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[小児科医ママが解説] おうちで健診:夜泣き対策で、「完全に寝落ちする前」にベッドに置くのが大切なワケ。



「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


前回は睡眠時間・お昼寝の目安やタイミングについて、とりあげました。
今回は

抱っこでしか寝ない。授乳でしか寝ない。
置いたら起きる。背中スイッチ。

こんなお悩みの対策として「完全に寝落ちする前にベッドに置くことが大切であること」を解説していきます。

赤ちゃんといえど一人の人間、そんなに簡単に「一人でコロっと寝る」のはむずかしいケースも多いですが、ご自宅でできる方法をいくつかご紹介していきます。


主な参考文献はこちら。

●小児の睡眠問題に対する行動科学的アプローチ
https://www.kurume-u.ac.jp/uploaded/attachment/2409.pdf
●IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント資格取得講座
https://parentinghealthinstitute.com/



赤ちゃんは「寝つくたびに、同じ状況じゃないと寝られない」。


抱っこや添い乳などで、やっと寝たー!と思ったのもつかの間。

ベッドに置いた瞬間にまた起きて泣き出したり、また、一回うまく置けたと思っても10分後にはまた泣き出したり・・・。


米国睡眠学会ではこうした状態を「行動性不眠(のうちのひとつ)」として定義しており、赤ちゃんによく見られる状態であるとしています。

どうしてこうなるのでしょう?

ひとつは、赤ちゃんの「1回あたりの睡眠のサイクルが短い」ことが原因です。

前回の記事でもお伝えしたとおり、赤ちゃんは1回40分くらいの短い睡眠サイクルを繰り返しています。
つまり1回寝たと思っても、30~40分くらい経つと、また睡眠が浅くなって起きやすい状態になっています。


30~40分ごとに睡眠が浅くなるタイミングがくるのはどうしようもないことです。
が、このときに、自分で寝つける能力が十分でないことが問題です。
睡眠サイクルが1回おわるごとに目が覚めて、夜中に何回も起きたり・泣いたり、といった状況になります。


よく40分~1時間ごとに起きてしまう・・・というご相談もありますが、これは1回の睡眠サイクルが終わるたびに、自分で寝つけず、毎回起きてしまっているという状況です。


もうひとつは、赤ちゃんが「決まった状況でないと、寝つきにくい・寝つけない」ことも原因です。

赤ちゃんは誰しも、自分で寝つく能力はまだ十分ではありません。
抱っこや授乳、添い寝、ぬいぐるみなど、色んなタイプがありますが、これなら寝る、といった決まった状況がある赤ちゃんは多いです。

そこで、1回の睡眠サイクルが終わって眠りが浅くなったときに、「最初に寝ついたときと同じ状況」であれば、赤ちゃんはもう一度自力で眠りにつきやすくなります。

つまり、眠りが浅くなっても・そのたびに同じ状況がちゃんと用意できれば、毎回の睡眠サイクルで起きずに、つづけて睡眠をとりやすくなります。



「最初に寝かしつけるときの行動や状況」が、カギになる。


・・・ということは。

最初に寝かしつけるときの状況を、「その後(赤ちゃんの睡眠が浅くなるときにも)無理なく、再現できる状況」にしておかないといけません。

たとえば最初に寝かしつけるときに、完全に寝落ちするまで抱っこしているとしましょう。

よしよし寝た・・・と思って、でも数十分後、睡眠サイクルが浅くなったときに「あれ?!抱っこじゃない!」と赤ちゃんは混乱して泣いてしまいます。赤ちゃんにとってはムリのないことですよね。

ほかにも親御さんがお子さんを寝かしつけるときに、授乳・声かけ・トントンなど、寝かしつけるときに何気なくしている行動は多いと思います。

それらが悪いわけでは決してないのですが、赤ちゃんからすると、睡眠が浅くなったときに、それらが無いために、寝つきづらくなってしまっている可能性はあります。

「最初に寝かしつけるときの行動や状況」が、その後もいかに再現できるものになっているか。が夜泣きのカギになるわけです。


「~~じゃないと寝られない・寝つけない」の「~~」を無くすのが、一番手っ取り早い(エクスティンクション・メソッド)。


というわけで、「~~じゃないと寝られない・寝つけない」の「~~」を無くすのが、夜泣きを無くすのに一番手っ取り早い。
というのが、米国睡眠医学会のレビューでも結論づけらています(Sleep. 2006 Oct;29(10):1263-76.)。

