【恋愛小説】利用しませんか 1話「再会」
あらすじ
白崎桃乃は、高校時代にずっと想いを寄せていた2つ年上の先輩、伊瀬見涼と14年ぶりに再会した。
高校時代、涼には咲希という美人な恋人がいた。そのため、桃乃は涼のことはすぐに諦めていた。
しかし、涼が咲希とは別れたということを彼の口から聞くこととなる。
どこか寂しそうに笑う涼に、桃乃はいても立ってもいられなくなり、涼に自分を抱いてくれという提案をする。
元恋人のことが忘れられない涼。
涼のそばにいたくて、「好き」という気持ちに蓋をする桃乃。
共に過ごしているうちに2人の関係は徐々に変化していく。
しかし、その仲を引き裂くかのように次から次へと色々な問題が2人を襲う。
過去から今へ紡がれる恋の物語。
プロローグ
「利用しませんか」
涼先輩にそう言ったのは私からだった――――。
例えそれが自分を苦しめることになったとしても、そう言わずにはいられなかった。
1話 再会
昼間の暑さを吸収したアスファルトが、夜22時をすぎた街を未だにうだるような暑さで包んでいる。
7月の半ばに差し掛かった夏の夜は、太陽が沈みきっても暑いままだ。
調理師としての仕事を終えたあと、どうしてもビールが飲みたくなり、前から気になっていた居酒屋に立ち寄った。
その居酒屋で14年ぶりに涼先輩に再会した。
遠目からでもすぐに涼先輩だと分かった。
さらりとしたブラウンの髪も、切れ長な眼も、スッと伸びた鼻筋も、全部あの頃と同じだったから。
野球のユニフォームはスーツになっているし、肌も真っ黒じゃなくなってるけど、変わってない。
間違いない。絶対に涼先輩だ。
彼を見た瞬間、私の心臓は早鐘を打ちはじめる。
多くの酔っ払いが騒ぎ立てる居酒屋だというのに、ドラマのワンシーンに入り込んだかのように周りの音が消え、色をなくし、彼だけが鮮明に私の目に入ってきた。
伊瀬見涼先輩は、私の2つ上の先輩で、高校時代、ずっと、ずっと好きだった人。
強豪校の野球部のレギュラー(しかも主将)でイケメン。
誰に対しても強気で勝ち気な性格で、はっきりと物事を言う人だった。
入学式の日、そんな彼に、私は一目惚れしてしまった。
そして私は、野球部のマネージャーになれば、涼先輩と多くの時間が過ごせる!という安直な理由で野球部のマネージャーになった。
それから、10年以上の時が流れている。
涼先輩のことを忘れることはなかったけれど、涼先輩への想いはすでに過去に置いてきたはずだった。
卒業して以来会っていないし、連絡先すら知らないので、連絡なんてとっていない。
なのに、彼を、涼先輩を、見つけた瞬間に、置いてきたと思っていたはずの想いがあふれ出してしまった。
だから、居酒屋で彼を見つけた瞬間、声をかけられずにはいられなかった。
「あの、涼先輩。こんばんは」
私は、カウンター席で1人で飲んでいる涼先輩に近づき、恐る恐る声をかけた。
「お、お、お久しぶりです。白崎です」
「……白崎?」
涼先輩は、生ビールが入った飲みかけのジョッキを片手で持ったまま、鋭い目で私を見た。
「どちらさま?」
涼先輩の薄い唇から発せられた言葉に、私は後ろから思いっきり頭を殴られたような感覚に陥った。
そうか、そうだよね。
私にとっては涼先輩は一目惚れした相手だけど、涼先輩からしたら、数いるマネージャーのうちの1人だもん。
部活動のときだけしか時間を共有していないのに、覚えてくれているわけないじゃん。
ぶわわっと顔に熱が集中していくのが分かる。
あぁ、穴があったら入りたい。
恥ずかしさが目からこぼれ落ちそうなのを隠したくて、私はそっと涼先輩から地面へと視線を移した。
涼先輩も少しは私のことを覚えてくれているかも、と期待してしまった自分が恥ずかしくなる。
この気まずい空気をどうしよう、と必死に考えていると、涼先輩の「ククッ……」という笑い声が聞こえた。
おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
できる限り毎日更新できたらと思います。
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