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The Lost Universe 巨大竜脚類恐竜①史上最大の陸上生物

一般的に、「恐竜とは巨大な生き物」というイメージが強いと思います。その印象を軽く越えてくる地球史上最大の陸上生物が、竜脚類りゅうきゃくるいに属する恐竜たちです。
体重が50 tにも70 tにも達する信じられないほど巨大な生き物たちが、太古の地球には実在していたのです。あらゆる動物たちを凌駕する恐竜の圧倒的なスケール、深く考察しながら感じていきましょう。


竜脚類とは、どのような恐竜なのか?

竜脚類をざっくりと言い表せば、首と尻尾が長い巨大恐竜ーー別名カミナリ竜とも呼ばれる植物食恐竜の一群です。有名なブラキオサウルスやアパトサウルスも竜脚類の仲間であり、名前を聞けば彼らの姿が自然とイメージできるのではないでしょうか。
竜脚類は多くの学術施設で骨格標本が展示されており、その巨大さから博物館の目玉となることが多いです。全長20 mどころか30 mを突破する彼らの体躯は、まさに恐竜のビッグスケールを体現しています。

JR福井駅前に佇むフクイティタン。この大きさでも、竜脚類としては小型の部類です
展示ホールで圧倒的な存在感を放つディプロドクス(神奈川県立生命の星・地球博物館にて撮影)。他のどんな大型古生物も、大きさで竜脚類と並び立つことはできません。

地球史上最大の陸上動物

前述の通り、竜脚類はかなり大きな種類が多く、特大種では全長30 mを超える(40 mクラスも存在するかも?)と推定されています。地球の全時代を見通しても、彼らに匹敵する陸上生物は存在しません。
水中環境も含めるならば、クジラが竜脚類に比肩します。浮力の補助があるためクジラの「重さ」は圧倒的ですが、「長さ」では恐竜に軍配が上がります。また、水中に浮いてるクジラたちとは異なり、竜脚類の恐竜たちは自らの足で重い体を支えているのです。一方、クジラたちは陸に乗り上げると、自重を支えきれず動くことができません。

竜脚類恐竜ヌロサウルスの力強い四肢(ミュージアムパーク茨城県立自然博物館にて撮影)。クジラと違って、恐竜たちは自分の力で超重量を支えているのです。

竜脚類の特徴を述べるうえで欠かせないのが、その長大な首と尾です。非常に長い首は広範囲の樹木の葉を効率良く食べるために有効であり、首とバランスを取るようにして尾部も長く発達したと思われます。脊椎を支柱として吊橋のごとく、雄大な首と尾を保持していましたが、首を高々ともたげることはほとんどなかったと考えられています。
なお、尾は彼らにとってバランサーであると同時に、強力な武器でもあったと思われます。圧倒的なパワーで勢いよく尾を振って、天敵を撃退していたことでしょう。

長大な首を備えるマメンチサウルス(岩手県立博物館にて撮影)。広範囲の植物を摂食するうえで、この首はとても役に立ちました。
中型の竜脚類カマラサウルスの尻尾(巨大恐竜展2024にて撮影)。長い尾は武器として使用された可能性があり、肉食恐竜を力強く薙ぎ払ったことでしょう。

体重30~70 t(それ以上の巨大種もいた?)クラスの超大型動物ですので、成体の竜脚類には天敵がほとんどいなかったと考えられます。成獣のゾウにはライオンやトラでは歯が立たないように、どんな大型肉食恐竜でもブラキオサウルスやアパトサウルスに挑むことはかなり難しかったでしょう。
ただし、例外もありました。年老いた個体や負傷個体は、ときに天敵からの狩りの対象になったと思われます。いくら桁外れの巨体を誇っていても、ケガや老衰で弱ってしまっては、動きの遅い格好の獲物として肉食恐竜に狙われたはずです。

ディプロドクスに襲いかかるアロサウルス(天草市立御所浦恐竜の島博物館にて撮影)。成体のディプロドクスならどんな肉食動物も敵ではなかったと思われますが、老齢個体や負傷個体は大型肉食恐竜の牙にかかることもあったかもしれません。

