佐藤孝雄

東京→ソウル→東京→名古屋→京都→東京→岩手→埼玉。ずっと根無草のような暮らし。専門紙…

佐藤孝雄

東京→ソウル→東京→名古屋→京都→東京→岩手→埼玉。ずっと根無草のような暮らし。専門紙記者から転身し、東日本大震災の津波と火災で甚大な被害を受けた岩手県山田町と大槌町で震災伝承事業に携わった後、埼玉県に移り住んでいます。生涯一記者、一編集者

最近の記事

「異端宗教だが抵抗感なし」 韓国人が抱く統一教会のイメージ

 安倍晋三元首相が参院選の遊説中に銃撃され、死亡した。山上徹也容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者になり家庭が崩壊した恨みから同連合と関わりの深い元首相を襲ったという。「異端キリスト教だと分かっているが、あまり抵抗感はない」。統一教会に対する世間一般のイメージを韓国の友人に尋ねると、意外な答えが返ってきた。  今から30年近く昔、僕が韓国高麗大に語学留学していた1995年ごろのクラスの生徒たちは、在日・在外韓国人らのほか、韓国人が恋人の日本人女性や定年後

    • ロートル記者の就活日記 #4

       この連載もついに… 4月からA市、すなわち埼玉県熊谷市の市史編さん専門員に着任、多忙な日々を送っていて、この連載も終わりに…とはならず、いつ最終回を迎えるか分からない状況になった。選考に最終面接で落ちてしまったのだ。面接の感触はそれほど悪くなく、四分六ぐらいで受かる公算が大きいな、などと高をくくっていただけに、失望は小さくない。  もう一人の受験者である20代と思しき女性の方に軍配が上がったわけだ。若さの可能性や将来性の勝利か、僕なんかよりよほど地理学・地質学の知識が豊富

      • ロートル記者の就活日記 #3

         いざ面接に臨む 2月20日午前、A市の市史編さん専門員を選ぶ第二次試験の面接が市役所であった。会場に隣接する控え室で出番を待っていると、一次試験を通ったもう1人の若い女性が先に面接を終え、退室していった。担当職員から今後の日程などを聞かされている彼女の受け答えの声色は少しく高揚した調子で、何やらやり切ったような充足感をうかがわせる。  試験官は4人おり、3人が横一列に机を並べて僕と対面し、残り1人は右脇で3人と直角に机を置いて席に着いている。机の配置はちょうどL字を時計回

        • ロートル記者の就活日記 #2

           一次合格、面接試験へ 果たして、A市の市史編さん専門員の第一次採用試験は合格だった。2月14日に市のホームページ上で発表があり、一緒に受験したもう一人の若い女性も通過していた。出題されたA市の地理についてウィキペディアを一瞥した程度の生半可な知識しかなく、二大河川が貫流する市域の防災に対する素人考えを記すなどして答案を水増ししたため、不合格を覚悟していたが、ひとまず胸をなで下ろす。二つの自治体で4冊の震災記録誌を編さんした職務経歴が加点の対象になったのかもしれない。  第

        「異端宗教だが抵抗感なし」 韓国人が抱く統一教会のイメージ

          ロートル記者の就活日記 #1

           コロナ禍、50代の求職 岩手県大槌町で東日本大震災の津波の犠牲になった役場職員の最期を追い、書籍にする仕事を終えて、2021年秋、僕は出身地の関東に戻ってきた。新しい勤め先を探さねばならない。宗教専門紙「中外日報」の記者を約20年務めた後、被災した二つの町に8年暮らし、記録誌の編さんなど震災伝承事業に携わった。間もなく56歳。もうすっかり、「ロートル」(死語)と自虐したり、世人から揶揄されたりする年頃である。コロナ禍の首都圏で僕のキャリアがどの程度評価され、転職を果たせるの

          ロートル記者の就活日記 #1

          山田町と「新しい町」⑥(最終回)

