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パンクロッカーに憧れた少女の日記(仮)55


中三・冬休み
毎年恒例、1月2日か3日は家族全員でおじさんの家へ行く。いつもお父さんは駅前にある和菓子屋(小学校の頃、この店の子にいじめられた)で、港の丘って菓子を買ってから地下鉄に乗っておじさんのところへ行く。毎回同じのを買う。同じ市内なのにこんなの買ってもしょうがないと思うけど、どうでもいいのでいちいち口には出したことはない。それより、家族4人そろって出かけるのは本当に嫌だ。家族の誰と一緒でも出かけるのは嫌なんだけどね。みんなで出かけるなんて正月におじさんの家に行くときくらいだけど、例の人がおじさんの家で下品な振る舞いをしたり、下らないお喋りをペラペラとするのを見るとひやひやどころか動悸がしてくるから嫌でたまらない。恥ずかしいのもそうだけど、家に戻ったときお父さんが、例の人にさっきの態度は何だ、俺、恥かいちまったじゃねぇか、兄貴も兄貴の嫁さんも苦笑いしてたぞって言い始めてケンカになるのも毎年のこと。おばさんに会えるのは嬉しいけど、嬉しくないような複雑な気分だ。いくらおばさんが優しくても、私はおばさんの子じゃないからな。お年玉をもらえるからおじさんちに行くんだって考える方が気分がずっと楽だ。おじさんたちからもらえるお年玉は例の人が変な振る舞いをするのを見る、我慢の分の料金と思うしかない。でも、出来るだけ例の人が変なことを言いませんように。着て行く服のことでお父さんとケンカになりませんように。例の人、お使いに行くときや学校に行くときは穴のあいた汚いおんぼろの服着てるけど、おじさんとこ行くときだけは少しマシな格好をしてるんだけどね。こんなんでよく寒いと感じないなって思うような超薄いセーター着てたり、いつも絶対にはかないけどいやいやでも靴下はいてるし、健康サンダルじゃなくて一応靴をはいてる。そんで行く途中や帰る途中で足が痛いだの、背中がかゆいだのずっとぼやいてる。例の人は超暑がりだから、普段は冬でも春とか秋の格好をしてる。よれよれの首元が大きく開いたTシャツ(もちろん穴あいてる)とか。下着もボロボロ。穴あいたり、裂けたブラを外に堂々と干してるから分かる。私や里香の下着も堂々と干してて、何回か盗まれたか、なくなってたことがあるから、外に干さないでって頼んだことあるけど無駄だった。面倒くさい、これ以上お母さんの仕事を増やさないでくれや、お母さんはお前の女中じゃないっていういつものセリフを言われた。私が自分で洗うし干すと言っても同じ答えが返ってきた。例の人は相変わらずブラを買ってくれない。もう頼みもしないんだけどね。だから実はこっそりこづかいで下着を買うこともある。めったにつけないけど、カナちゃんちに遊びに行くときと身体検査の時だけはつけてる。クラスでブラ付けてない子なんて多分いないと思う。ジロジロ見るわけいかないから分かんないけどさ。どうせならって、例の人に見られたら何を言われるか分からないような下着を買ってる。黒いレースのとか、白くてツルツルしたやつとか。コソコソ下着買う中学生なんて他にいるのかね。普段は洋服ダンスの中の服の間につっ込んでるけど、例の人のことだからいつ見つけるかは時間の問題だ。例の人は仕事も家事もせず、おつかい行ったときに近所の人とおしゃべりして、お菓子食べながらごろ寝してテレビ見るだけの暇人だから、時間だけはたっぷりあるからな。例の人は趣味なんかないし。例の人は少しでも何かあると死にたいだの一緒に死んじゃおうかだの言って、もはや言われても「またかよ」って思うだけだけど(でもやっぱ包丁を持ち出される時は本当に怖い。あれは決して慣れるようなもんじゃない)、趣味もなくて、友達もいなくて、家とおつかいの往復してるだけの人生って楽しいのかね?楽しくないから死にたいとか言ってるのか?まさかね。私は最近、全然手をカッターで切らなくなった。