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高永 しゅん
2021年5月2日 20:10
じいちゃんの家にある離れの部屋は、僕にとって秘密基地みたいな場所だ。行くまでの道のりもワクワクして、そこが自分の居場所のように心地よく、無敵になれるような感覚がした。たとえば家や学校で嫌なことがあった日も、彼女とうまく行かなくて悩んだ日も、仕事で失敗して落ち込んだ日も、ここに来ればリセットされた。じいちゃんやそのまたじいちゃんが集めた本を読んでいるうちに、悩みや不安の答えになるようなこ
2021年4月24日 23:10
離れの部屋には、今はもう、僕とじいちゃんしか足を運ぶ人はいない。出入りする人が少ないからだろうか、廊下を奥に進めば進むほど、別の世界へ入っていくような不思議な感覚がする。風の音と、鳥の鳴き声だけが耳に心地よくて、外の世界より楽に呼吸ができるのだ。「入るよー」離れの部屋の引き戸を開けると、窓辺の椅子に腰掛けていたじいちゃんと目が合った。「やぁ、純くん。いらっしゃい」読んでいた
2021年4月23日 22:37
廊下を渡った角の台所に入って、冷蔵庫からオロナミンCを取り出した。特別好きだと言ったこともないけれど、子供の頃からずっと、じいちゃんの家の冷蔵庫には僕のためにオロナミンCが常備されているのだ。栓を開けて、ゴミ箱の横にぶら下がったコンビニ袋にそれを投げ入れ、暖簾をくぐり廊下の先を進んでいく。中庭に射す陽の光は、いかにも古めかしい造作で植えられた草木を照らしている。まるで、この家の中だ
2021年4月22日 23:34
「じいちゃーん、入るよー」カラカラと玄関の戸を開けて、大きめの声で挨拶する。木造の古い家に住んでいるのは、今はもう、じいちゃんだけなので、少し声を張れば家中どこにいても声が届く。靴を脱いで玄関に上がると、清けさの中に床のきしむ音が鳴った。どこもかしこも古くなってガタがきているから、住みにくさを挙げればキリがないんだけど、僕はこの家を気に入っている。静けさが心地よくて、風通しが良
2021年4月19日 23:34
たましいのみなと。それは、すべてがはじまる場所。命の煌めきも、感情の揺らめきも。この港から旅立っていく。_______________________________________________春の空のように凪ぎ、澄みわたる場所。たましいのみなとには今日も、数え切れないほどのボートが浮かびます。ぷかぷか、ゆらゆら。ぷかぷか、ゆらゆら。風も、波も、ここにはあり