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[小児科医ママが解説] おうちで健診:歯が生えてこない。歯の生え方が気になる。歯みがきのフッ素はどうしたらいい?

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

今回は「歯」について。

「教えて!ドクター」のフライヤーにも書かれている「歯が生えてこない」からはじまり、歯みがきってどうしたらいいの?歯の生え方が変じゃない?・・・などなど、こちらも細かいお悩みがつきないですよね。

本当は小児歯科の先生方のご専門になりますが、小児科医としてもお伝えできる範囲で、文献や清書の情報をもとに、見ていきますね。

主な参考文献はこちら。

●「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」
(阪下和美、東京医学社、2017年)

●「ネルソン小児科学 第19版」
(Robert M. Kliegmanほか、エルゼビア・ジャパン、2015年)

●フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方
●子どもたちの口と歯の質問箱(日本小児歯科学会)
●口腔外科相談室(日本口腔外科学会)
●歯とお口のことならなんでもわかるテーマパーク2080(日本歯科医師会)


歯が生えてくる時期は、生後6ヶ月~1歳など、幅広い!


赤ちゃんの歯は、まだお母さんのお腹の中にいる頃から(妊娠4ヶ月頃には)、すでに原型ができていると言われています。

その後生まれてから、生後6ヶ月をすぎてくると、下の真ん中の前歯がニョキっと生えてきます。

歯が生える順番
画像はこちらからダウンロード・編集させていただきました。

まず下の歯から。
生後6~7ヶ月ころに、①真ん中の2本→②その外側の2本。

そして上の歯へ。
生後7~8ヶ月ころに、③真ん中の2本→④その外側の2本。

さらに1歳を超えた頃から、⑤一番奥の歯。

1歳半~2歳ころに、⑥犬歯。
そして2歳~3歳の間に、⑦手前側の奥歯。


こうして2歳半~3歳になるまでに、乳歯20本すべてが生えそろうのが、典型的です。

が、生える時期・生え方・生える順番はかなり個人差があります。


1歳をすぎてからやっと、①真ん中の歯が生えてくるお子さんもいます
①真ん中の2本が生えた後に、(②その外側の歯は生えず)⑥犬歯が生えだすお子さんもいます。

生え方も、斜めになっていたり、左右でバランスが違って見えたりすることもあります。

寝返りができ、うつぶせが好きなお子さんも増えてくることも、歯並びに影響します。

ただし医学的には、歯の生え順や、歯が斜めに生えているかどうかは、正直さほど重要ではありません。お顔の骨もどんどん成長して、形が変わってくる時期。歯並びも日々変化します。

生え順や歯並びについては、基本的には様子を見ます。


1歳~1歳3ヶ月をこえても、歯が1本もなければ、小児歯科に相談。


上にも書いたとおり、1歳をこえて、はじめて歯が生えてくるお子さんもいます。

また歯茎の膨らみや、歯茎が部分的に白く見えている場合は、もうすぐ歯が生えてくるサインです。
1歳をこえて、はっきりした歯が見えなくても、こうしたサインがあれば、生えてくるのを待ってOKです。

1歳~1歳3ヶ月くらいで、様子を見ているけど、歯が1本も生えてこないし、歯茎に変化もない。

そんな場合は、一度、小児歯科に相談していただけたら幸いです。
乳歯が本当に無いかどうかを、歯のレントゲンなどで確認するからです。

非常にまれではありますが、外胚葉異形成症といって、歯の大部分が欠損して生まれてくるお子さんがいます。

歯が今後生えてくる見込みがあるのか、生えてこないのであれば、お食事などの栄養のとり方・言葉の発音などについて、どう治療や対応をしていくかなどを、考えていく必要があります。

そのため、1歳をこえてしばらくしても歯が全く生えてこない場合は、歯科の先生に相談をすると良いでしょう。



なお完全に歯がない、とまではいかなくても、部分的に歯が欠損しているケースは、まずまずあります。

よく親知らず(第三大臼歯)については、全く無い人もいれば、上下左右4本ともある人もいれば、左1本右2本だけある、などと聞いたことがあるかと思います。
親知らず(第三大臼歯)は欠損のバリエーションが多い歯の一つですね。