           歌の中盤にこんな一節がある。  <町の中心に 墓ができる 旧(ふる)い時代の 記憶を刻み 戒めと祈りが こめられた 誓いの墓ができる>  下田さんはこの「墓」に、広島の原爆ドームのイメージを重ねた。ドームは「壊れそうになったら補修して、いつでも一番悲惨な状態を保とうとする、まがまがしい」負の遺産だ。「人は忘れてしまうから、目に入ってくる形として残さねば。いずれ町が復興して繁栄しても、実は自分たちの生活している地面の下に昔死んだ町があるっていうことを覚えていたい。もう二度

          山田町と「新しい町」⑥(最終回)

          山田町と「新しい町」⑤

          「『新しい町』はまさに被災地山田の歌」と話す野田権右さん  町側のメンバーはカラオケボックスで2回ほど練習しただけ。当日は直前にタエちゃんがソロの順番を確認したぐらいで、ほとんどぶっつけ本番だった。地元バンドの一員でギターを担当した野田権右(けんゆう)さん(42)は「ギターをやってて、本当によかった。聴いてるみんなも一体になって、あれこそが音楽なんだなって」と振り返る。  トロンボーンを吹いた阿部基(もとき)さん(39)は、震災からほぼ半年後、町のアマチュア演奏家らに

          山田町と「新しい町」⑤

          山田町と「新しい町」④

          沿岸部に「新しい町」を広めたいと話すマルさんこと佐藤澤一彦さん  T字路sが去った後、竹松やのマルさんは「新しい町」を山田町のみんなで演奏したら面白いんじゃないかと考えていた。震災の1年前、当時住んでいた盛岡市で初めて彼らのライブを観た。「頭で聴くというより、体ごと持って行かれる感じ」に衝撃を受けた。震災の翌年に盛岡を再訪したT字路sの「新しい町」の演奏に心を打たれ、「ぜひ沿岸の人たちに聴いてほしい」と2014年秋に山田に呼んだのだった。  マルさんは津波で織笠地区跡

          山田町と「新しい町」④

          山田町と「新しい町」③

          「新しい町」について語り合う下田卓さん(左)と伊東妙子さん<2015年12月、東京・浅草で>  その年の初演では、当時蔓延していた過剰な自粛ムードに疑問を感じる反面、「このタイミングで東京の人間がやるのは、ちょっとあざといかなとか、どうなのかなという気持ちもあった。何かメッセージを込めたというより、単にセットリストの中の一曲という感覚で歌いました」。  新曲「新しい町」は、そんな下田さんの懸念をよそに、じわじわとポピュラリティーを獲得していく。前述のバンドのほか、有名

          山田町と「新しい町」③

          山田町と「新しい町」②

          新しい町 作詞・作曲 下田卓 ※町ができる 町ができる  新しい町ができる  傷つき息絶えた大地の上に  新しい町ができる  晴れた日には 瓦礫を片付け  雨降る夜には 酒で温まり  希望と絶望を 繰り返し  新しい暮らしが 始まる  東から来た男が 土を耕し  南から来た女が 苗を植える  西から来た男が 火を熾し  北から来た女が 飯を炊く  ※繰り返し  やがて川には 橋が架かり  やがて家が建ち 道ができ  やがてこの町で 初めての  新しい命が 生まれる

          山田町と「新しい町」②

          山田町と「新しい町」①

           〽町ができる 町ができる 新しい町ができる 傷つき息絶えた大地の上に 新しい町ができる  2015年11月の夜、岩手県山田町の中心街に立つ居酒屋「竹松や」の仮設店舗に、震災復興を願う若者たちの歌声が響き渡った。東京在住のシンガー伊東妙子さんらのライブコンサート。アンコールで演奏する楽曲「新しい町」に、町の吹奏楽団のブラスやアマチュアバンドの生ギターが絡み、観客たちの合唱が重なる。  秋冷の外気を隔てた40平方メートルほどの店内は人いきれでむせ返り、誰もが火照った顔に温か

          山田町と「新しい町」①