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#16 母とは

8/1  AM5:00 母からのメール

お父さんが眠りから覚めん、心配です、熱もある

様子を見るということで、心電図をつけています


病院へ向かう途中、高鳴る心臓にゆっくりと空気を送り込む

「ふうーーーーーーーー」

落ち着け、大丈夫、大丈夫、、、


「お父さん、お父さん」

呼びかけると

「ん?」

返事をした。

目は開けないが、寝ているだけだろう、そう言い聞かせた


「疲れが出たがやろうかね、ちょっと忙しかったもんね」

母はまだ心配そうに言った



このところ、微熱が続き、機嫌が悪かったソウタは

夜になると、おかしな咳をしはじめた

喉が乾いた、枯れたようにかすれた音で

変に高い声、奇妙な動物の泣き声のような咳だ


食べたものを吐くようになり、熱が上がってきた

眠れないのか、1時間おきに起きては泣く

夜中の0時を回っていたが、母に相談して、病院へいくことにした


救急病院には、車で30分はかかる

父の付き添いは、母から兄にバトンタッチだ


ソウタはぐったりしていて、身体は燃えるように熱い

かわいそうなソウタ


まだたった9ヵ月なのに、2週間おきに環境は変わるし

毎日病院に連れて行かれ、体調が悪いのに

「大丈夫だろう」

と気にとめていなかった

振り回してしまって、ゴメンね


母が運転する車内でも

何度か私の服の上からゲロを吐きかけてくれた


ソウタはよく吐く赤ちゃんだった

生後2ヶ月のとき

授乳後、ゲップをさせようとおそるおそる縦抱きをしただけで


見事な弧を描いて、口からおっぱいを吐き出した

せっかく飲んだおっぱいは、私の身体を通り越して

布団に着陸して、無駄になった


あぁ、またお腹がすいたって泣くのかな

もうおっぱい出ないよ・・・

マーライオンが見れたから、旅行に行った気分にでもなろう


子育ては、本当に過酷な日々だ

自分の状態が良かろうが、悪かろうが

予測不可能なことが突発的に飛び込んでくる


2時間おきに夜泣きで起こされて

抱いても揺らしてもどうしようもなく「ねんね、ねんね」と歌いながら

何度ソウタを落としそうになって

その度に自分の顔を引っ叩いたことか



私はもう、ゲロまみれでも、ウンコまみれでも

いつもは苦手な

あの生暖かいドロドロの感触も、鼻をつく酸っぱい匂いも

どうでもよくなっていた


黙っていたけれど

私の身体にもソウタと同じように火がついていた


これが、2回目の発熱だった

病院に着いても、車から足が前へ出ない



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「けい、着いたよ、はよう行くで。何しようが?

 ・・・・・・あんた、熱があるがやない?」


後は、母にまかせきりだった

ソウタは吸入をしてもらい、薬をもらって

「熱が下がらなかったら、明日の朝、また来てください」

と、なんとか診察が終わった



ソウタの咳も落ち着いて、楽になったのか

車に乗るとすぐに寝てしまった

ソウタを抱いたまま、私もようやく目を閉じた


家に戻ったのは午前2時を回っていたが

母はそのまま、父の付き添いに行ってしまった

(あの人、根性あるな・・・負けるわ・・・)



毎晩、父の病室に寝泊りしている母は、誰よりも疲れているはずだ

母は寝なくて大丈夫なのかな

だけど、悔しいけれど、私には何もできない


熱は38℃を越え

泣いているソウタを抱いてやることさえできなかった

情けない、何もできない


ソウタもやっぱり熱が下がらず

吸入の効果が切れたのか、また咳も出てきた

咳で目が覚めて泣きはじめ、おっぱいも飲まない

話かけても、添い寝をしても、泣き止まない


ゴメン、ゴメンね

私もほとんど意識がなかった


夢か現実か、誰かの足音が近づいてきて

すーっとソウタの身体が宙に浮かび、泣き声が止んだ


ソウタを抱き上げたのは、兄だった

母と付き添いを交代してうちに帰ってきたのかな・・・

私はそれを確認して、夢の中に落ちていった


2、3時間は寝ただろうか、ソウタがまた泣いている

身体は熱いままだ


8時になると、母が帰ってきた

父に心配はかけたくなかったが、今回ばかりは本当のことを言って

帰ってきてくれた


父は

「ソウタが病気なら早く行ってやれ」

と、自分が1人になることを選んでくれたそうだ


朝になったので

私と母はまたすぐに、昨夜と同じ病院へ車を走らせた


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