見出し画像

[小児科医ママが解説] SIDS【Vol.5】添い寝はどれくらい、SIDSのリスクを上げるのか?

「母乳」は、SIDSのリスクを下げる。
ただ、夜中も母乳をあげるとなると、添い寝・添い乳であげる人も多い。
でも母乳と逆に、「添い寝」はSIDSのリスクを上げてしまう。

そんなジレンマがあることを、前回の記事で紹介しました。

じゃあそもそも添い寝することが、どれくらいSIDSのリスクになるのか?

これも詳しく知っていただくことで、各家庭のご事情にあわせて、できる対策が見つかるとうれしいです。

SIDS連載すべてにおいて、共通の参考文献はこちら。

●AAP(米国小児科学会)
"SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment"
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

●UptoDate
"Sudden infant death syndrome: risk factors and risk reduction strategies"
https://www.uptodate.com/contents/search

●厚生労働省
「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids.html


※以下において「添い寝」とは、英語での「bed-sharing」つまり「赤ちゃんと大人が(ソファなどもふくめて)同じ寝具を共有していること」という定義で使用します。



添い寝「だけ」が、どこまでSIDSのリスクになっているかは、不明な点が多い。


いきなりズッコケそうな感じですが、添い寝「だけ」がどこまでSIDSのリスクを上げているかは、実は不明な点が多いのです。

たしかに、11の複数の研究を統合的に解析した報告で「添い寝はSIDSのリスクを上げている」という報告があります。
(J Pediatr. 2012;160(1):44–48, e42)

※これはオッズ比2.88という結果です。これは添い寝が2.88倍リスクを上げる、という意味ではありません。
統計学的なややこしい概念なのですが、○倍あげるというところまではどうしても解析が難しい場合に、このオッズ比を使います。
「①添い寝をしている子でSIDSになった割合・②添い寝をしていないのにSIDSになった割合」としたときに、①÷②が2.88になったよ、という研究上の報告数値です。

一方で、たとえば両親の喫煙や飲酒など、ほかのSIDSのリスク因子がなければ、添い寝単独ではSIDSには関係ないんじゃないかという報告もあります。
(PLoS One. 2014;9(9):e107799)

添い寝はSIDSのリスクになる!いや、ならない!と、真逆の結果が報告されているんですね。

しかも、どの研究においても、評価がむずかしくなってしまう理由は「SIDSのそもそもの発生率が高くない」ということです。

日本は特に少なめと言われていますが、SIDSがおこる割合は、赤ちゃん6000人~7000人に1人ともいわれています。
10人に1人いるだろうといわれている喘息の研究とか、そういったものとは全く違う類の研究です。

そのため、どうしても研究対象・比較対象になるお子さんの数が、十分に集められない。そんなむずかしさがあります。

上記を総合して、米国小児科学会も「添い寝自体が、どれくらいSIDSのリスクを上げているのか、明言・断言することはできない」としています。(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

ただし、

添い寝は、大人と同じ寝具を共有することで、
やわらかい寝具に赤ちゃんを寝かせてしまうリスクがある。

大人用の毛布などが赤ちゃんの顔にかぶってしまうリスクがある。

大人用ベッドからの落下などといった危険がある。

添い寝しても絶対に安全よ!というエビデンスはない。

これを考慮して、「添い寝はしないこと」という見解になっているのです。

なので米国小児科学会としては「授乳したりなだめたりするのに、一度子ども用ベッドから出したとしても、また寝かしつける・親が寝るときには、子ども用のベッドにあお向けに戻すこと」としています。

…いやー。ねー。そのまま寝ちゃいますよね。
夜中に頻繁に起こされて授乳してたらね。

でも、添い寝したら、即死亡!ってわけでは、もちろんないわけです。
添い寝しただけで赤ちゃん死んでたら、今ごろ、人類滅亡してます。

そこで、「添い寝がSIDSにつながるリスクを、さらに上げてしまう要因」が、いくつか報告されているので見てみましょう。

添い寝にプラスして、何があると、SIDSにつながってしまうのか。


添い寝プラス ●喫煙 ●生後4ヶ月未満 ●子ども用ベッドじゃないところ で、SIDSリスクが増す。


パッと見ただけでも、「添い寝+喫煙者」がSIDSのリスクを上げるという報告はかなり目立ちます。

片親あるいは両親が、喫煙者である場合は(たとえベッドルームで喫煙していない場合でも)SIDSのリスクをあげることが複数の研究でわかっています。
妊娠中にお母さんが喫煙してしまっていた場合も、リスクになります。(①BMJ. 1999;319(7223):1457–1461 ②BMJ. 1996;313(7051):191–195 ③J Pediatr. 2012;160(1):44–48, e42 ④BMJ. 1993;307(6915):1312–1318 ⑤Arch Dis Child. 2001;85(2):108–115 など)

