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その言葉に「熱量」はあるか?|ロジック、共感より大切なものがあるよ、という話。

「編集」は、とても便利な技術です。
私は「言葉によって表現したい、そして人や社会に働きかけたい」と望む全ての人に「担当編集者」がつけばいいのにと思っています。

だけど、「編集」を生業としている「編集者」が何をしている人なのかをひと言で説明するのは、結構難しい。

まず、ひとくちに「編集者」と言っても、つくっているものによって何をするか、何が得意なのかは違います。私が長く経験してきた「本の編集」について言えば、編集者は「書いてもらうプロ」であり「読むプロ」です。

編集者は、文章の「何」を読んでいるのか

「熱量」「エネルギー」を読んでいる

じゃあ、編集者は一体、何を読んでいるのか
それは間違いなく「文章」です。

・文章全体として、論理的に整合性がとれているか
・書き手の論理構造に「矛盾」や「破綻」はないだろうか

などの文章全体の「構造」を見ることもあれば、

・1つの文章の「主語」と「述語」は対応しているのだろうか
・さまざまな言葉の「定義」が明確化になされているか
・理解を迷わせる表現がないかどうか

といったミクロな部分に論理的な破綻がないかを見ることもあります。
さらには、論理構造以外の部分として

・全体としての「印象」はどうか
・これを読んだとき、読者はどんな感覚・感情を抱くだろうか
・不適切な「表現」はないだろうか(誤解や意図せぬ悪印象を与えたりするような表現はないだろうか)

などの印象・感情的な部分も読んでいます。

そのほか「新規性(新しいか、学びがあるか、発見があるか)」「独自性(ユニークさ)」「いつ、どのタイミングでどのように伝えるべき内容か」などなど、いろんな要素を同時に読んでいます。

こうした「思考」に働きかける部分「感情」に働きかける部分は、文章を書くうえでとても大事なものです。これらについてお裾分けしたい技術は、たくさんあります。

だけど、同時にお伝えしなければいけないことがあります。
これらは大切な技術ではあるけれど、表現の良し悪しを決める「クリティカルな部分」ではない——と。

じゃあ、表現の良し悪しを決める「クリティカルな部分」とは何か。
それは、その表現にどれだけの「熱量」があるかです。
言い換えると「エネルギー」「勢い」「らしさ」といった類のものです。

文章は「素材」が9割、素材は「熱量」が9割

文章による表現って「料理」のようなものです。

情報や感情、知識など「内側にある素材」をもとに、組み合わせや分量を調節したりしながら、下ごしらえをしたり、煮たり、焼いたり、味付けをしたりしていくことで完成させていくわけですから。

どれだけフキノトウの天ぷらが好きでも(私は大好きです)、秋のランチメニューに加えるのが難しいように(春の食材だから)、どんな料理ができるかは、どんな素材があるかで決まります。

このように「素材」が表現の根本を決めるわけです。

(この話題について、詳しくはこちらの記事をご参照ください)

そして、ここからが大切なことです。
じゃあ、いい素材って何なのか?

欠かせないポイント「鮮度」ではないでしょうか。
どれだけ手塩にかけて育てられた”こだわり”のオーガニック野菜だとしても、収穫してから時間が経つと鮮度が落ちます。鮮度が落ちると、どんどんくたびれていき「熱量」「エネルギー」を感じられなくなってしまいます。
もちろん産地や旬、料理のなかでのバランスも大切です。
だけど「熱量」や「エネルギー」が落ちた素材では、どれだけ料理人の腕がよかったとしても、調理法に限界があるのでは?

野菜ほどわかりやすくはありませんが、言葉や文章にも、この手の「熱量」「エネルギー」があります。

誤解を恐れずに書くと、文章の「わかりやすさ」とか「共感できるかどうか」は後から加えることができます。これらは技術で対応できるものです。

だけど「熱量」「エネルギー」だけは、それできないんです。技術で付け加えられない
だから私は、これを「クリティカルな要素」だと捉えています。

「熱量」「エネルギー」は、身体に届く

いい原稿は、読む前からわかる

これは、私が、あるベテラン編集者の方から聞いた話です。

「いい原稿は、読む前からわかる」

らしいです。
その方曰く、原稿を前にしたときに「肌感覚」や「直感」として、その原稿の良し悪しがわかるとのこと。

ちょっと怪しい話に聞こますか?
でも、これ「身体心理学」や「ソマティック心理学」のあいだでは、もう知られていることです。

身体は、言葉によって示される思考処理される情報よりも、はるかに大量の情報を受け取ることができるといいます。
だから、思考や感情では捉えきれないものを、身体が無意識のうちに察知しているのではないでしょうか。

