[小児科医ママが解説] 熱中症が心配。水分はどれくらい?何を飲んだらいい?赤ちゃんにも麦茶は必要?
「教えて!ドクター」について、前回まで、乳幼児健診のフライヤーにそって解説をしてきました。
乳幼児健診の他にも、とても良いフライヤーを掲載くださっていますので、今後それらをご紹介しつつ、補足のご説明をさせていただければ幸いです。
今回は「熱中症」です。
教えて!ドクターのフライヤーでは、熱中症についてや、お子さまがとる水分のこと、対処法など、かわいいイラストとともにまとめてくださっています。
連日、異常な猛暑で、お出かけするにもためらってしまうこの頃。
こうしたご相談をよくいただきます。
これらを見ていきましょう。
①適切な水分の量は、体重で決まる。
育児書やいろいろな情報によって、「1日これくらい水分を取りましょう」というのが色々書いてあると思います。
医学的にも「絶対これ!」というものはないのですが、大まかに言えるのは「適切な水分の目安を考えるときは、体重が一つの目安になるよ」ということです。
教えて!ドクターのフライヤーには、下記のように目安を書いてくださっています。
上記はおそらく「追加の水分量」ということなので、1日トータルの水分量としては、もっと飲んでOKです。
たとえば過去の便秘のnoteでも記載しましたが、お子さんの体重と・1日の水分摂取量(推奨)は以下のような提案もあります。
こちらも「まぁこれくらい飲めたらいいよね」という一つの目安なので、これ以上飲んでも、もちろんOKです。
でも「じゃあ、1日の水分量のうち、麦茶やスポーツドリンク、イオン飲料はどんな内訳にすればいいのかな?」というところが気になってきますよね。
②イオン飲料・スポーツドリンクは、飲み過ぎ・飲み方に注意。
暑いときの水分補給・・・というと、イオン飲料やスポーツドリンクが思い浮かびますよね。
教えて!ドクターのフライヤーでも、アクアライトやスポーツドリンク、といったキーワードが見られます。
もちろんこれらを飲むのは良いことですが、イオン飲料やスポーツドリンクの飲み過ぎには注意が必要です。
公式な団体も「イオン飲料は1日○mLまで!」と明確な基準を設けているわけではないのですが、以下のような理由から、飲み過ぎには注意しようと呼びかけています。
(1)食事が進まなくなることがある(糖分やカロリーが多いから)
一つめの理由は、食事が進まなくなることがあるからです。
イオン飲料やスポーツドリンクは、糖分やカロリーを含んでいるので、たくさん飲むと当然、満腹感にも影響してきます。
食事が十分に取れず、栄養分がしっかり取れていないときなどは、余計に熱中症になりやすいです。食事の量に支障がでない程度に、飲むというのが大事です。
「食事の直前には、イオン飲料やスポーツドリンクなどは飲まないようにする」と決めるのも良い方法だと思います。
とくに離乳食など、まだ食事の習慣や量が安定しないうちは、注意が必要です。
実際にイオン飲料を大量に飲む習慣があったお子さん(生後8ヶ月)で、体重が増えないまま数ヶ月経過してしまったという症例が報告されています(下記の(2)でご紹介しています)。
(2)心臓や全身に負担がかかることがある(ビタミンB1が不足するから)
もう一つの理由は、心臓や全身に負担がかかる(「脚気(かっけ):ビタミンB1の不足が一因になる」)ことがあるからです。
イオン飲料やスポーツドリンクには糖分が入っていますが、ビタミンB1は含まれていないことがほとんどです。
ビタミンB1というのは、糖分をエネルギーに変換して処理くれるビタミンです。
なので、イオン飲料やスポーツドリンクに含まれる糖分を処理しようとすると、自分の体の中にもともとあったビタミンB1を使うことになります。
よって、イオン飲料やスポーツドリンクを大量に飲みすぎると、体の中にあったビタミンB1を使い切ってしまい、体の中にビタミンB1が不足している状況になります。(この状態が「脚気(かっけ)」です。)
実際に、イオン飲料を大量に飲んだことで、脚気になってしまい、全身状態が悪くなってしまったお子さんの症例報告があります。
(日本小児科学会雑誌 116(8), 1228-1232, 2012-08-01)
この症例は、生後8ヶ月のお子さんで、イオン飲料を毎日4L飲むことを、数ヶ月つづけられていました。
そのうちミルクや食事もとらなくなり、体重が増えなくなり、やがて呼吸や全身の状態が悪いことから受診をされました。
イオン飲料の飲みすぎによる脚気(ビタミンB1の欠乏)だとわかり、心不全(ビタミンB1が不足していると、心臓にも負担がかかります)などの重い状態になっていたということです。
ほかにも小さいお子さんが、イオン飲料を大量に飲む習慣があると、ビタミンB1が不足して、全身に負担がかかるという症例は複数報告されています。
ただし少しイオン飲料を飲んだから、すぐにこんな一大事になる、というわけではありません。
おおまかには、イオン飲料やスポーツドリンクを「1日1L 以上」飲む習慣が「数ヶ月以上」つづいていた場合に、このようにビタミンB1が欠乏して、全身に影響がでることが報告されています。
