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The Lost Universe 古代の巨大ワニ②巨大アリゲーター

アリゲーターはワニの仲間ということは、多くの人がご存じだと思います。一般的にワニと言えばアリゲーターやクロコダイルが挙げられますので、万人のイメージ像に近い典型的なワニなのではないでしょうか。
パニック映画の主役はイリエワニやナイルワニなどのクロコダイルになることが多いですが、アリゲーターも種類によっては負けず劣らず強大です。特に古代においては、クロコダイル以上に恐ろしい存在でした。


古代アリゲーターこそ最強のワニ!

アリゲーターとは何者か?

現生ワニ類の2大派閥、アリゲーターとクロコダイル。その違いは、いったい何なのでしょうか。簡潔に定義すると、下記のような違いがあります。

  • 頭部の形

まず、彼らの頭を真上から見てみましょう。
丸みを帯びているのがアリゲーター、尖っているのがクロコダイルです。多少の個体差はあると思いますが、概ね形は変わりませんので、有効な判別点になります。

アリゲーターのクチヒロカイマン(熱川バナナワニ園にて撮影)。やや丸い頭部をしているのがわかります。
  • 顎の形

次に、ワニの顎を横から見てみます。このとき、下顎から歯を覗かせているのがクロコダイル、下顎の歯が見えなかったらアリゲーターと判断してください。
ただし、例外も存在し、アリゲーター科のメガネカイマンは口を閉じた状態でも下顎の牙が出ています。ですので、あくまで参考程度の指標にしていただきたいと思います。

横から見たクチヒロカイマン(熱川バナナワニ園にて撮影)。ご覧の通り、下顎の歯は外側から見えません。
  • 歩行姿勢

クロコダイルは、まるで哺乳類のように地面から体を持ち上げて力強く歩行します。一方、アリゲーターはトカゲと同様に腹這いの状態で移動します。同じワニでも、分類群によって歩き方にまで違いがあるのは興味深いですね。

恐竜とも戦ったアリゲーター

図鑑などでは「アリゲーターはクロコダイルよりおとなしい」と書かれていますが、それはあくまでワニの中での話です。アリゲーターは水辺の生物を捕食するために進化したハンターであり、場合によっては大型動物にも攻撃を仕掛けます。アメリカアリゲーター(ミシシッピワニ)を例に挙げると、人間やクマやピューマに襲いかかったことさえあります。

そんなアリゲーターは、現生ワニ類の中では古参の部類に属します。約8350万年〜約7060万年前(白亜紀後期)の北アメリカに生息していたレイディオスクス・カナデンシス(Leidyosuchus canadensis)が、アリゲーター上科の基盤的な種類であると言われています。クロコダイルの祖先との分岐は、さらに古い時代に起こったと考えられます。

水中に潜むメガネカイマン(熱川バナナワニ園にて撮影)。自然界の中で彼らの姿を見つけるのは困難であり、水辺に棲む動物にとっては大きな脅威です。

大昔からアリゲーターのライフスタイルは大きく変化しておらず、ときには恐竜さえ補食対象にしていました。「動物園のワニなんて5 mもないじゃん。恐竜に勝てるのかよ?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。実は、太古のアリゲーターは恐竜に匹敵するほど大きかったのです

古代の巨大アリゲーター

デイノスクス ~恐竜と渡り合った水域の最凶プレデター~

はるかな太古、地上には恐竜たちの大王国が築かれていました。しかし、河川や湖沼などの水域環境においては、恐竜とは別の存在が頂点捕食者となっていました。そのハンターこそ、史上最大級のワニの1つと称されるデイノスクス・リオグランデンシス(Deinosuchus riograndensis)です。
約8000万年~約7300万年前(白亜紀後期)に生きていた特大のアリゲーター上科の一種であり、北アメリカやメキシコから化石が産出しています。その全長は約10 mに達したと推定されており、現生種最大のワニ(イリエワニやナイルワニ)の2倍近い大きさがあります。

デイノスクスの復元模型(北海道大学総合博物館にて撮影)。成体の全長は約10 mにも達し、肉食恐竜ゴルゴサウルスやアルバートサウルスと並ぶ当時の頂点捕食者でした。

デイノスクスは長さ約1.8 mにも達する頭骨が発見されており、噛みつく力は非常に強かったと考えられています。生態的には現代のアリゲーターと変わりなく、水面近くで獲物を待ち伏せたり、水中の魚やカメなどを食べていました。体重5 tのデイノスクスが獲物に食らいつき、派手に暴れる姿は、さぞかし大迫力だったことでしょう。