ほかにも、上の側切歯(上記の図で④)や下の第2小臼歯(上記の図で⑦)も、欠損しているため、生えてこない場合が少なくありません。


乳歯の先っぽが割れてる?6歳ころ(永久歯)にチェックを。


さて、生え方や生える順番のほかにも、歯の形にもバリエーションがあります。

下のように、歯の先端が割れているように見える場合があります。

癒合歯
画像は「子どもたちの口と歯の質問箱(日本小児歯科学会)」より引用させていただきました。

これは癒合歯(ゆごうし)や癒着歯(ゆちゃくし)、あるいは双生歯(そうせいし)といって、下顎に生えてくる歯で、まずまず見られるものです。

もともと歯の原型としては2本だったけど、くっついて生えてきたり、1つの歯の原型が2つにわかれて生えてきたり・・・といったメカニズムで、こうなります。

この場合も、急いで受診や検査をする必要はありません。
また、乳歯がこうした状態でも、生え変わって大人の歯である永久歯でも、同じ状態とは限りません。

乳歯が抜けて、永久歯が生えてくる時期(6歳ころ)を目安に、永久歯の状態をチェックする意味で、レントゲンなどの検査を検討すればOKです。

なお先端が割れていると、食べかすがたまりやすく、虫歯のリスクになります。歯みがきの際には、割れ目も注意してみがけるとバッチリです。



最初の歯みがきは、ガーゼでもOK。寝る前の1回は欠かさずに!


歯みがきの話がでてきましたが、いつから・どんな感じでやればいいのか?という相談もお受けします。

まず時期については、最初の歯が1本でも生えてきたら、歯みがきデビューです。

といっても、いきなりブラシで1本しかない歯をみがくのは難しいです。ガーゼや布などで、歯をぬぐってあげればOKです。
もちろん、赤ちゃん用の歯ブラシを使っても良いです。が、みがくためというよりは、口の中に歯ブラシが入るのに慣れるため、という目的になります。

またみがく回数や頻度については、もちろん毎回の食後で歯みがきできたらベストですが、集団生活や色んなご事情でむずかしい場合も多いと思います。

できれば朝夜の1日2回、どうしても難しければ、寝る前の1日1回は必ずできると良いでしょう。



歯みがき粉はフッ素入りで!


また、歯みがき粉のフッ素が必要なのか?体への影響は?というご質問もいただきます。

結論から言えば、歯みがき粉は「フッ素入り」をオススメします。


フッ素が虫歯予防につながることは、ご存知の親御さんも多いと思います。
フッ素は歯のエナメル層の再石灰化をうながして、脱灰を予防したり、細菌の活動をおさえることで、虫歯を予防したりします。

そのため米国小児科学会では、2014年ころから、「最初の歯が生えたら、フッ素入りの歯みがき粉を、すべての子どもに使用する」ことを推奨しています。
なおアメリカでは、上水道にフッ素が入っている州もあり、日本よりもフッ素の摂取に積極的です(日本はこのような地域はありません)。


一方で、フッ素を取ることによる、体への影響は気になりますよね。

たしかにフッ素症といって、フッ素を過剰に摂取することで、吐き気や腹痛、また歯が変色するなどの影響が出ることがあります。
一般的には、体重あたり5mgのフッ化物を摂取すると、中毒量になるといわれています。

ただしこれ、かなりの量です。

例えば、体重15kgくらいの4歳のお子さんがいるとします。フッ素入り歯みがき粉(1000ppm=0.1%)をどれくらい飲んだら、中毒量になるでしょうか?
正解は、歯みがき粉1本~2本を一気に丸のみしたら、中毒量になります。
※ 体重15kg → 中毒量のフッ素は75mg → 歯みがき粉 75gが中毒量。子ども用の歯みがき粉は、だいたい1本40~50g。


