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[小児科医ママが解説] おうちで健診:どんな寝んトレにも共通する「成功させるためのポイント」


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


夜泣き対策には、月齢・年齢ごとにベストな睡眠時間・お昼寝の目安やタイミングを知ること
また「完全に寝落ちるする前に」ベッドに置くことが、色んな寝んトレに共通した大事なポイントであることを見てきました。


今回は「完全に寝落ちする前に」ベッドに置く、ということ以外にも、
「どんな寝んトレにも共通する、成功させるためのポイント」をまとめます。

どうしても医学的な根拠というよりは、実際の睡眠コンサルタントとしてのケースをもとにした、経験ベースでのお伝えにはなってしまいますが、
今回も「IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント資格取得講座」の情報、また実際のコンサルティングのケースをもとに、小児科医としての視点を添えて、おとどけできれば幸いです。



ポイントまとめ

1.寝んトレの目的を、ちゃんと考える。

2.寝んトレしすぎて、睡眠時間が短くならないように

3.「やめてほしいクセ」を無くすと同時に「良いクセ=ルーティンの入眠儀式」を身につける。

4.寝んトレを始めるなら、2~3週間は一貫してつづけられる、物理的・心理的な余裕があるときに

5.寝んトレに期待しすぎない



1.寝んトレの目的を、ちゃんと考える。



いきなり、そもそも論ですか?って感じですが、実はこれが一番大事じゃない?と思います。

色んな寝んトレ本を見たり、ママ友の情報を聞いたりすると、
「あれ?うちの子も、寝んトレしないといけないのかしら?」
「一人で寝るようにしないとダメなんかな~」
って思われる方もいると思います。

もちろん添い寝もふくめて、安全な睡眠環境は守って欲しい!というのは、小児科医としての願いではあります。
乳幼児突然死症候群SIDSに関連した「安全な睡眠環境」については、過去の記事をごらんください。)


ただし、全員がむりやり「一人で寝るトレーニングをしなきゃいけない」とか「授乳や添い乳なしで寝るトレーニングをしなきゃいけない」というわけではないんです。

毎日一緒に添い寝して、そのまま親も寝落ちするスタイルだから、お子さんが一人で寝つけなくても、別に困らない。

夜中に授乳や添い乳をするのも苦じゃない。

添い寝や添い乳してれば、お子さんも夜泣きしない。

要はお子さんや親御さんが困っていなければ、無理やり状況を変える必要はないわけです。

親御さんが夜もご自宅やお外でお仕事をする必要があり、お子さんが一人で寝つけないと、家族も困ってしまう。

夜中おきるたびに、授乳や抱っこをしないと泣き止まないから、正直しんどい。

・・・というように、困っていることがあれば、それを解決するための手段として、なんらかの寝んトレを取り入れれば良いわけです。

いまお子さんの夜泣きや睡眠について、どんな点で・どういうふうに困っているのか。
どんなふうに解決していきたいか。
どこまで目標にするか。

よく親御さん自身が目的や理由を考えて、それに向けてトレーニングすることが大事です。


2.寝んトレしすぎて、睡眠時間が短くならないように。


これも当たり前やん。
と思うかもしれませんが、意外と盲点です。

どんな寝んトレを、トライしてもいいんです。

寝んトレするのか・しないのか、どんな寝んトレを選ぶのか。
日頃お子さんを見てくださっている親御さんが、納得して選んだものなら、それでいいんです。

が、1日トータルの睡眠時間が確保できているかは、ちゃんとチェックしてください。
月齢や年齢ごとに、推奨されている睡眠時間は過去の記事でご紹介しています。)


一人で寝られるトレーニングにこだわるあまり、ひたすら何十分も何時間も泣かせて、また抱っこして、置いたらまた泣いて・・・
と繰り返しているうちに、結局1日でとれる睡眠時間が極端に短くなってしまっているケースも少なくありません。


とくに朝寝・昼寝・夕寝といった、日中の睡眠については、なかなか独り立ちするのは難しい場合が多いです。

明るさや音といった物理的な環境もありますし、メラトニンといって眠りを促す物質も、夜のほうが機能しやすいので、日中は寝にくいのは致し方ない部分があります。

ここでトレーニングにこだわるあまり、日中の睡眠時間が全然とれないと、かえって夜泣きやギャン泣きがひどくなる場合もあります。

夜泣きの対策として、日中もきちんと睡眠時間を取ることが、大事なんでしたよね。


そんな場合はまず、一人寝のトレーニングとかよりは、日中もふくめた1日の睡眠時間を、まずしっかり確保するのが最優先です。

赤ちゃんが日中どうしても寝つけない時は、

抱っこひもやバウンサー・添い乳や添い寝なども活用しつつ、とにかく寝かせることを最優先する。
「クセをとる」よりも「日中も睡眠時間をとること」を、第一目標にします。

