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「ズルい奴ほどよく吠える」11

■11 警視庁・一室
 
雪、西川、明日香が待っている。
岩倉がウロウロ待っている。
 明智が来る。
 
明智  「大丈夫か?」
岩倉  「怪しまれてはいないはずです」
明智  「うん。お待たせしてすいませんでした。この中も敵が多いので」
雪   「そうなんですね」
明智  「それで?」
雪   「コウジ」
西川  「あの・・・あの夜、屋上には織部先生以外にも人がいたんです」
明智  「誰がいました?」
西川  「分かりません。でも織部先生が落ちた後、屋上から4人が顔を出
     したのをみたんです」
明智  「4人?」
岩倉  「本当に4人でした?」
西川  「間違いないです」
明智  「どういうことだ?」
岩倉  「分かりません」
雪   「何か問題があるんですか?」
岩倉  「屋上にいたのは石原校長と吉岡先生だけかと」
明智  「恐らく3人目は城田先生だと思います」
雪   「城田先生?」
明智  「ただ城田先生は屋上には行ってないと言ってます」
雪   「城田先生がウソをついてるってことですか」
明智  「断定はできません。ただ石原校長の証言と城田先生の証言には僅
     かですが食い違いがあることは間違いありません」
雪   「でも何のためにウソを?」
明智  「ウソをつくときは何かやましいことがあるときです」
西川  「あの・・・城田先生は違うと思います」
明智  「どうして?」
西川  「城田先生だったら僕でも分かると思うんです」
明智  「じゃあ3人目と4人目は他にいるってことになりますね・・・。     
     そしてその件に関して石原校長は何かを隠している可能性が高
     い」
明日香 「大手建設」
明智  「まだ何とも言えませんね。ゴシップ誌で揺さぶりをかけてみたか
     ったんですがそちらも動けなくなってしまった」
明日香 「そうですか・・・」
明智  「城田先生と石原校長の証言の食い違いを検証する必要があるな」
岩倉  「城田先生にもう一度当たってみましょう」
雪   「私が城田先生に聞いてみます」
明智  「ここは私たちに任せていただけませんか。ここを失敗したら二度
     と手を出せなくなるかもしれないんです」
明日香 「私たちにできることはないってことですか」
明智  「そうです」
明日香 「行きましょう。ここにいても仕方ないです」
雪   「明日香さん」
明日香 「私は私で犯人を探します」
岩倉  「山中さんそれは危険です」
雪   「危険?」
明日香 「大丈夫です。私には守るべきものなんてもうありませんから」
岩倉  「山中さん」
明日香 「お邪魔しました。失礼します」
雪   「失礼します」
 
明日香、さっさと出て行く。
追うように雪と西川も出て行く。
 
明智  「岩倉」
岩倉  「はい」
明智  「山中明日香さんの警護を」
岩倉  「分かりました」
 
岩倉、行く。
 
明智  「あなたのための大~手建設 ♪・・・なーにが」
 
暗転。
 
 
■11A 織部印刷工場
 
織部、名刺を見ながら電話をかける。
別空間に木田が現れる。
 
織部  「もしもし」
木田  「織部さん、あなたから連絡をいただけるとは思いませんでした」
織部  「木田さん、ひとつだけ教えてください」
木田  「なんでしょうか」
織部  「政春は何故僕を裏切ったんでしょうか?」
木田  「と申しますと?」
織部  「工場の権利のことです。政春は自分の持ち分を勝手に大手建設に
     売った。僕はそれが許せないんです」
木田  「織部さん、政春さんを責めないであげてください。彼はあなた方
     のために私たちに権利を売ったんですよ」
織部  「僕らのために?」
木田  「ええ。政春さん言ってました。工場は確かに大切だけど、赤字が
     続いていてお姉さまたちの生活は苦しいはずだ」
織部  「・・・」
木田  「ムキになって工場を守るよりも大手建設に売って、別の場所で別
     の仕事をしたほうがお姉さまたちも幸せになるはずだと」
織部  「そうですか。マーくんがそんなことを」
木田  「とてもご家族想いのいい青年でした」
織部  「・・・」
木田  「・・・」
織部  「決めました。この工場の僕の持ち分、大手建設さんに売ることに
     します」
木田  「本当ですか」
織部  「本当です」
木田  「奥様もお喜びになられると思いますよ」
織部  「そうですね」
木田  「政春さんもきっと草葉の陰でそう願ってたと思います」
織部  「工場を売ることがマーくんの想いなら、せめてその思いを果たし
     てやりたいんです」
木田  「では契約の日程と場所ですがいかがしましょうか」
織部  「明日はマーくんの四十九日なんです」
木田  「ああ、もうそんなになりますか」
織部  「できれば明日の夜、福沢学園の屋上で契約をしたいんですが」
木田  「え?あの屋上ですか?」
織部  「政春に見届けて欲しいんです」
木田  「なるほど、分かりました。そのように手配しましょう。9時でよ
     ろしいですか」
織部  「結構です」
木田  「書類はこちらでご用意させていただきますので、織部さんは実印
     をお持ちいただきますようお願いします」
織部  「実印ですか」
木田  「土地の権利書に捺印したものをお願いします」
織部  「実印・・・分かりました。よろしくお願いします」
木田  「こちらこそ。お電話ありがとうございました」
織部  「はい。では」
 
電話を切る。
訝し気な木田、去る。
 
織部  「・・・」
 
今日子、やって来て
 
今日子 「オサムちゃん、電話?誰から?」
織部  「ああ、間違い電話」
今日子 「そう・・・」
織部  「そういえば、マーくんの実印ってどこにある?」
今日子 「さあ、どこかしら。探してみないと」
織部  「探しておいてくれる?」
今日子 「どうして?」
織部  「ちょっと気になることがあって」
今日子 「分かった」
織部  「さて、俺も風呂に入ろうかな」
 
去る織部。
 
今日子 「・・・」
 
暗転。

<12>に続く

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