これは私の体験知ですが、言葉や文章の持つ「エネルギー」「勢い」「熱量」は、身体に直接届きます。

ここからは余談です。
頭や心よりも先に「身体」が反応する。このことに気づいて、私の探究活動は心理学や身体性の分野へと広がっていきました。
そして、いつの間にか深層心理学を学んだり、プロセスワーク(ユング心理学の応用体系)のプラクティショナーになったり、それに飽き足らずボディワークの国際資格をとろうとしたり……私の探究活動は、まだまだ続きます。

ただ、いずれにしても、さいごは「言葉」に戻ってくるつもりです。

「身体」に届く言葉が社会を動かす

なぜならば、私は、言葉は社会を動かす力をもっていると信じているからです。
むしろ「言葉」が変わらなければ、社会は変わらない、と。

そして、人や社会を動かすのは「身体」に直接届く「熱量」「エネルギー」をもった言葉です。

頭で理解してもらうことも、共感してもらうことも、とても大切です。
だけど、身体に届かなければ行動は変わらないし、それでは何かを変えていくなんてムリな話なんです。

だからこそ「言葉」の力を十分に活かせるようになりたいと思っているし、どうせ同じ時間を使って表現するならば、少しでもよりよい方向へと繋がる一石を投じたい。
そして、何かにブレイクスルーを与えたいと願うのであれば「身体」に届くほどの「熱量」「エネルギー」のこもった言葉を使ってほしい

何を隠そう、これは私自身が悩んできた問題です。

少しでも世の中をよくする活動をしたい……そう意気込んで、若い頃からいろいろな活動に首を突っ込んできました。
でも、「良さげ」に見える活動に勤しむ私の口から出る言葉、私の指から紡がれる言葉は、お世辞にも人を動かす熱量なんてこもっていない。。。
そう、疲れ果ててエネルギーが「スカスカ」になっていたんです。
だから世の中に溢れる「借り物の言葉」で誤魔化すしかできませんでした。

だけど、誰よりも私自身が(私の身体が)、私の発する言葉に「熱量」「エネルギー」がこもっていないことを知っています。

そんな自己矛盾のなかでも、何とか前に進みたかった。
そんな経験は、一度や二度の話ではありません(今でもあります)。

だけど、疲れ果ててスカスカになることなく、「熱量」「エネルギー」が満ちた状態で、社会を動かす方法があるのであれば(間違いなくあります)、そちらを選んだほうがいい。そして、可能な限り多くの方にも、その方法を選んでほしい。

そんな個人的な願いが、この連載の背景にはあります。

言葉の「熱量」はどこからやってくるのか

……と、つい熱くなりすぎてしまったので、話を戻します。

ここまで読んできて、いかがでしたでしょうか?

あなたが表現する言葉、文章には「熱量」「エネルギー」「勢い」「らしさ」はありますか??

難しく考える必要はないです。
身体が、もう答えを知っているはずです。

「まだ足りないな……」と感じるのだとしたら、以下の「①充電」のシーズンにいるのかもしれません。

もし「もう十分だ!」と思う方は、少しお待ちください。
次のシーズン以降(②〜)の記事も、このあと、順次書いていきます。

表現者の4つのシーズン:詳しくは下の記事をあわせてご覧ください

誤解がないように言っておくと、誰もが「熱量」「エネルギー」「勢い」「らしさ」をもっています
「熱量」「エネルギー」がない人なんて、誰一人いないのです。

だけど「人」って消耗する生き物です
呼吸をしたり、水を飲んだり、眠ったりしなければ生きていくことができないように、表現をするためには「熱量」「エネルギー」を補充する(充電する)期間が必要なのです。

そして、誰もが「表現すべき何か」をもっている。だから人は「熱量」「エネルギー」が充電されると、自ずと「自分が表現すべき何か」を表現せずにはいられなくなります。そこで発せられる表現には、自ずと「熱量」「エネルギー」「勢い」「らしさ」が宿ってくるわけです。

もちろん、人の性質はさまざま。充電に時間がかかるけれど、一旦フルになれば長持ちするタイプもあれば、素早く充電が終わるけれど早めに消耗する(次の充電が必要になる)タイプもいます。
とはいえ、設計図はみんな同じです。「熱量」「エネルギー」が足りないときは、充電すればいいわけです。

じゃあ、どうすれば「充電」をスムーズに進められるのか? 特に、言葉で表現することを目的としたとき、どんなことに取り組んでいけばいいのか?

それは、また次の記事でご紹介したいと思います。

・・・

ここまで読み進めてくれたあなたの中には、もう「熱量」「エネルギー」が宿っているはずです。それを大切に育ててあげてくださいね。

あなたの言葉が、必要な方に届いていきますように!
さいごまでお読みくださりありがとうございました。

#クリエイターフェス

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