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外資系企業の給料と雇用の流動性

ここ数年、「日本の雇用の流動性は他国に比べて低い」という話をよく耳にします。

日本の政府はリスキリングを奨励し、助成金などでサポートしながら、スキルを持つ人材を増やし、彼/彼女らを成長産業にシフトすることにより、雇用の流動化と賃金の上昇を目指しているようです。

また多くの日本企業が今まで終身雇用を前提とした「メンバーシップ型雇用」「就社」から脱却し、欧米型の「ジョブ型」、いわゆる専門職に専門性の高い人材を採用したり育てる形に移行しようと試みています。

私は日系企業で数年働いたあと、MBA留学を挟み、米系企業に転職しました。「外資系人材の雇用の流動性」は既に20年以上前から高く、私自身、良いことも厳しいことも身をもって経験してきました。

今日は、自身の経験をもとに、外資系企業における「雇用の流動性が意味すること」について、お話ししたいと思います。

以下のトピックについて順にお伝えします。

  1. 報酬

  2. 昇進

  3. 社内競争

  4. 組織再編

  5. まとめ


1. 報酬

外資系企業における「ジョブ型の利点」のひとつが、報酬レベルが常に社外と遜色ない妥当なレベルにあることです。例えば、米系企業のA社とB社の財務課長のベースの給与はほぼ同レベルです。ボーナスのみ会社や個人の業績によって差がつきます。

なぜ、ベースの給与は同じレベルなのか?

理由はシンプルです。同じ職種の同じ職能の報酬が、他の企業と比べて著しく低いと、今いる優秀な社員は転職してしまいますし、優秀な社員も採用できません。よって、人事部は常に外資系労働市場の報酬レベルをチェックの上、乖離がある場合には適宜修正し、自社の競争力を保ちます。

2. 昇進

実務経験や勉強を通じてスキルが向上し、もはや今の職能レベルより高い役職も務まるはずと、客観的に判断されるような人であれば、会社は昇進させるでしょう。

上のポジションが空いていなかったとしても、過去の私の経験上、会社は優秀な社員を繋ぎ止めるために、場合によってはレベルの高いポジションをあえて新設することがあります。


3. 社内競争

また、多くの大手米系企業では、グローバルレベルの社内公募制が浸透しており、社員は求められるスキルを満たしていれば、どこの国の空きポジションにも応募できます。よって、日本支社で興味のあるポジションが埋まっていても、海外に空きがあるなら挑戦する道もあります。

私も過去に何度か、社内の国内外の募集されている空きポジションに応募しました。書類審査から面接まで、ほぼ社外の人に対して行うものと変わりません。人種も性別も年齢も関係なく、求められるのはスキルのみなので、フェアな競争です。採用されたこともあれば、不採用になったことありますが、能力で判断されるフェアな競争なので、納得感はあります。過去に一度、外人上司に応募をブロックされそうになったことがありますが、最後は自身の判断です。よくあることなので、それで上司と関係が悪くなるようなことはありません。

このように大手外資は社内でも人の流動性が高いので、人事部は社員に対して、履歴書や職務経歴書は常に最新の状態に更新しておくことを奨励しています。


4. 組織再編

会社全体の組織の合理化のために、ある特定の部署が丸ごと閉鎖されることがあります。例として、ここ10年ほどで、多くの外資系企業の経理部門がインドや中国に移管されました。そこで出てくる疑問が「閉鎖された部署の社員はどうなるのか?」

オプションは2つ。

  • 社内の空いているポジションに応募する。

  • 社内に興味のあるポジションはないため、転職する。

多くの人が専門性の高い仕事をしているため、例えば、経理担当者がマーケティングの空きポジションに応募することは現実的でありません。よって急な組織再編の場合、多くの人が2つ目の「転職」を選ぶことになります。

この場合、多くの外資系企業では「パッケージ」と言って、支度金、いわゆる割り増し退職金を払います。時と場合によりますが、私が知る限り、月収×勤続年数分を支払うことが多いようです。企業の中には、勤続年数に関係なく、「半年分の給料を払うから、その期間内で転職先をさがしてくれ」という企業もあるようです。

私の知る限りでは、退職金と割り増し退職金を合わせると、それなりの金額になるので、たいていの社員はある程度納得して、次のステップに移ります。

特に専門性の高い外資系社員であれば、スキル、経験、英語力を武器に似たような外資企業のポジションを見つけたり、個人事業主としてコンサルティングを始める人もいます。


5. まとめ

ここまで読まれていかがでしたでしょうか?
みなさまお気づきかと思います。

そうです。

「雇用の流動性を高める」ということは、企業、社員ともに、良くも悪くも「資本主義の原則に則って行動する」ことになります。

企業側は自社の都合に関係なく、優秀な社員を繋ぎ止めておくために、また採用するために、転職市場で競争力のある報酬を支払います。年功序列制度を続けていては、優秀な若い人に魅力的な報酬を支払うことはできません。

一方の社員は高い報酬を得るために、それに見合ったスキルの取得、およびアップデートは欠かせません。また、より良い報酬や役職を得るためには、日本人だけでなく、外国人との競争、社内だけでなく社外の人との競争に勝つ必要があります。

過去にラテン系の熱い上司に数年間、仕えていたことがあり、彼に言われた言葉を今でも覚えています。「キャリアは会社が与えてくれるものではない。自分で勝ち取るもの。」と言われ、当時、身が引き締まる思いでした。

以上が私が外資系企業で身をもって学んだ「雇用の流動性を高めることの意味」です。

今後、日本の政府と企業がどこまで資本主義を機能させ、雇用の流動性を高め、賃金を上げていけるかを注視していきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(すみません、ちょっと文章長すぎですね。貴重なお時間をいただき、感謝です。)

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