けどもうすぐ受験だからマジメになろうとか、大橋に見つかったら今度こそ大変って思ったからって理由でやめたんじゃない。何でか自分でも全然分からない。何であんなことしてたんだろ。血なんて苦手なのに。ドラマで手術のシーンが出て来るだけで気持ち悪くて見れないのに、どうかしてたんだろうか、あの時は。やってるときは血がいっぱい出ると嬉しかった。あんまり出ないとがっかりして、血が出るように傷口が開くよう袖でこすったりもしたのに。もう何故か出来ない。あとだけはうっすら残ってる。そんなに深くないと思うから、多分残らないんじゃないかと思うけど。切ったキズあとをじっと見てるとクラクラして倒れそうになる。本当に何であのときそんなことしてたんだろうな。けど相変わらず死にたいって思うことがあるのは変わらない。だって、色んなことありすぎだもん。頭の中で、頑張らなきゃいけないって気持ちと、もうどうでもいいって気持ちがぐちゃぐちゃにまじってる。順番に切り替わってそうなるんじゃなくて、同時にそういう気持ちがあって、ムラになってるっていうか。

中三・冬休み
おじさんの家に行った。いつもと同じく、掘りごたつ入って箱根駅伝見ながらおばさんの作ったおせちやごちそうを食べた。帰りにみんなで近くのちょっと大きなお寺に行って、おばさんが私が高校に合格しますようにって拝んでくれた。おみくじを引こうと財布出そうとしたら、おばさんが千円札をさっと渡してくれた。お金をもらったことが嬉しいんじゃなくて、自然に、普通の親ならきっとこうするんだろうなってことを私にしてくれたことが嬉しくて、泣きそうになった。おばさんに、実はお母さんにいじめられてて、お父さんには里香と差別されてるって話したらなんて言うだろうか。絶対に、死んでも言わないけどね。おばさんはどうしていいか分かんないだろうし、いい人に迷惑かけるのも、おばさんの悲しそうな顔も見たくないから。おばさんに心配かけて、それを見て自分が傷つくのが嫌だ。相手をかわいそうと思うんじゃなくて自分がつらくなりたくないだけ。だから私は嫌な奴だ。何で私の周りというか、お父さんの周りにはすごいいい人がいっぱいいるのに、うちにはおかしい人しかいないのだろうか。お父さんは、永田さんやおじさんみたいにちゃんとまともな家庭を作れてるとでも思ってるのだろうか。この家をおかしいと思ってない時点で、おかしいよ。あの人は子供は勝手に育つと思ってるというより、ちゃんと育ててるつもりなんだと思うけどさ。お父さんはまず例の人と結婚したのが大間違い。それ以前に例の人とエロいことして、私が出来たのが間違い。あいつらが今もエロいことしてるって事実だけで気持ち悪くて吐きそうになる。この、自分は気持ち悪い生き物だって感覚は消える気がしない。あいつらの血が流れてると思うと最高に気持ちが悪い。けどもう手を切るのは出来ない。何故か出来なくなってる。何で?何で?自分のことなのに分からないこと多すぎだよ。一度こういうことを考え出すと、勉強も本読むのも全然できなくなってしまう。ただ、ボーっと本の一点、文字のどこかを見つめてるだけしか出来なくなる。信じてもらえないだろうけど、体が本当に動かない。高校なんか落ちて、例の人がいつも言ってる、妊娠したっていうあの人の昔の仲間みたいに、いっそどっか行っちゃえればいいとさえ思う。それで幸せなら別にいいんじゃないか?高校行かなくても外国に行かれなくても。けど、例の人と、その仲間って人とどう違うのかとも思う。例の人だって妊娠してお父さんと結婚したけど、幸せには見えないしな。ああ、正月早々、死にたいなって思ってる中学生なんかいるのかね。おみくじは中吉だったけど、目標に向かって進む努力を怠るなみたいなことが書いてあって、エロ村かよって思った。あいつが書いたんじゃないのかと思って笑えたけど笑えねぇ。エロ村が書いたんなら全然ご利益なさそうだ。困ったなぁ~。おじさんからもらったお年玉、どうしよう。去年みたいに例の人に嘘の話を語られたあげくにぶんどられるのはもうこりごりだ。早く使い道決めて、使っちゃわないと。