最大最強の陸上動物とはいえ、自然界の理には抗えません。過酷な生存競争の中、彼らはどほように暮らしていたのでしょうか。

大地を揺るがす超巨大恐竜の群れ

数々の化石証拠から、多くの竜脚類は群れを成して行動していたと考えられています。大小様々な個体の足跡化石が発見されていたり、幅広い成長段階の骨格が同じ場所から出土していたり、群れ行動を示唆する根拠は十分にあります。竜脚類の恐竜は成熟すれば最強の陸上生物ですが、幼体の頃は小型肉食恐竜にさえ狙われる立場でした。ゆえに、小山のごとく雄大な成体たちの集団の中に入ることは、身の安全を確保するうえで重要だったと考えられます。
体重30 tを余裕で超える巨大恐竜たちが群れを成し、悠然と大地を闊歩するーーその光景は、壮観の極みだったに違いありません。

ブラキオサウルス類の幼体(福井県立恐竜博物館にて撮影)。竜脚類には群れで行動していた証拠のある種類も存在しており、小さな幼体から超巨大な成体が集まって行動していたと思われます。

これほど大きな動物ですので、竜脚類は毎日大量の植物を摂食していたはずです。シダや裸子植物の葉が主な食糧であり、細長い歯で葉を噛みちぎって、丸飲みにして食べていたと考えられます。
なお、これは竜脚類以外の植物食恐竜にも当てはまる生態的行動ですが、彼らは石を飲み込み、胃の中で葉などを磨り潰していたと思われます。その習性を示唆する証拠化石「胃石いせき」が、多くの恐竜のお腹の付近から発見されています。

パタゴティタンの頭骨(巨大恐竜展2024にて撮影)。強力な顎の筋肉を備えており、くさび形の歯で植物の葉を噛みちぎって食べていました。
植物食恐竜のお腹に入っていた胃石(愛媛県立総合科学博物館にて撮影)。竜脚類だけでなく多くの恐竜たちは石を飲み込み、お腹の中で植物を磨り潰していたと思われます。

竜脚類は破格の大型植物食動物として大成功し、永きにわたって栄華を極め続けます。他の植物食恐竜との生存競争に押され、勢力が衰えた時期もあったものの淘汰されることはなく、グループそのものは恐竜時代の最後まで生き抜きました
博物館で竜脚類の威容を拝む度に、筆者は強く思います。「竜脚類は巨大さは無敵の証。彼らに勝るものは、決して存在しない!」と。

竜脚類の誕生と進化

地球史上、最大最強の陸上動物。とてつもなく巨大な恐竜たちは、どのようにして生まれたのでしょうか。

竜脚類を含めた大グループ「竜脚形類りゅうきゃくけいるい」の祖先は、典型的な肉食恐竜そっくりの姿をしていたと考えられます。それもそのはず、竜脚形類の恐竜たちは、ティラノサウルスたち獣脚類じゅうきゃくるいと同じ「竜盤目りゅうばんもく」に属しています。つまり、一般的な肉食恐竜とカミナリ竜は祖先を共有しているのです

マメンチサウルスの全身骨格とティラノサウルスの模型(群馬県立自然史博物館にて撮影)。両者は同じ竜盤目に属しており、祖先を共有しています。

他の時代において、竜脚類ほどの巨体を誇る動物は現れていません。彼らの誕生には、進化的・環境的な秘密が隠されているはずです。はるかな中生代に遡り、その謎を追っていきたいと思います。

竜脚類恐竜の復元模型(天草市立御所浦恐竜の島博物館にて撮影)。長い首と尾を有する典型的な超巨大恐竜の誕生には、大きな進化の秘密がありました。

史上最大の陸上生物に変貌した小さな祖先

竜脚形類には、竜脚類の他に原竜脚類げんりゅうきゃくるいが含まれます。決して原竜脚類が竜脚類の祖先というわけではなく、進化の過程で分岐した兄弟筋の仲間にあたります。また、最古クラスの恐竜エオラプトル・ルネンシス(Eoraptor lunensis)を竜脚形類に分類する研究者もいます。竜脚類の真の祖先は、小型肉食恐竜に瓜二つのすばしこい雑食恐竜だったのかもしれません

初期の恐竜エオラプトル(豊橋市自然史博物館にて撮影)。竜脚形類に分類すべきとの意見もあり、エオラプトルに似た雑食恐竜が竜脚類の祖先であると思われます。
原竜脚類プラテオサウルスの頭骨(徳島県立博物館にて撮影)。彼ら原竜脚類は長い首と尾を備えており、一見すると竜脚類そっくりですが、直系の祖先ではなく姉妹群のグループだと考えられています。

