[小児科医ママが解説] おうちで健診:泣きやまないときに、医学的に考えられる原因。見るポイント。
「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。
夜泣き対策として、お昼寝もふくめて睡眠時間をしっかりとること、「完全に寝落ちるする前に」ベッドに置くこと。
ほかにもどんな寝んトレにも共通する「成功させるためのポイント」を書いてきました。
今回は(夜にかぎらず)ずっと泣き止まない・不機嫌なときに、考えられる「医学的な原因」について見ていきます。
実は外来でも、オンラインの医療相談でも、よくいただくご相談なんです。
夜中に救急外来にこられるご家族もいます。
ってなるケースも多いです。
医学的に考えても・診察しても、なんで泣き止まないのか、わからないときも確かにあるんです。
でも、私たち小児科医は「(たとえ来院されたときに泣き止んでいたとしても)なぜ泣き止まなかったのか?医学的な原因・病気はないか?」ということを考えながら、お子さんを診させていただいています。
お子さんの泣きやまない様子を見ると、焦ってしまう・不安になってしまう・イライラしてしまうのが親心。
でも、もし、泣き止まない医学的な原因や、お家で見るべきポイントを知っていたら、少し気持ちが違うかもしれません。
少しでも落ち着いて・安全に・穏やかに、泣きに対処していただけるお助けになれば、幸いです。
主な参考文献はこちら。
とくに生後1~2ヶ月は「泣きのピーク」。1日6時間、泣くことも。
産んでからびっくりする親御さんも、少なくありません。
かくいう白井も、長男・次男ともに、「なんでこんな泣くん?!」と散々ふりまわされました。笑
患者さんや、そのへん歩いてるお子さんの泣き声は全っ然気にならないくせに、いまだに自分の子どもの泣き声を聞くのは、かなり苦手です。
なんか心がざわつくんですね(あんた小児科医やろって感じですよねwこんなもんですよ)。
さて医学的には「生後1~2ヶ月に泣きのピークがある」ことが、よく知られています。
(Dev Med Child Neurol. 1990 Apr;32(4):356-62.)
(ヨコ軸)生後2ヶ月のときに
(タテ軸)1日のうち泣いている時間が、一番ピークをむかえている
のがわかります。
ほとんど泣かないお子さんだと、1日30分くらいですが、めっちゃ泣くお子さんだと1日合計で5~6時間は泣く場合もあります。
でも生後2ヶ月ではなく、もっと早い・遅い時期にピークがくるお子さんもいます。1日のうち泣いている時間が、もっともっと長いお子さんもいます。
この論文の筆者も言っていますが「とにかくめちゃくちゃ個人差が大きい」と。
・・・というわけで上のグラフはあくまで目安ですが、
思った以上に赤ちゃんってよく泣くんだな。
そしてそのお子さんなりの、泣きのピークの時期があるんだな。
っていうニュアンスが伝われば幸いです。
お子さんが「泣き止まない」ときに、小児科医が考える「医学的な原因」
まあとくに病気とかじゃなくても、赤ちゃんはめっちゃ泣くときがあると。
でも、なんでそんな泣くんよ?って話になりますね。
「なんで泣いているのか、専門家でもわからないことはある」
・・・申し訳ありませんが、これに尽きます。
小児科医や睡眠の専門家などでも、赤ちゃんが泣き止まない・夜泣きをするときに、絶対これだ!という理由を確定することはできません。
これはもう、赤ちゃんの気持ちとか把握するわけにはいきませんから、致し方のない領域になってきます。
でも、泣き止まない赤ちゃんの体に、明らかに異変が起きていないか?
そういう医学的な原因については、私たち小児科医は必ず考えています。
①(ヘア)ターニケット症候群
毛や糸などが、お子さんの手や足の指にからまって、締めつけてしまう状態です。
締めつけが強いと、お子さんの指に血が通わなくなり、指の組織がダメージを受けてしまいます(虚血や壊死など)。
日本でも(ヘア)ターニケット症候群で救急外来を受診されたお子さんの報告があり、生後1ヶ月~14歳とはばひろい年齢でおこること、また足の指に毛がからまるケースが多いことが分かっています。
(日本小児科学会雑誌 123(8), 1243-1247, 2019-08.)