どれくらいリスクになるかは、やはり評価がむずかしいです。
が、たとえば、お母さんが喫煙していない場合、(添い寝による)SIDSのリスクは1.42倍。それに比べて、お母さんが喫煙している場合は(添い寝による)SIDSのリスクが2.06倍。
と、喫煙によって添い寝のSIDSリスクがさらに上昇するという報告があります。(Ann Med. 1998 Aug;30(4):345-9.)

また「お母さんが喫煙している+赤ちゃんと添い寝」という場合は、(喫煙や添い寝のリスクがいずれもない場合に比べて)SIDSのリスクが4倍近くまで上がるのでは、という報告もあります。(BMJ. 1993 Nov 20;307(6915):1312-8.)


一方で、こうした両親の喫煙の状況にかかわらず「添い寝+生後4ヶ月未満」もSIDSのリスクを上げるという報告も数おおくあります。

SIDSが起こりやすいのは特に生後4ヶ月ころまで、というのは各国共通した見解ですが、ここに添い寝が加わると、さらにSIDSのリスクが上がりそうです。
(①BMJ. 1999;319(7223):1457–1461 ②Lancet. 2004;363(9404):185–191 ③J Pediatr. 2005;147(1):32–37④J Pediatr. 2012;160(1):44–48, e42 ⑤BMJ Open. 2013;3(5):e002299 ⑥Arch Dis Child. 2003;88(12):1058–1064 ⑦Arch Dis Child. 2006;91(4):318–323 ⑧Breastfeed Med. 2008;3(1):38–43 など)


さらに「添い寝+子ども用寝具じゃない場所」もリスク大です。

ウォーターベッド・エアーベッドのように柔らかい場所や、またアームチェア・ソファといった狭い場所。こういったところでの添い寝はさらにリスクを上げるという見解です。
(①Pediatrics. 2003;111(5 pt 2):1207–1214 ②BMJ. 1999;319(7223):1457–1461 ③BMJ. 1996;313(7051):191–195 ④J Pediatr. 2005;147(1):32–37 ⑤PLoS One. 2014;9(9):e107799 ⑥Arch Dis Child. 2003;88(12):1058–1064 など)


この他には、

「添い寝+両親の飲酒」
(①Lancet. 2004;363(9404):185–191 ②BMJ. 2009;339:b3666 ③PLoS One. 2014;9(9):e107799 ④BMJ Open. 2013;3(5):e002299)

「添い寝+枕やブランケットなどがある場所」「添い寝+両親ではない人」(①Pediatrics. 2003;111(5 pt 2):1207–1214 ②Acad Pediatr. 2010;10(6):376–382)

「添い寝+複数の家族が大人用のベッドで一緒に寝ている」
(Pediatrics September 1998, 102 (3) 662-664:)

こういった、添い寝との組み合わせも、よりSIDSのリスクを上げるという報告があります。

一回、まとめておきましょう。

【「添い寝」とのコンビで、SIDSのリスクをさらに高める要因たち】

●(片親あるいは両親の)喫煙 ※ベッドで吸っていなくてもリスク!
●妊娠中のお母さんの喫煙
●両親の飲酒
子ども用寝具じゃない場所(とくに柔らかい・狭い場所)
枕やブランケットなどがある
複数の家族(とくに大人)との添い寝
両親じゃない人との添い寝
(●生後4ヶ月未満→これはどうしようもない)


いかがでしょうか。

添い寝が必ずしも悪い!というわけではないですし、そこまで言い切れるエビデンスもない。
でも、やっぱり添い寝は、避けられるなら、避けたほうがよさそう。

でも、やむを得ず、様々な事情で、添い寝をせざるをえない状況はあると思います。

そんなときは、上に書いた「添い寝と組み合わさると、よりSIDSのリスクが高まっちゃう要因」を少しでも排除してあげることを、心がけてください。

添い寝は推奨されていないと。
じゃあ、親子はどこで寝るのがベストなの?

そんなことについて、次回は書いていきます。

(この記事は、2023年2月7日に改訂しました。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?