たしかに子ども用の歯みがき粉は、フルーツの味がついているなど、口当たりは良いものが多いです。
が、歯みがき粉を丸々2本、一気のみできるかというと、甘みや量のため、途中でギブアップするお子さんのほうが、圧倒的に多いと考えられます。


上記の理由から、普通に歯みがき粉として使うぶんには、フッ素の過剰摂取をおそれる必要はありません。

ただしもちろん、フッ素入り歯みがき粉は、お子さんの手の届かないところに置いておくのは鉄則です。
万が一飲み込んでしまったかもしれないという場合は、医療機関に電話で相談して、受診を検討してください。



歯みがき粉のフッ素の濃度:5歳までは500 ppm、6歳以後は500~1000 ppm。


ではお子さんにとって最適な、フッ素の濃度や量はどれくらいでしょうか?
日本口腔衛生学会からは、以下が提案されています。

【年齢ごとに適した、歯みがき粉のフッ素:濃度と量】
※参考:フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方

●6ヶ月~2歳
濃度:500 ppm(0.05 %)
量:切った爪程度の量
※この量なら、歯みがき粉を飲み込んでもOK。

●3~5歳
濃度:500 ppm(0.05 %)
量:5 mmほど
※歯みがき粉、1回だけすすぐのが理想。

●6~14歳
濃度:1000 ppm
量:1 cmほど
※歯みがき粉、1回だけすすぐのが理想。


まず大前提として、どれくらいフッ素が含まれているか、フッ素の濃度が記載されている歯みがき粉を選びましょう。

またお子さんの場合は「1000 ppm(0.1 %)」を超えないものを選んでください。
さきほどのフッ素摂取にともなう副作用のため、また、虫歯を予防するには上記で十分な濃度だからです。

なお 2017年3月以後、フッ素濃度が1000 ppmを超える歯みがき粉が、日本で承認されています。が、6歳未満のお子さんでは「1000 ppm以上の歯磨き粉は使用しない」とされています。


実際に市販の歯みがき粉を見てみると、赤ちゃん・子ども用の歯みがき粉で(濃度が明記されているものは)1000 ppm以内にちゃんとおさまっています。

中でも、6歳未満で推奨濃度とされている「500  ppm(0.05%)」により近いものは、以下の歯みがき粉です。

●テテオ 歯みがきサポート 新習慣ジェル(コンビ)(500 ppm)
●ドゥークリアこどもハミガキ(いちご・グレープ)(サンスター)(450-500 ppm)
●親子で乳歯ケア ジェル状歯みがき ぷちキッズ(ピジョン)(500 ppm)
●こどもハミガキ(ライオン)(500 ppm)
●ジェル歯みがきチューブ(アカチャンホンポ)(270-300 ppm)

なお白井個人は、上記いずれの歯みがき粉のメーカーさんなどと、一切の関連はありません。あくまで文献(小児用歯磨剤(および歯磨剤類似商品)のフッ化物配合に関する調査)を参考に、一例として提示しています。
また製造過程の変更などにより、フッ素濃度が変更されている可能性もあります。必ず最新の情報はご自身でご確認ください。

逆に、フッ素がほとんど・全く入っていない製品もあります。

今回の情報をもとに、どんな歯みがき粉を使うと決めるかは、親御さんの選択の自由です。
が、歯みがき粉ごとで、含まれるフッ素の量が色々ちがうなだな~というのは、心にとどめておいてもらえたら幸いです。

その他、歯みがきなどについては、 「子どもたちの口と歯の質問箱(日本小児歯科学会)」のページが参考になります。




いかがでしょうか?

歯ひとつとっても、やはりお子さまそれぞれ、生える時期や生え方も様々であること。
フッ素入りの歯みがき粉の大切さ。

そんなことが伝われば幸いです。


次回は、歯みがき「以外」の歯のケア。また夜間授乳が虫歯の原因になるのか?そういった点を、見ていきたいと思います。

(この記事は、2023年1月28日に改訂しました。)

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