②コリック
聞いたことあるよ~という親御さんもいらっしゃるでしょうか?
医学的には以下のような状態が、コリックと定義されています。
割と多いですよね?
そう、コリックは、決してめずらしい状態ではないんです。
また冒頭の「泣きのピークが生後2ヶ月ころ」というのは、このコリックのピークの時期でもあります。
原因はわからないのですが、授乳後にゲップをしっかり出してあげることは、コリックの一つの対策になると言われています。
ちなみに、赤ちゃんが苦しそうでなければ、無理やりゲップを出さないといけないわけじゃないです。ゲップが出やすくなる方法や対策などは、また追って記事にしていきたいと思います。
③腸重積(ちょうじゅうせき)
手前の腸が、奥側の腸の中に入りこんでしまって、そのまま抜けなくなってしまう病気です。詳しくは、日本小児外科学会のHPを参考にされてください。
血便がでる前に、よくわからない不機嫌や嘔吐から、症状が始まることが多いです。
④精巣捻転(せいそうねんてん)
急性陰嚢症ともよばれ、タマタマがねじれてしまう状態です。
詳しくは、日本小児外科学会のHPを参考にされてください。
痛みからの不機嫌・泣きがつづいたり、片方のタマタマ(陰嚢)が大きく腫れている・皮膚の色が赤黒い/紫色などの変化があることで、気づかれることがあります。
⑤便秘
赤ちゃんのお腹の機能はまだまだ未熟です。
毎日ウンチがでていると思っても、まだお腹の中にたくさんたまっていたり・ガスがたまっていたり、うまくウンチが出せないことで、それが泣きにつながっていることも多いと言われます。
1日何回ウンチがでなかったら便秘なのか、など、便秘のあれこれについては、過去のnoteを参照ください。
⑥胃食道逆流・ゲップ
胃食道逆流も珍しい病気、というよりは、一般的な赤ちゃんによく見られる状態です。
赤ちゃんは、胃と食道の境目にある筋肉も弱いですし、胃の容量も小さいからです。日本小児外科学会に詳しくかいてありますが、ここまでの検査や治療が必要になるお子さんはレアです。
が、おっぱいやミルクが逆流してくるのが不快だな、と感じる赤ちゃんは多いようで、泣き止まない一つの原因としてあげられます。
またゲップが出したいのに出せない、そんな不快も、泣きにつながると言われています。
⑦むずむず脚症候群
えー、子どもでもなるの?という方も多いと思います。
寝るときなどに、足がむずむずするなど、違和感をおぼえる状態ですね。
お子さんの場合は「足がむずむずする・違和感がある」という言葉では表現できないので、疑うのもなかなか難しいです。
ただし話せるようになってきたお子さんでは「足が痛い」と教えてくれたり、逆にまだ話せないお子さんでは、足の不快感からひたすら泣く、というのが唯一のサインになることがあります。
鉄の不足が原因になることもあります。
生後6ヶ月以後で、食事があまり進まず、ほとんど母乳で乗り切っているお子さんなどは、リスクになることがあります。
鉄が不足しているかどうかは、血液検査をしないとわかりません。心配な場合は、あらかじめお電話のうえ、受診や検査を検討されてください。
⑧体のかゆみ(湿疹やアトピーを含む)
湿疹やアトピー性皮膚炎については、過去の記事でも触れました。
大人とちがって「かゆい」と言ったり、体をかいたりすることができない赤ちゃんでは、これもまた、ただひたすら「泣く」という行為で表現するしかないんですね。
パッと見はお肌の赤みやじゅくじゅくがなくても、お肌の深い部分では、実は炎症が起きていることもよくあります。
⑨発熱
風邪(ウイルス性感染症)などで発熱しはじめたときなどに、お子さんの寝つきが悪いな、よく夜泣きするな、と感じた親御さんも多いのではないでしょうか?