つまり「抱っこじゃないと寝られない」「授乳じゃないと寝つけない」。
だったら、寝かしつけるときに「抱っこ」や「授乳」はしない、ってズバッと決めちゃいなよyou。

っていう考え方です。

これはいわゆる「extinction method(エクスティンクション・メソッド)」日本だと「泣かせる寝んトレ」とも言われるものです。

そしてextinction methodにも色んなタイプはありますが、その中でもとくに、「朝になるまで、いくら泣こうが、全く子どもには関わらない」方法が最も効果があるのでは?早く夜泣きを改善できるのでは?というのが、上記の学会のレビューです。(”unmodified” extinction method)


・・・これね、もちろんできたら、ラクかもしれませんよ。

抱っこなし。授乳なし。はい、寝てくださーい!でベッドに置いて、その後は泣こうがわめこうが、朝まで放置。
これで実際に、数日で全く夜泣きしなくなりました!という経験談もたくさんあるようです。

が、日本の住宅状況でやるのは、無理ゲーなことがほとんどだと思います。
集合住宅なら、まず無理ですよね。

お子さんが普通に遊んでいるときの声も、お隣に聞こえるような住宅環境で、真夜中にギャン泣きしているのを放置して朝まで、というのはなかなか勇気がいります。
実際にトライしようとしたけど、近所から苦情がきた、児童相談所に通報された、という相談者の方も複数いらっしゃいます。

あとは親子で同じ部屋だったり、近い場所で寝ざるをえない住宅環境や文化の日本では、子どもの泣き声で親もどちみち起きてしまう。また泣き声を聞きながら放置するということに抵抗のある方も多いと思います。

泣いてもちょっと様子を見てください、というアドバイスも多いですが、たとえ1分でも、夜中に泣き声を聞き続けるのは辛い、という方も少なくないと思います。
そういう状況で無理やり、泣かせるトレーニングをしても、うまくいかない・親子ともにストレスがたまるだけ、というケースも多いです。


ちなみに、こうした「泣かせる寝んトレ」が、その後のお子さんの発達や愛着に影響を及ぼすか?というのは、医学的にも賛否両論があり、結論はでていません。

小児科医の中でも「問題ない。それよりも夜泣きがつづくほうが親子ともどもデメリットなんだから、さっさと心を決めてやっちゃいなよ」という意見もあれば、
「やっぱり泣かせるのはお互いストレスになるから、発達にも良いとは思えない。もっと優しい方法で寝んトレしようよ」という意見は未だにわかれています。


というわけで、どういう方法が正解・絶対良い、というのは寝んトレには無いのですが、extinction method・泣かせる寝んトレよりも、もう少し優しい方法も提唱されているので、それらを見てみましょう。



優しめの寝んトレ その1「はなれる時間を徐々に長くする」


リチャード・ファーバー(Richard Ferber:ボストン小児病院・小児睡眠障害センター、医師)「Solve Your Child's Sleep Problems」
などで提唱されている考え方です。

細かい方法は色々ありますが、およそ以下のようになります。

完全に寝落ちする前に、ベビーベッドにお子さまを寝かせる。
②まず3分、お子さんから見えない場所に、親御さんが離れる。
③その後、お子さんの様子を見に行く間隔を、5分→10分→20分、と徐々に伸ばす。
④①~③を睡眠のたびに繰り返す。②の段階で5分にするなど、徐々に延長していく。


つまり「お子さんが完全に寝落ちするまで、親がずっといる」という状況は無くすものの、ちょこちょこ親御さんのお顔を見られる状況をつくってあげたり・その時間間隔を徐々に伸ばしてあげたり・・・という点が、ちょっと優しめなトレーニングです。

一時的に様子を見に行ったときにどういう行動をとるのか、というのも、いろいろなやり方が提案されていますが、「完全に寝落ちするまで抱っこや授乳」といったことは避けたほうがいいでしょう。

あくまで「完全に寝つくときには、親御さんが近くにいない」(そんな状況でも、赤ちゃんが自力で寝つこうとトライする)というトレーニングです。


優しめの寝んトレ その2:Pick Up / Put Down(PUPD:抱っこして置いて、の繰り返し)


トレイシーホッグ(Tracy Hogg:イギリス・看護師)などが提案する方法です。

(こちらは日本語でも書籍があります:「赤ちゃんとママが安眠できる魔法の育児書 (カリスマ・シッターがあなたに贈る本)」

①完全に寝落ちする前に、ベビーベッドにお子さまを寝かせる。

②手をお子さまの背中にあてて「寝る時間だよ~」と伝える。

泣いたら赤ちゃんを抱き上げ(Pick Up)、泣きやんだ瞬間に赤ちゃんをベッドに置く(Put Down)。

④①~③を繰り返して、赤ちゃんが完全に寝るまで、親が見える場所にいる。完全に寝たら離れる。


前述その1の方法よりも、より優しさあふれる感じのトレーニングです。

ただしこれもやはり大事なのは①「完全に寝落ちする前に」ベッドに置くことです。
完全に寝落ちする前には、赤ちゃんがすでにベッドにいないと、また眠りが浅くなって起きたときに、赤ちゃんが混乱してしまうんでしたよね。