デイノスクスの頭骨(北海道大学総合博物館にて撮影)。物を噛む力はティラノサウルスにも負けなかったと言われており、破壊力は現生ワニ類の数倍はあったと考えられます。

デイノスクスのハンティングスタイルは現在のワニと変わりませんが、何しろ大きさが桁違いなので、(よほど格上の相手でない限りは)恐竜さえも捕食できたと考えられます。事実、デイノスクスに噛みつかれたと見られる恐竜の化石が出土しており、水辺では無敵に近い存在だったと思われます。

ただ、デイノスクスとて、アルバートサウルスなどの大型肉食恐竜の格闘は命がけだったことでしょう。
ワニの噛む力は驚異的ですが、顎を開く力はそれほど強くありません。つまり、肉食恐竜の強靭な後足で頭部を踏みつけられてしまったら、デイノスクスは必殺の顎を使うことができないのです。しかし、体重ではデイノスクスも負けてはいないので、水際で戦えばパワーを活かして逆転できるかもしれません。

恐竜と対等に渡り合える巨大アリゲーター、デイノスクス。彼らは間違いなく歴代トップ3に名を連ねる特大のワニですが、時代が進んで新生代になると、同等ーーあるいはそれ以上に恐ろしい究極のアリゲーターが登場します。

プルスサウルス ~最強無敵! アマゾンの巨大モンスター出現!!~

現代の中央・南アメリカには、カイマンというアリゲーターの仲間が棲んでいます。大半が小型種であり、アメリカアリゲーターや大型のクロコダイルほど怖そうには見えません(とはいえワニはワニなので、人間に対して潜在的な危険はあります)。しかし、古代においては話は別であり、当時のアマゾンには市営バスよりも体の長い巨大カイマンが生きていました

その超大型アリゲーターこそ、デイノスクス以上の巨体を誇るプルスサウルス・ブラシリエンシス(Purussaurus brasiliensis)です。約1600万年〜約530万年前(新生代中新世)の南アメリカに生きていました。

南アメリカに生息するパラグアイカイマン(熱川バナナワニ園にて撮影)。近縁とされるプルスサウルスは、本種の5〜6倍(全長12 m以上?)もの大きさがありました。

プルスサウルスは当時の最強の捕食者だったと考えられており、南アメリカ大陸の広範な地域から化石が発見されています。
最大の推定値では全長12 m以上、体重8 t以上にも達します。そのうえ、獲物を噛む力は7 tあったと試算されており、攻撃がヒットしたら、相手がゾウでも簡単に倒してしまうでしょう。間違いなく、プルスサウルスは生態系の頂点に君臨するアマゾンの王者でした(下記リンク参照)。

魚類も両生類も爬虫類も哺乳類も関係なく、プルスサウルスは手当たり次第に何でも捕食していました。ディノスクスを上回る巨体、自動車さえ噛み砕く顎を備えるプルスサウルスには、当時の動物たちの誰もかなわなかったと思われます。

では、そんな最強無敵のプルスサウルスは、どうして絶滅してしまったのでしょうか。
その要因は、環境の変化だと言われています。巨大すぎる生物は、流動的な自然環境の激変についていけない場合があります。現在の小型カイマンは泥に潜ったり、汽水域に出没したりもしない。仲間のカイマンが持つ機転の良さは、プルスサウルスには備わっていなかったのかもしれません。

当時の地球で最強を誇った史上最大級のワニ、プルスサウルス。
彼らの絶滅によって、アリゲーターは最強の存在ではなくなりました。いよいよ、恐ろしいクロコダイルが水辺の王者の地位に台頭してきます。

【前回の記事】

【参考文献】
Colbert, E. H., et al. (1954)A gigantic crocodile from the Upper Cretaceous beds of Texas. American Museum Novitates (1688): 1–22.
Erickson, G. M., et al.(1999)How the 'terror crocodile' grew so big. Nature 398 (6724): 205–206.
長坂拓也 (2002)『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』ピーシーズ
Farlow, O. J., et al. (2005). Femoral dimensions and body size of Alligator mississippiensis: estimating the size of extinct mesoeucrocodylians. Journal of Vertebrate Paleontology. 25 (2): 354–369.
Aureliano, T., et al.(2015)Morphometry, Bite-Force, and Paleobiology of the Late Miocene Caiman Purussaurus brasiliensis. PLOS ONE 10 (2): e0117944.
Michael S. Y. L., et al.(2018)Tip-dating and homoplasy: reconciling the shallow molecular divergences of modern gharials with their long fossil. Proceedings of the Royal Society B 285 (1881).
ニッポン放送 NEWS ONLINE 編集部(2018)どっちもワニ!『クロコダイル』と『アリゲーター』の違いって? https://news.1242.com/article/140389 
Rio, J. P., et al.(2021)Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem. PeerJ. 9: e12094.

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