くわえて喉が痛かったり・腫れていたりしたら、余計にしんどい・不快ですよね。これもまた泣き止まない原因のひとつです。
【泣き止まないときに、見るポイント】
(1)手足の指先:髪の毛はないか?
(2)オムツ:ウンチは?タマタマは?
(3)泣き止まない「以外の」症状は?
さて、泣き止まないときには色んな医学的な原因がありうることを見てきました。
じゃあ実際、家ではどんなところに気をつけて見ればいいの?というポイントをまとめておきましょう。
(1)手足の指先:髪の毛はないか?
さきほど原因であげた①(ヘア)ターニケット症候群のことですね。
親御さん自身で簡単にとれなければ、無理をせず、救急外来にご相談ください。医療用のハサミを使うなど、安全な方法で取り除きます)
(2)オムツ:ウンチは?タマタマは?
さきほどの原因のうち、③腸重積 ④精巣捻転 ⑤便秘 にかかわることです。
③腸重積は、一般的には、さきに嘔吐や不機嫌があってから、数時間後などに血便がでてくることが多いとは言われています。
不機嫌とともに明らかに血便が出ていたら、すぐに受診を相談してください。
⑤便秘については、一概にはいえませんが、週に2回以下の排便ペースだと疑います。そういえばここ数日ウンチが出ていなかったな、という場合は、便秘が原因かもしれません。
泣きじゃくっているときに、むりやり綿棒浣腸やマッサージをしても便は出にくい場合も多いですので、無理しなくて良いです。
泣き止んで落ち着いた後にやってもいいですが、そもそも便秘の薬が必要ないかなど、そういう意味で受診を検討していただけたら幸いです。
(便秘の診断や薬の考え方については、過去の記事をご覧ください。)
④精巣捻転について、タマタマの大きさは、体の緊張や温度によっても変わるので、結構判断が難しいですよね。
一般的には、片方のタマタマだけボーンと腫れて・その部分のお肌が赤黒い/紫色などになっていることが多いですが、時間経過にもよるので見た目だけで判断できません。
これも無理せず、ちょっといつもとおかしいかも?と思ったら、すぐ相談いただいて良いです。
(3)泣き止まない「以外の」症状は?
さきほどの(2)にくわえて、発熱や嘔吐など、泣き止まない「以外」の症状があるかをチェックしましょう。
泣いているときは興奮して体温も高くなりやすいですし、体温を測ろうとしたら余計に不機嫌になることもあると思うので、もちろん無理はしなくて良いです。
もし少し泣き止む時間があったり、お子さんが熱を測ることに協力してくれたら、測ってみましょう。
発熱だけですぐに受診をする必要はないですが、あまりに不機嫌がつづいており、いつもと比べておかしい!と親御さんが思ったら、ぜひ受診を相談されてください。
いかがでしょうか?
そんなメッセージが伝わればうれしいです。
なお巷では「赤ちゃんが泣き止む!」と題した方法や商品などが色々ありますが、ここでは一切それには触れませんでした。
医学的に、明らかなエビデンスをもって、赤ちゃんが泣き止む方法なんて証明されていないからです。
もちろんトライするのはわるいことではないですし、ある特定の方法が効果バツグン!という赤ちゃんもいると思います。
が、期待しすぎは禁物。
前回の「寝んトレに期待しすぎない」と同じですね。
「何やっても、泣き止まない時がある」「私(親御さん)が悪いわけじゃない!」というスタンスが大事です。
さて、6~8ヶ月健診のフライヤーを終えまして、次からは「10~12ヶ健診」にうつっていきます。
スローペースで恐縮ですが、少しでもお悩みによりそえるような記事を、引き続きアップしていきたいと思います。
(この記事は、2023年1月29日に改訂しました。)
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