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パンクロッカーに憧れた少女の日記(仮)31


中二・三学期
エロ村が最後の学級通信(豪華3枚同時発行!)にクラスのみんな一人一人に向けたメッセージを載せてて、やっぱりこいつは私のこと何にも分かってねーなって思った。人のこと表面でしか見てないって。でもまあ教師というヤツにそんな期待するのもどうかとは思うけどさ、球技大会の日にケツをわしづかみにされたことと、ネクタイつかまれたこと、無理やり2年続けて応援団をやらされたことはずっと忘れないと思う。あと死んでも忘れないのは体育祭の予行のとき金を盗んだと疑いやがったことな。「彼女ほど、自分を主張できる強さを持ってる人はいないかも知れない南さん。」って学級通信には書いてあるけど、私がエロ村や他の教師に反抗してるように見えたからかね。嫌なことをされて嫌だという態度をするのは主張が強いって言うのかね~。分からん。エロ村はみんなへ贈り物といって、これまた全員に手書きのしおりを配った。一人一人名前を呼んで、卒業証書渡す時みたいに仰々しく教卓の前で。私のやつは「己に謙虚であれ、視野を広く持て」って下手くそな毛筆で書いてある。もううんざり。エロ村の口から何度、視野を広くしろって言われただろう。数えきれない。まぁ、3年からはいなくなるし、どうでもいい存在だ。あ~~でももしエロ村よりもっと最悪な相沢が担任になったら今度こそガケから飛び降りることを考えるかも知れない。噂によると相沢の親は教育委員会のエライ人らしい。だからあんなヤーさんみたいな態度や口調で生徒を威嚇しても問題にならないんだなって思った。相沢もエロ村と一緒にどっか行ってほしい。相沢はエロ村のこと先輩っていってしたってるし、二人で仲良く気合だの根性だのやっててくれよ。

中二・三学期
エロ村の野郎め!最後の最後の連絡票に「進級おめでとう。自分の目標に向かって努力していくには、いくつも乗り越えなければならない壁があります。高い目標、広い視野を持ち、みんなで取り組んでいけるよう頑張ってください」って書きやがった。あの野郎、広い視野って言葉、本当に大好きなんだな(笑)。けどもはや笑いも出ねぇや。乗り越えなきゃいけない壁、確かにいっぱいあるぞ。勉強してるとからんできて例の人が包丁持って暴れること、死のうって持ちかけられること、お父さんの給料や私のこづかいをカツアゲするだけじゃ足りなくてサラ金に手を出したり近所の人に借りまくって、それに気づく度に私が生きる気力をなくすこと、あとは何だ、書ききれない。高い目標ね、、、私が6畳一間の狭い部屋で家族4人で住んでてボンビーなこと、例の人がキチガイだってこと、家庭訪問に来たことあるんだから知ってるはずだろ?クラスにいる、普通の中学生の低い目標が私の高い目標なんだよ。普通の親がいて、普通に勉強が出来て、おこづかいも取られなくて、包丁持って暴れる親がいない家が私の望みだ。そういう生活からおさらばするのが私の目標だ。あいつには分かるわけないだろうな。そういう生活からおさらばするために英語や国語の勉強だけは例の人に邪魔されたり、お父さんに嫌味言われても必死こいて頑張ってること知らねぇだろ?本当にむかつく。高い目標だと?高すぎる目標持ってるよ。富士山より高いよ。なんてったって外交官になるって目標だよ。外国に行かれる仕事をすればこの家とおさらばできるって思ってるから頑張ってるのに、親が邪魔するんだよ。この目標っていうか夢は、誰にも話してないけどね。カナちゃんにも。カナちゃんに話せば「何それ、そんなマジメになってどうすんの」って言われると思う。話が出来る友達が欲しい。私の夢をバカにしたりしないで、家で起きてることも信じてくれるような。けどそれこそ夢で、高い目標か。そんな人いるわけない。

