山田町と「新しい町」①

 〽町ができる 町ができる 新しい町ができる 傷つき息絶えた大地の上に 新しい町ができる

 2015年11月の夜、岩手県山田町の中心街に立つ居酒屋「竹松や」の仮設店舗に、震災復興を願う若者たちの歌声が響き渡った。東京在住のシンガー伊東妙子さんらのライブコンサート。アンコールで演奏する楽曲「新しい町」に、町の吹奏楽団のブラスやアマチュアバンドの生ギターが絡み、観客たちの合唱が重なる。

 秋冷の外気を隔てた40平方メートルほどの店内は人いきれでむせ返り、誰もが火照った顔に温かく、幸せそうな笑みを浮かべていた。「ばんざーい、ばんざーい」。セッションが終わると、みんなは快哉を叫んで両手を高く振り上げた。

 僕がこの歌「新しい町」を知ったのは、その1年前、ギター、ボーカルの「タエちゃん」こと伊東さんとベース奏者篠田智仁さんのデュオ、T字路sが初めて竹松やでライブを開いた時にさかのぼる。昔のロックや黒人音楽を愛好する店主佐藤澤一彦さん(46)=愛称マルさん=がアルバム「これさえあれば」を聞かせてくれた。ざらついた感触のギターとベースの音色に、しゃがれ声の激しいシャウトが乗る。

 歌声だけ聞くと男性かと思えた。このCDにカンザスシティバンドがオリジナルの「新しい町」や、戦前に活動した米国の女性ブルース歌手ベッシー・スミスの「電気椅子」(原題Send me to the ‘lectric chair)のカバーが収録されていた。「これ、めちゃくちゃいいですね」と声を掛けると、マルさんは、いつものはにかんだような笑顔を浮かべて言った。「今度、店に呼んでるんですよ」

 僕が町の震災記録誌を編集するために13年に東京から移住して、1年が経っていた。生で聴くタエちゃんの歌声と篠田さんのベースの振動は圧倒的な音圧だった。ソウルで、ブルースで、ロックで、心の底のよどみを全て吐き出すかのようなパフォーマンス。「新しい町」の歌詞が描く情景と、心の中にあったり、日ごろ目にしたりする山田町のたたずまいがぴたりと重なった。

 会場に居合わせた、津波にのまれ、その後の火災で焼け野原になったこの町に暮らすみんなが、きっと同じ思いだったに違いない。「町ができる、町ができる、新しい町ができる…」。キャッチーな旋律と躍動感。この歌を初めて聴いた人たちも、引き込まれて、知らないうちにサビをリフレインしていた。

 僕はこの晩のステージにすっかり打ちのめされてしまった。何しろ、ニューオーリンズのロックやソウルに影響を受けたバンドで、大好きなボ・ガンボスの名曲「トンネルぬけて」をやってくれたし、タエちゃんによると「前のバンドが解散してどん詰まり状態になったことから名付けた」T字路sの、人生の荒波や逆風に立ち向かっていくような音と詞の世界がまるで巨大な岩石が転げ落ちてくるように迫ってきたからだ。

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