添い寝と乳幼児突然死症候群SIDSの関連については、過去の記事を参照ください。)



赤ちゃんが深い眠りに入るまでには、通常15分くらいはかかると言われています。
逆に言えば、この時間を超えても全然眠りに入れない場合は、(睡眠時間を確保するという意味では)一度、仕切り直した法が良いでしょう。

○分たったら、もうどんな方法でもいいからとにかく寝かしつけよう、というのをあらかじめ親御さんも決めておくと良いです。


そうやって日中も寝るリズムがついてきて、睡眠時間は確保できたという状態になったら、徐々にクセをとっていく方法を試していったほうが、うまくいくことが多いです。



3.「やめてほしいクセ」を無くすと同時に「良いクセ¬=ルーティンの入眠儀式」を身につける。



「授乳でしか寝ない」「抱っこでしか寝ない」だったら、寝かしつけのときに、授乳や抱っこをしないと決める。で、朝まで子どもが泣いても全く反応しない。

そんな方法が一番手っ取り早く、夜泣きを無くすのに役立つ、というのは、米国睡眠医学会の報告にもあることは前回おつたえしました(Sleep. 2006 Oct;29(10):1263-76.)。

ただし、このextinction method・日本語でいえば泣かせる寝んトレは、物理的にも・心理的にも、日本でやるのはかなり無理がある場合が多い、ということも触れました。

たしかに「やめてほしいクセをとる」のは大事なことであり、だからこそ、完全に寝落ちする前にベッドに置くのは、どんな寝んトレにも共通した大事なポイントでした。

ただし単にクセをいきなり取るだけでは、赤ちゃんも混乱します。

そこで、やめてほしいクセをとる、と同時に、「ルーティンの入眠儀式=良いクセ」を身につけるのが大事になります。

入眠儀式?毎日同じ流れでちゃんと寝かせてるよ。という方も多いと思います。お風呂・絵本・授乳、それぞれのご家庭で色んなルーティンの行動があるでしょう。
が、その中で無意識に、完全に寝落ちするまでトントン・声かけしたり、授乳したりしていませんか?

前回から繰り返しになりますが、こうした行動自体が悪いわけではありません。愛情にあふれた素晴らしい行動だと思いますし、寝落ちするまで親御さんと触れ合えるのは、お子さんにとっても至福のときでしょう。

ただし、夜中に赤ちゃんが起きたときに、寝かしつけたときと同じ行動をするのがつらい・面倒、と思うなら、寝かしつけの行動を考えたほうが良いのでは?それが夜泣きの改善につながることがあるよ~。
というニュアンスです。


夜泣きの対策として大事なルーティンのポイントは以下になります。

① 毎日、無理なくつづけられる行動や流れにする。
② ルーティンの途中で眠さの限界がきたら、さっさと寝かせる。
③(およそ1歳半をこえてきたら)ルーティンを決める作業にお子さまも参加させる。
④ 授乳から寝るまでの時間は、15分~20分くらいはあける
⑤ 完全に寝落ちする前に、ベッドに置く。



入眠儀式で大事なこと 
①毎日、無理なくつづけられる行動や流れにする。


当たり前じゃーん、っていう感じですが、ついお子さまの要求におうじて、毎日ちがう遊びを取り入れてしまったり、流れが変わってしまったりしているというケースも少なくありません。

お子さんの要求におうじて、寝る前に読む本が1冊増えた、というぐらいなら良いかもしれませんが、どこまで親として、お子さんのそうした要求に応じるのか。決めたスケジュールからずれることを許容するか。
この辺は親御さんの「お子さんとの境界線」をどう保てるかが試されます。

絶対にこれ!という基準もないですが、一貫した態度でお子さんに接してあげられると良いでしょう。

お仕事やほかの兄弟など、ご家族の生活リズムも様々で、寝る時間が毎日一分一秒くるわず同じです!というのは難しい場合が多いと思います。
だからこそ、寝る前の入眠儀式については、なるべく同じ行動をとってあげることで、時計の読めないお子さんも安心して眠りにつけるとベストです。