そんなに飲まないよ〜と思うかもしれませんが、胃腸炎や風邪ときなどに、たまたま飲んだのをきっかけに、お子さんが気に入ってついついたくさん飲んでしまうことはよくあります。
1日どれくらい飲んでいるかな?食事に影響がでてないかな?ということは、時々注意してあげると良いでしょう。
(3)虫歯の原因の一つになる
イオン飲料はスポーツドリンクには糖分が含まれているため、虫歯の原因の一つになることがあります。
日本小児歯科学会も、虫歯という観点から、イオン飲料やスポーツドリンクを飲むときの注意を挙げています。
お子さんの大切な歯は、守ってあげたいですよね。
なお、歯みがきやフッ素については、過去のnoteも参考になれば幸いです。
(この記事は、2023年1月27日に改訂しました。)
③生後5ヶ月くらいまでのお子さんは、母乳やミルクのみでOK。
とくにまだ母乳やミルクしか飲んでいない、という赤ちゃんだと「あれ?!ちゃんと飲めてる?足りてる?脱水になってない?」と心配になりますよね。
「まだ母乳やミルクしか飲んでいないんですが、麦茶やイオン飲料もしっかりあげたほうが良いですか?」と、暑い時期によくご相談をいただきます。
結論から申し上げれば「まだ母乳やミルクしか飲んでいない、生後5ヶ月くらいまでのお子さんは、母乳やミルクのみで十分です。ほかの飲み物はむしろあげないほうが望ましいです。」とお伝えしています。
理由としては、やはり「成長に必要な栄養=母乳やミルク をしっかり取ってほしいから」です。
①でも書きましたが、イオン飲料は糖分やカロリーを含むので、お腹が満たされます。その結果、成長に必要な栄養、つまり母乳やミルクを飲む量が減ってしまうことが心配です。
②でも触れた、生後8ヶ月のお子さんも、イオン飲料を好んで飲むようになってから、離乳食やミルクが進まなくなり、体重が増えなくなったという症例報告でした。このケースは、イオン飲料を1日4L、という極端な例ではありますが、やはり母乳やミルク・離乳食の量に影響が出ないように、注意は必要です。
なお麦茶の場合は、糖分やカロリーなどは含みませんが、やはり大量に飲みすぎてお腹にたまってしまうと、母乳やミルクの飲みに影響が出る可能性はあります。
とくに完全母乳のお子さんにとっては、お子さんの飲みが、お母さまのおっぱいの出にも影響してきます。「とくに離乳食をはじめるまでは、必要がなければ、母乳以外の飲み物を口にしない」というのが、WHO(世界保健機関)をはじめ、完全母乳の場合の世界的な原則です。
飲んでくれない・・・ひとまず脱水のポイントをチェックしてみよう。
最後に、飲んでほしいのに、嫌がって水分をとってくれない!というケースです。
遊ぶのに夢中だったり、とくに理由はないけど哺乳瓶やマグ・コップなどを嫌がったりして、水分をとるのも一筋縄ではいかないことはよくあります。
嫌がって飲まないのに、無理やり口をこじあけて飲ませるわけにもいかないです。
というわけで、ここはひとつ「脱水のポイント」を把握しておいて、「よし、当てはまらないから、多少いま飲まなくても仕方ない!」と思える材料にしましょう。
なお「唇がカサカサしてるから、脱水かと思って心配で・・・」と受診されるケースもあります。が、ちょっと外が暑くて乾燥していたりするだけでも、唇はカサカサします。
医学的には、唇のカサカサ「だけ」で脱水と判断することはありません。
お口の中を拝見してしっかり唾液でうるおっていたり、全身状態がよければ、唇がカサカサしていても問題ないことがほとんどです。
あとは飲み物の種類で工夫してみる、という対策はあります。
水分補給というと、つい経口補水液や、イオン飲料などが思い浮かびますが、普段飲み慣れないものは、受け付けないお子さんもいらっしゃいます。
上記に色々書きましたが「とにかく、お子さんが飲んでくれるものを、しっかり飲もう」が大前提です。
教えて!ドクターのフライヤにもありますが「2倍に薄めたりんごジュース」も一つの対策です(経口補水液と同等の成分になるため、胃腸炎のときの対策にもなるんでしたね)。
食事でとれる水分を多くするのも、立派な対策でしょう。
味噌汁やスープなどが良い例です。
教えて!ドクターでも「味噌汁」の記載がありますね。
水分をとるときに、一緒に塩分(ナトリウム)もとることで、体の中により水分が取り込まれやすくなります。熱中症対策には、塩分(ナトリウム)も大切なんですね。
ただし経口補水液として推奨されているナトリウムの濃度にくらべると(Na 40~75 mEq/L)、イオン飲料(Na 21~35 mEq/L)のナトリウムの量は少ないです。
お食事をはじめた後のお子さんであれば、味噌汁やスープで塩分(ナトリウム)をとるのも、立派な熱中症対策です。
いかがでしょうか?
それぞれのお子さまの月齢・年齢や、ご家族のライフスタイルにあった、無理のない・安全な水分補給のヒントになれば幸いです。
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