中二・春休み
エロ村のお別れ会に行った。何着て行っていいか分かんなくて、野活の時にもはいて行った黒いジーパンとカナちゃんがこの間くれた、縦じまのジャケットを着て行った。出かけるとき、例の人はちょっと派手なんじゃないのって言ってきたけど「今日は劇とか出し物もやるから」と適当なことを言って出た。飲み物は各自持参って言われてたから、例の人が持って行きなさいと渡してきた生協の缶ジュース5本を持って行った。町内会館は初めて行ったけど暗かったしちょっと迷ってしまって家から20分以上かかってしまった。着いた時には半分くらいの子たちがもう来てて、玲奈ももういた。玲奈は「みなみんどーしたの~?そんなかわいい服着ちゃってさ~」ってニコニコしながら言ってきた。みなみんってあだ名で久しぶりに呼ばれたけど、なんかすごく自然な感じで、ちょっと不思議なような、切ないような嬉しいような懐かしいような気持ちになった。お別れ会には3年から転校する男子1人以外全員来た。結構広い部屋だった。エロ村が長いテーブルの真ん中あたりに座って、みんなテーブルに置いてあるお菓子やピザを食べながら適当にかたまってそれぞれ話なんかした。私は玲奈と例の4人と自然に近くに座り、普通にしゃべってた。まるで野活の時みたいに楽しく。本当に不思議な気持ちだった。2学期の初めに理由もよく分からず嫌われてから、少なからずこの5人には嫌な気持ちを持ってたけど、もうどうでもよくなってた。でもかといってすごく仲良しに戻ったわけじゃないというか、、、なんていうの、そーいうの。でも悪くない気がした。いつの間にかアニキ(例の、応援団一緒だった熱血男)と、パウロって奴(2年間同じクラスだったけど、何であいつのあだ名がパウロなのかいまだに分からん)とヒロキが演奏を始めた。三人全員ギター。どーせ親にねだればギターなんて余裕で買ってもらえる奴等じゃねーか、うらやましいって思ってしまった。私なんかラケットも買ってもらえなかったのにって。すっげぇ下手くそなのにリンドバーグや爆風、ブルーハーツの曲を得意気にやってて奴らがねたましいってマジで思った。ギターはともかく奴らの親は普通の親なんだろうなって。でも「ちょっと休憩」って言って、パウロが私の持ってきたサイダーをテーブルから取って飲んでるの見たときはなんか妙にほっとした気分になった。私が持ってきたやつだとか、誰が持ってきたかなんて全然知らない、気にしてないって感じで自然に。いつの間にかみんなも誰が持ってきたんだか分からないお菓子やジュースを勝手に食べて飲んで盛り上がってた。それを見てたら何故かそこにいるみんなを許せるような気がした。あのエロ村でさえ。何なんだ今日は。What's going on tonight? I can't see myself. ってなぜか英語で頭の中で繰り返し再生されてると玲奈が「ねぇねぇ、みなみん~、パウロ達のギター、あれで合ってんの?」って聞いてきた。玲奈はきっと私がギターを弾ける、当然持ってるって思ってるんだろうなって思った。私は返事に困ったけど「チューニングちょい狂ってるけど、まあいいんじゃない」って言った。玲奈たちは「さすがみなみん」って感心してて、何かだましてる気分になってちょいつらかった。そうしてるうちに会は終わりに近づき、みんな席に着いて、まずエロ村が口を開いた。「今日は僕のために集まってくれて有難う。まずそのことに感謝します。この1年間、中には2年間って人もいて......」2年間ってとこでちらっと私の方を見たような気がした。「まずこれからのことを話すと、4月から僕は緑区のS中学校というところに行きます。今よりもっと僕の家に近くにある学校で...」皆はシーンとなってエロ村の言葉を一言一句逃さないように耳をすまして聞いてるようだった。私もちゃんと聞いてたと思う。「みんな、今度の担任の先生のことが気になるだろうけど、それはちょっと僕は分からない。けど僕の他には木村先生、山中先生と原田先生と、保健の岩本先生とあと数人が転任することになってて、、」と続けた。え~~ガンボンいなくなるのか、、、すげぇ悲しい。なのに私の嫌いな奴はみんな居座るのかよって超がっかりした。「男子の体育は山城先生って人が来て、女子の体育は星野先生っていう女の先生が来ることになってます」ってエロ村が言ったとき、ほっとした女子は私の他にいただろうか?相沢が担当にならないなんて最高に嬉しい。あ、けど担任になる可能性はあるのか、、、嫌だなぁと思いながら聞いてた。相沢がもし転任するなら転任するってエロ村は言ったと思うし。エロ村の話が終わった後は一人一人、一言を順番に言うことになった。私は真ん中らへんだった。みんなは野活の思い出や、エロ村への感謝の言葉とかを言ってた。アニキはやっぱりダラダラ長話して、気合だのなんだの言ってた。途中何人かがすすり泣く声が聞こえてきて、私は自分の番になるまで何を言おうかずっと考えてたけど何も浮かばなくて焦った。とうとう私の番になって私は短く「ありがとうございました。それしか言えません」とだけ言った。本心なわけないけど。いつも生意気な私がよほど神妙な面持ちに見えたのか、玲奈たちが「なんかみなみんらしくてかっこいい~」って言ってるのが聞こえた。エロ村は私の斜め前に座ってたけど「こいつも分かってくれたんだな」っていうような満足げな顔してた。全員の番が終わった後ちょうど、もうすぐ時間ですよって町内会の人が言いに来て、最後は花道を作ってエロ村を送った。時計見たらもう9時半を過ぎてた。エロ村は「気を付けて帰るんだぞ~」って言ってみんなが帰っていくのを手を振りながら見届けてから駅の方へ消えてった。私は玲奈たちと何人かの男子とサンチェーン寄って、寒い~~って言いながらからあげくんと肉まん食いながら帰った。こういうの、1学期、仲良かった時にしたかったなって思いながら。