夕方~夜はお子さんが(親御さんも)疲れていることも多いですし、睡眠時間の確保という意味でも、あまりルーティンにかける時間が長すぎるとお互い負担になります。

お風呂~寝るまでは30~40分くらいかかっても良いですが、さぁいよいよ寝かしつけ前の行動!というところから~寝るまでは、15~20分くらいにおさめたほうが、うまくいくことが多いです。


入眠儀式で大事なこと
②ルーティンの途中で眠さの限界がきたら、さっさと寝かせる。


真面目な親御さんほど「どんなときでもルーティンは守らなきゃ!」と、お子さんがもう眠さの限界で不機嫌MAXになっているのに、絵本を読んだりお歌をうたったりしてあげるケースもあります。

が、「もうこりゃ眠さの限界きてるな」と思ったら、さっさと寝かせてあげてください。睡眠時間の確保がなにより最優先です。

今日は途中で眠くなっちゃって・不機嫌になっちゃって、ルーティンがうまくいかなかったな。
では次の日は、ご機嫌にルーティンができるように、できる工夫をしてみましょう。

早めの時間に夕食をたべて、お風呂に入る。お昼寝の時間を長めに確保する。一回仕切り直して、次の日からできることを、またトライしていけば大丈夫です。



入眠儀式で大事なこと
③(およそ1歳半をこえてきたら)ルーティンを決める作業にお子さまも参加させる。


お子さまの言語理解の発達にもよりますが、およそ1歳半を超えてくると、だいぶ大人の言っていることも理解してきます。

発語や発話があまりなくても、言われた内容をお子さまがよく把握していることも、ままあります。

そうなってくると、入眠儀式についても、お子さまと一緒に決めると、よりご機嫌にルーティンをこなせたり、寝つきがスムーズになることがあります。

とはいえ、まだ「何したい?」などのザックリした質問では、会話も成り立たない・意味もわかりません。

「いまから、歯磨きと絵本、どっちを先にする?」
「今日の絵本は、どっちにする?」

など、親御さんが決めた大枠の中で、2択にしてあげるなど、お子さんが決められる余地を残してあげるというイメージです。

また言葉でいまいち通じ合ってないな~という感じがするときは、入眠儀式や流れをイラストで描いて、それを一緒に見ながら取り組んでいくのも、一つの対策になります。


入眠儀式で大事なこと
④ 授乳から寝るまでの時間は、15分~20分くらいはあける。


とくに月齢が低いほど、完全に寝落ちするまで授乳している方が多いと思います。

繰り返しますが、これが悪いわけではありません。月齢が低いと、夜も起きておっぱいやミルクを飲むのは、成長に必要です。

が、生後2~3ヶ月くらいになると、メラトニン=1日のリズムをつくる物質の機能も発達してきて、「夜4~6時間くらいは授乳なしでも寝つづけられる」能力を育んでいくのも、大事になってきます。

つまり「寝る=授乳」というクセを少しずつとっていくことが、大切になってきます。
そうでないと、睡眠が浅くなって→また眠りにつこうとするたびに、母乳やミルクがないと寝つけないという状況になりかねません。

15~20分というのはあくまで目安ですが、とにかく寝る直前まで授乳しているという状態は避けたほうが良いでしょう。



入眠儀式で大事なこと
④完全に寝落ちする前に、ベッドに置く。


もうしつこいわ、って感じだと思いますが(笑)、どんな寝んトレにも大事なポイントでしたね。

置いてから寝るまでの間は、それぞれの寝んトレによって対応が異なってきますが、まずは寝落ち前にベッドに置くことから、毎日初めてみるのも、立派な寝んトレです。


少なくとも生後6ヶ月ころを超えてくると、「~~したら→~~になる・~~する」というような「原因と結果」「因果関係」がわかってきます。

時計がよめない赤ちゃんにとっては、毎日の決まったルーティン・入眠儀式があると、それをもとに「あ、そろそろ寝なきゃいけない時間なんだな」「次はこれだな」と赤ちゃんなりに予測ができ、寝るまでの心の準備ができます。