恐竜たちが地上の王者として君臨していくのは、中生代三畳紀(約2億5190万~約2億130万年前)の後半になってからです。三畳紀末期より竜脚類は徐々に巨大化の道を歩み始め、ジュラ紀(約2億130万~約1億4550万年前)には生態系の中に絶対的な地位を築き上げます。
大型爬虫類や単弓類を圧倒し、生存競争の覇者となった恐竜たちは、大型化と多様化を爆発的に進めていきます。すでに地上にはシダ植物や裸子植物が巨木の森を形成しており、食糧は十二分にありました。豊かな植生に支えられながら、巨大恐竜たちは磐石な王朝を創っていったのです。

初期の竜脚類と言われるアンテトニトルスの復元模型(巨大恐竜展2024にて撮影)。本種はジュラ紀前期の恐竜ですが、最古の竜脚類は三畳紀に誕生していた可能性があります。
後足で立ち上がり、高所の葉を食べるオメイサウルス(福井県立恐竜博物館にて撮影)。長い首は摂食において有利であり、竜脚類は他の植物食動物より優位に立っていたと思われます。

巨大化の秘密:気嚢システム

進化の過程で竜脚類が巨大化したことは明らかですが、1つ浮かんでくるのは「どのような形質を獲得して、巨大になれたのか?」という疑問です。頑強な四肢を備えている点はもちろんとして、竜脚類の代謝や呼吸のメカニズムは、巨大化に向いていたと思われます。

その1つの能力が、気嚢きのう
私たち哺乳類が持っていない、恐竜たち(鳥を含む)の素晴らしい呼吸器官です。気嚢は肺の前後に配されており、後ろの気嚢からは絶えず新鮮な空気が供給され、前の気嚢には肺から古い空気が受け渡され、外へと排出されます。つまり、息を吐いている間にも、常に肺に酸素が満たされているのです。竜脚類ほどの超巨大生物にとって呼吸は大変な問題ですが、強力な気嚢システムの効果により、巨大なボディに効率よく酸素を取り込むことができます。

中型の竜脚類ユアンモウサウルスの胴体(豊橋市自然史博物館にて撮影)。彼らの大きな胴の中には、他の内臓器官と一緒に気嚢が存在していたと考えられます。

この画期的な呼吸システムは、現代の鳥類にも受け継がれています。効率的に新鮮な酸素を常に供給してくれる気嚢のおかげで、鳥たちは長時間・高々度の飛行活動ができるのです。事実、酸素の薄い高度1万 mクラスの超高空においても、悠々と飛行する鳥の姿が確認されています。

鳥類の体内に存在する気嚢の配置(我孫子市鳥の博物館にて撮影)。祖先の恐竜たちから受け継いだ呼吸システムのおかげで、鳥たちは天空での高い活動能力を獲得したのです。

竜脚類の巨大化の秘密は、彼らの骨にもあります。陸上生物は重力の影響をダイレクトに受けるので、重すぎる骨は大型化に制約をもたらします。しかし、竜脚類の椎骨は空気で満たされた中空構造であり、彼らの首や尻尾は軽くて丈夫な骨で構成されていたのです。
一方、四肢の骨は太くて力強く、超重量を支える強度とパワーがありました。巨大化に適した身体構造を有する竜脚類は、長い首と尾を維持したまま、どんどん大きくなることができたのです。

首をもたげて身構えるカマラサウルス(笠岡市立カブトガニ博物館にて撮影)。竜脚類の椎骨は空洞になっており、長い首と尾を自在に動かすことができました。
ブラキオサウルスの大腿骨(岐阜県博物館にて撮影)。30 t以上の巨体を支えるため、四肢の骨は頑強で力強く、すさまじい質量がありました。

まさに「完成された超巨大生物」と呼ぶべき竜脚類。ジュラ紀の恐竜王朝を象徴するかのごとく、アパトサウルスやブラキオサウルスなどの巨大恐竜が次々と出現します。
次回以降は、現代の動物の物差しでは遠く及ばない、めちゃくちゃでかい恐竜たちを紹介していきたいと思います!

圧倒的な巨躯を誇るブラキオサウルスの模型。壮大で無敵なオーラを湛える竜脚類こそ、地球の王者なのかもしれません。

【参考文献】
著:フランク・B・ギル, 訳:山階鳥類研究所, 監修:山岸哲(2009)『鳥類学』新樹社
公式図録『巨大恐竜展2024』読売新聞社
福井県立恐竜博物館の解説キャプション
愛媛県立総合科学博物館の解説キャプション
我孫子市鳥の博物館の解説キャプション

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