ちなみに②で背中に手をあてるときも「手をトントンしたり、背中をゆらしたりする」のは推奨されていません。
優しさにあふれながらも、極力、赤ちゃんが自力で寝るために、親御さんの介入を最小限にするためです。

ただし、この方法をちょっとためらってしまうのは③「抱っこ pick up」にあるかと思います。
単純にお子さまの体重が重くなってくるとキツい方法になりますし、夜中起きるたびに抱き上げることが苦痛なら、あまりオススメはできない方法です。

また優しい方法というのもあいまって、この方法で夜泣きが改善するには2週間くらいかかるのが通常です。



優しめの寝んトレ その3:Sleep Lady Shuffle(だんだん距離をはなしていく)


キム・ウェスト(Kim West:アメリカ・臨床社会福祉士)などが提案する方法です。

その1とその2の、合体バージョンみたいなトレーニングです。

ちょっとネーミングが独特ですが、Shuffle position(親御さんが座る場所)を設け、徐々にそれをお子さまから遠ざけていく、という意味です。

●親御さんが座る場所(3段階)
A:ベビーベッドのすぐ横。
B:部屋の中、ドアのすぐ前。
C:部屋の外、ドアのすぐ外。

●方法
①完全に寝落ちする前に、ベビーベッドにお子さまを寝かせる。
②Shuffle position Aに座る。トントン・声かけをしながら寝かせる。
③赤ちゃんが完全に寝るまで、親が見える場所にいる。完全に寝たら離れる。
④途中でおきたら、また②からやりなおす。
⑤①~③のstepを毎日繰り返す。3日おきに、②のpositionをA→B→Cと移行していく。


住宅環境によって、厳密に親御さんが座る場所をA・B・Cとする必要は無いと思いますが、赤ちゃんに親御さんの存在を示してあげつつ、その距離を少しずつ伸ばして慣れさせてあげる、というのが優しさポイントです。



上記のほかにも、とにかく泣かせないことをモットーにしている睡眠の専門家たちは、やさしーい方法を提案しています。

例えば、ウィリアム・シアーズ(William Sears:小児科医)「The Baby Sleep Book: The Complete Guide to a Good Night's Rest for the Whole Family」の書籍は、日本語版もあります(完全版シアーズ博士夫妻のベビーブック)。

アメリカというと添い寝しない・別室で一人寝、というイメージもありますが、ウィリアム・シアーズは「とにかく泣かせない」ことを大切にしているので、場合によっては添い寝も推奨しています。
添い寝と乳幼児突然死症候群SIDSの関連については、過去の記事を参照ください。)


またウィリアム・シアーズと同じスタンスをとっている、エリザベス・パントリー(Elizabeth Pantley)「The No-Cry Sleep Solution: Gentle Ways to Help Your Baby Sleep Through the Night,」の書籍も日本語であります(赤ちゃんが朝までぐっすり眠る方法)。



完全に寝落ちする前に、ベッドに置く。


というわけで、いろいろな方法があるな~というのを見てきましたが、どんな方法にも共通しているのは「完全に寝落ちする前に、ベッドに置く」ことです。

赤ちゃんがまた睡眠が浅くなったときに、ベッドに置かれていても、「最初に寝ついたときと同じだな」と思えれば、混乱して泣いたり・起きたりする可能性は低くなるんでしたね。

ただ寝落ち前にベッドに置いてから実際に寝るまでに、親御さんがどういう態度や方法で赤ちゃんと接するか、というところに、色んな寝んトレのバリエーションがあるわけです。


いかがでしょうか。

「赤ちゃんが発達・成長すると、夜泣きする(睡眠退行)」という考えもあるとおり、赤ちゃんが夜泣きすること・うまく寝られないことは、発達や成長の証でもあるのです。

が、赤ちゃんは短い睡眠サイクルを繰り返している以上、少しでも自力で寝つける能力をサポートしてあげることは、親子ともども大事なポイントではあります。


色んな寝んトレはありますが、共通しているのは「完全に寝落ちする前に、ベッドに置く」こと
つまりベッドに置かれた状態で赤ちゃんが眠りが浅くなっても、混乱しないような寝かしつけが大事であることが伝われば幸いです。


次回も「どんな寝んトレにも共通する、成功させるためのポイント」を取り上げていきます。

(この記事は、2023年1月31日に改訂しました。)

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