単にやめてほしいクセをとる!だけでなく、こうした「良いクセ」で赤ちゃんを安心させてあげながら、寝んトレに取り組むことは、成功のための大事なポイントなんですね。


4.寝んトレを始めるなら、2~3週間は一貫してつづけられる、物理的・心理的な余裕があるときに。


寝んトレを始めるタイミングとして、大きな変化がない2~3週間を選ぶのは、大切なポイントです。

まず基本、どんな寝んトレでも「すぐに改善する」とは絶対思わないほうが良いです。

泣いても朝まで放置、のextinction methodや、その他の寝んトレでも「数日で夜泣きがなくなった!」とう声を聞くことがあると思います。が、ぶっちゃけ、レアケースだと思ってください。

前回お伝えした優しめの寝んトレたちだととくに、最初から「2~3週間はつづけるつもりで」というのが大前提です。


しかもだいたい、トレーニングをはじめて数日間は、かえって泣きが強くなることも多いです。
寝かしつけのときの習慣が変わるのは、赤ちゃんにとっては大混乱ですから、当然っちゃ当然なんですけどね。

なお、赤ちゃんが吐くまで泣いてしまったり、親御さんがあまりに辛くなってしまったり、といった場合でないかぎりは、ここですぐ寝んトレをやめたり・寝んトレの種類を変えたりしないで、続けるほうがベターです。


具体的には、以下のような場合は、寝んトレを始めるのは避けたほうが良いでしょう。

●保育園や幼稚園など、お子さんの集団生活が始まる。
●お子さんや親御さんの、体調がすぐれない。
●旅行や帰省など、寝る場所が自宅ではない。
●(入眠儀式に関わる親御さんやパートナーの方が)長期に出張する予定がある。
親御さんが復職や転職する。仕事がとくに忙しい時期である。

できればこうした要素がないと予測される2~3週間を選んで、トレーニングをはじめると、より効果が期待できるでしょう。



5.寝んトレに、期待しすぎない。


おい、最後にこれかよ!って感じですが(笑)、正直、寝んトレについてはこれに尽きるんじゃないかと思います。

お子さんも生身の人間。毎日、成長や発達していること自体が、夜泣きにもつながっている(睡眠退行)くらいですから、「夜泣きを完全になくす」ことだけが目標になってしまうと、お互いしんどいです。

でも、赤ちゃんの睡眠を理解しておくことは、夜泣きしたときに感じるストレスを、少しやわらげてくれる効果があります。

「あ~今日は昼寝が短かったから、夜泣きしちゃう・いつもよりひどいかもな。」

「今日は昼寝も完璧にしたし、入眠儀式もご機嫌にできたけど、結構泣いてるな。もしかして風邪のひきはじめかな?体調わるいかな?」


同じ夜泣きしたときでも、何も知らずにただ「なんで?!なんで?!」と混乱してしまうよりかは、知識をいかして原因や対策を考えられるほうが、安心できました!というお声をよく聞きます。


一方で、睡眠の知識やトレーニングに熱心になりすぎると「こんなに色々勉強してトライしてるのに、なんで寝てくれないの?!」と思ってしまうこともあると思います。

そんなときにも、期待しすぎないことです。これに尽きます。


寝んトレに限らず、思わず「子どもに期待しているな」「”子どものために”と思って行動しちゃってるな」と思ったときに、私はイーロン・マスクの言葉を思い出しています。

“Happiness is reality minus expectations.”
(「幸せは、期待と現実の差である」)


現実を上回る期待をしてしまうと、幸せを感じにくいのは人間の性。
期待しすぎないことで、現実を受け入れやすくなる・幸せを感じられる瞬間が増える、というメッセージにもつながっていると思います。


「夜泣きゼロ!」を目標にするのではなく、「夜泣きしたときに、知識をもとに原因が考えられる。」そして「明日に向けて、できる改善策を考えてトライしてみる。」
そんなことを目標にしたほうが、前向きに乗り切りやすいという方もいると思います。私のnoteの情報も、そんな方たちのために役立てば幸いです。



いかがでしょうか。

寝んトレをする・しない。どんな寝んトレに取り組むのか。
医学的にもどれが良い・悪い、という問題でもないので、親御さんが思い思いに決めて良いと思います。

でも、そもそも、なぜ寝んトレに取り組むのか?どこを目指すのか?
そしてどんな寝んトレをするにも、注意したいこと。

そんなことが伝われば幸いです。


次回は(夜泣きに関わらず)泣き止まないときに、医学的に考えられる原因、またお家でチェックできるポイント・受診の目安などをご紹介したいと思います。

(この記事は、2023年1月31日に改訂しました。)


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