良くなってるけど、やっぱり日本の寿司とは全然違う。

さすが玲子もパリ経験者だから、よくわかってるね。」

私は上野さんに褒められるのが嬉しかった。

「任せてください。

じゃ、帰国したての日本人の気持ちになって、これからのお店チョイスしていきますね。」

私は早速、寿司屋に予約の電話をした。

La porte

帰宅すると玄関に入った瞬間、上野さんに後ろから抱きすくめられた。

彼はそのまま私の服に手を入れ、体をまさぐり始める・・・。

「え・・・ちょっと待って。

シャワーだって浴びてないし、まだ心の準備が・・・。」

彼は耳元で囁いた。

「昨日だって、シャワー浴びずにしたでしょ?

そうやって恥じらう玲子の姿が見たいんだよ。」

上野さんの手にかかると、私はすぐに理性を失ってしまう。

彼の指先の感触が気持ちよくて、持っていたバッグを落としてしまった。

気が付けば、彼の方を向き直り、激しくキスを求める自分がいた。

彼の求めるままに応じていると、着衣のまま玄関で事を終えてしまったのだった・・・。


うわ、こういうのは人生初だ・・・。

私の後ろでさっき果てたばかりの上野さんが、満足気につぶやいた。

「玲子・・・いいよ。

これからもっと気持ちよくしてあげる・・・。」

・・・ダメだ。やっぱりこの人ヤバイって!!

私は、「エラい人と契約してしまったな」とそら恐ろしくなるのだった・・・。

Sur lit

ベッドでの一戦も終え、私たちはやっと普通の会話モードになった。

私の隣で、上野さんは思い出したように言った。

「そういえば、今日の仕事どうだった?

職場の元カレと何か話した?」

・・・上野さんは何でそんなことを聞くんだろう?

「いいえ。一言も。

何度か視線は感じましたけど、前ほど気まずくなく、普通に過ごせました。」

「そっか・・・ならいいけど。」

私のことを心配してくれてるのかな?

ここはやっぱり”上野効果”を報告しておいた方がいいのかしら。

「上野さんのおかげで、元カレのことは吹っ切れました。

今だったら、『奥さんと離婚できたから付き合おう』って言われても、キッパリ断われる自信があります。」

自信満々な私に、上野さんはちょっと意地悪な質問をした。

「”今は”・・・ね。

でも、俺がいなくなってもそんなこと言える?」

そんなこと・・・想像してみても簡単に答えは出ない。

「・・・・・・。」

上野さんは優しく聞いた。

「自信がないの?」

「・・・ない。」

シュンとすると、上野さんは私を抱き寄せ、頭を撫でた。

「ごめんごめん。酷なことを言って。

でも・・・もう1日目が終わろうとしている。

俺はあと4日でいなくなるからね。

玲子は、俺にも元カレにも依存せず、もっと強くならなきゃダメだよ。」

私は弱々しい声で言った。

「そんなこと、わかってる・・・。」

・・・上野さん、ズルいよ。

厳しいことを言った後に、急に優しくするなんてズルい。

そのギャップにやられた私はますます上野さんが愛おしくなって、彼の体に強くしがみつくのだった・・・。


再会してたった2日で、その色気や性的技巧のみならず、自分が上野さんの心にも惹かれているのがわかる。

やっぱり彼は、あらゆる面で魅力を兼ね備えた”超イイ男”だ・・・。

あと4日だけで、私は満足できるのだろうか!?


水曜日の休日デートで、私はさらに上野さんにハマッていくことになるのである・・・。


ーフランス恋物語120に続くー

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